甘い
土曜日。久方ぶりに現実世界で体を動かしたくなったのでサイクリングしていた。とは言っても街中だが。
街中の川沿いをチャリンコに跨り爆走していると。
「何してるんですかーーーー!?」
「あれ? 桃? よぅ」
「ようじゃないです! なぜサイクリングしてるんですか!? 危ないですよ!?」
「大丈夫大丈夫」
桃は片目が見えない私を心配しているようだが大丈夫。
私は改めてペダルを漕ぐと、左側に少しデコボコがあり、そのデコボコでバランスを崩して、私は土手の方に転がり落ちる。
「わわっ!?」
「ほらーー! 今助けに……」
私は勢い余って川の中に落ちる。
「つべたっ!」
「川は冷たいですよ! 早く岸まで!」
「ちょ、川めちゃ増水してるし! うわっぷ、流れが強い……!」
「流されてる!?」
私は根性を見せる。クロールで岸までつこうとした時だった。
流されてきた鉄の何かに頭をぶつけ、岸から再び手が離れる。
「ちょ、マジで苦しい!」
「なんちゅう不幸の連鎖!? ちょ、だれかー!」
「こんの……!」
私は再び泳ぎ始める。
岸になんとか這い上がり、私は壊れてしまったチャリンコをかつぎ、家に帰ろうとすると。
「濡れたままじゃあれでしょう!? とにかく私の家に! ここから近いです!」
「気にすんな。マジで今年ついてねえな……」
「ついてないどころか運勢が殺しにかかってきてますよね……。お祓い行くべきでは?」
「お祓い行ったところで私にかけられてる呪いはとけそうもねえけどな」
本当になんなんだ今年は。
色々死にかけてる。マジで祟りかよ。私はとりあえず桃の家に向かったのだった。
桃の家はケーキ屋で、カサンドラの姉……アレクシアさんに挨拶をする。
「ずぶ濡れじゃない!? どうしたの!?」
「川に落ちたんす」
「昨日の雨で増水してたわよね……。なぜ飛び込んだの?」
「飛び込んだというか、チャリで転んで落ちたというか」
「カサンドラに似て後先考えないわね……。桃、着替えを貸してやりなさい」
「そのつもりー」
私は桃の部屋に案内される。
桃の部屋は至って普通の女の子の部屋って感じだった。本棚には教科書や参考書が置かれているほか、少女漫画らしきものもある。
私は本棚の一冊を手に取った。
「ホワイトリリィは咲き誇る……」
なんの漫画だろこれ。
開いてみると。
「おうっ」
開幕1ページ目にはえっちしている女の子同士の絵が描かれていた。
同人ってやつ……? いや、普通の文庫本だな……。え、こんなどぎついの読んでんの……?
「おまた……うわあああああ!? 何読んでんのー!?」
「……こういうの、したいのか?」
「いや! 物語の中でだけ好きなだけで! こういうのに憧れてるわけではないですからね!」
「いや……うん。人の好みはそれぞれさ。衣織はやってくれるよ……多分」
「そんな情報はいいですから! 返してくださいー!」
私は素直に返した。
それにしても、女の子同士の恋愛ね……。それもまた一つの愛の形でもあるのか。
女の子はかっこいい男の子が好きだと思っていたけど女も女が好きなのか……。
「百合漫画って私初めて見るんだけどこんなどぎついのばっかなの?」
「開幕Hシーンがあるのはこれだけです……」
「これだけ?」
「……他にも百合漫画持ってますよ。読みます?」
「……気になるから読んでみるか」
あの強烈な衝撃は忘れられない。
私は百合漫画を気がつけば読み耽っていたのだった。おかげでその世界の扉が少し開きかけた気がする。
「どちらかといいますと花音ちゃんは堕とされるより堕とす側ですよね」
「まぁ、男らしい面あるからな。こういう風か?」
私は桃の顎をくいっとあげる。
桃は少し顔を赤らめていた。
「ちょ、これ以上はダメです! 顔整いすぎです! そんな金髪ブルーアイズでこれ以上やられたら私死にますって!」
「へぇ。桃には効果あるな。ま、多分月能にはないけどな」
「ですね。"なにするんですか?"で終わりそうですね」
「似てる! 月能の真似似てるわ!」
「人真似は得意ですから!」
「二人とも、ケーキあるから食べにきなさい」
「はーい、ケーキだって。お母さんのケーキは美味しいんだよ」
「楽しみだな」
甘いものは好きだ。