アルテミスの苦言
二人を助け、一階に戻る。
助けてからというもの、少しワグマが不機嫌だった。というか、二人がむすっとしている。
「僕たちが苦戦してた魔物を簡単に倒すとはね……。なんかムカつく。いや、強いのは知ってたんだけど……」
「そうですね……。なんていうか、すごくムカつきます」
と文句を言われた。
「助けたのになんだよその言い草……。わあったよ。助けて悪かったな」
「いえ、助けてもらいたくなかったわけではないんです」
「ありがとう」
と、弁明するが、少し腑に落ちん。
なんか、少し嫌だな。私はため息を吐く。
「やめだ。ダンジョン探索。気が乗らねえ」
「……はい」
「……わかった」
私たちはダンジョンから出たのだった。
そして、私はワグマに告げる。
「じゃ、私はしばらくソロで行動させてもらうわ。そんな言い方すんなら私だって嫌になるぞ」
「……すいませんでした」
「ごめん」
「気にすんな。殴りかからないだけマシだと思えよ」
助けて、あんな言い方されたら誰だって嫌になるだろうに。それでイラつく私も私だけどな。
しょうがねえ。下山してどこか……。
「おやおや。仲間割れかい?」
「アルテミス、なぜここに?」
「ここら辺を調査していたら偶然君達がダンジョンから出てくるのが目に入ってね。木陰に隠れて聞いていたらどうやら君達仲違いしたみたいじゃないか!」
「面白そうにいうなよ……」
「人の不幸は蜜の味、とはいうだろう? まぁ、それで楽しめるような性格悪い人間では私もないからね。私としては今回、悪いのはどう考えてもワグマ君だと思う」
アルテミスははっきりと意見を言う。
「私からも苦言を呈させてもらうけれどね、君たちの妬み嫉みは構わないよ。嫉妬の感情は誰にだってある七つの大罪の一つさ。だが、覚えておきたまえ。世界は不条理だということを! 才能の有無は差が生まれるものさ。それは努力したって無駄。ならば少しは合理的に生きたまえ。才能の差を埋めるのではなく、違うことで勝負をするということを」
「わかったように言いますね」
「私が嫌というほど実感しているのさ! ワグマ君。ミナヅキ君。君たちだって、ゼーレ君にないものを持っている。ゼーレ君がそれに嫉妬していなかったわけがないだろう」
「……まぁな」
「ゼーレ君は私と同じ、特定の感情以外の感情を表にはなかなか出さないからね。わかりづらい面もあるとは思う。が、付き合いが短い私よりゼーレ君のことをわかっていない現状、少しは危機感を抱いた方がいいとは思うね」
アルテミスはワグマたちにばっさり言い放った。
たしかにな。ワグマよりアルテミスの方が私をわかっている場面も多々ある。
アルテミス自体、人間をよく観察しているからだろうけどな。
「さて、では私はしばらくゼーレ君と行動させてもらうよ。君たちは君たちで強くなってみるがいいさ。これは君たちに送る私たちからの試練だと思えばいい」
「試練?」
「試練の最終関門は……。少なくとも三人で組んでゼーレ君を倒せること。そうでなければ君たちはずっと嫉妬したままじゃないかな」
「……わかりました」
「わかった。それでいいのなら」
「ゼーレ」
「……いや、いいけど。あの、私が言うのもなんだけどさ、大丈夫? ちゃんと人をカウントする?」
「どう言う意味だい?」
「ワグマって割と性格悪いから自分の配下はものだからとか言いそうではあってだな」
「……あの、嫉妬とか以前に少しムカついてきました」
と、思いっきりドロップキックをかましてきたのだった。
「仲直り、早くないかい?」
「私自身こういう真面目な雰囲気そこまで好きじゃねえんだよ」
「どうせどこかでふざけてくるとは思ってましたよ」
「君たちはそこだけは理解不能だよ。だがしかし、修行はしたまえ。いやでもね」
アルテミスは苦笑いしながら告げたのだった。