蒼眼の死神、ナーフされる
入院して五日目。なんか、もう退院できるとか言われた。
傷口周辺の傷も大方治ったようで、左目がないこと以外は日常生活と変わらないくらいの生活を送れるらしい。
ということで、病院で待ってるのもアレだし退院するという旨を伝えたら、桃の父さんが。
「包帯ではなくこれをつけるといい」
と、黒い眼帯を手渡してきた。
海賊がつけるようなアレ。私は包帯をとり、左目に眼帯を当てる。少しはかっこよく見えてるだろうか。
「んじゃ、あざっした」
「迎えに来てはもらわないのかい?」
「五日も運動しなかったし、歩いて帰りたいんす」
動けないのはつらかった。
病院から出て、私が向かった先は自分の高校。今は授業中のはずなので、だれもいないが、なんとなく見ておきたかったというのもある。
私が高校前に行くと、体育教師の萩野先生が立っていた。
「せんせ」
「おお、市ノ瀬か! けがはどうだ?」
「左目失ったこと以外は無事ですよ」
「そうか! まぁ、喧嘩はほどほどにな。こういう危険もある」
「へーい。で、今何してんすか?」
「3年合同の体育でな。マラソンだ」
「……私も参加しても?」
「怪我が大丈夫ならいいぞ」
「よし」
私は少し準備体操をする。
そして、コースのことを先生から聞いて、全力で走りだした。私が走っていると、目の前にはぜーぜー言ってる月能と衣織の姿。合同だからA組とかC組とか混じってるもんな。
「よぅ、お前ら」
「あら、退院したんですか?」
「今さっきな」
「なのに走ってんの!? なんで!?」
「五日も運動できなかったから体が固まってんだよ。少しマラソンに参加してるだけだ」
「あの怪我で五日だけで済むのはなかなかおかしいのでは?」
「もしかしたら私人間やめてるかもしれん」
石仮面とか被ったわけじゃないんだけどな。
「てか! 私たち全力で走ってんのに余裕そうな顔が腹立つー!」
「あ? これぐらい余裕だろ」
「余裕じゃないですよ……。もうむりです、少し歩きませんか」
「そーだね。つかれたぁ」
と、二人のスピードが緩まる。
すると二人の背後から見慣れた人が来た。
「あれ、花音さん、退院したんですか?」
「ししょー! 退院したんですねぇ!」
日向と桃だ。
二人はジャージを脱いでおり、桃は汗で少し下着が透けている。気づいてんのか知らねえが、私は衣織のジャージを無理やり脱がし、桃に手渡した。
「なにするのぉ!」
「桃の下着透けてんだよ。お前な……」
「ふぇ? あっ!」
「私なら透けてもいーってのか!」
「お前汗かくほど必死に走ってねえだろ……」
「まぁ、そうですね」
「えへへ。今日に限って透けやすい色着けてきちゃいました」
こいつ意外と抜けてるところあるよな。
「ほら、歩いてねえでいくぞ。時間は有限だからな」
「そうですね。あともう少しです。がんばりましょう」
「もうつかれたぁ~。ジャージの上もとられちゃったしー」
「花音は貸せませんしね。私か衣織だったら衣織のほうがよかったのでしょう。スタイルも似ているのでサイズがあいそうですから」
「むぅ~」
「文句言ってねえで……っと」
私は歩道においてある消火栓にぶつかるところだった。
「左目見えねえからたまに気づかねえときあるな」
「失ってしまった弊害ですね。左側は私たちが気を付けるしかありません」
「現実世界で師匠がナーフ食らってしまいましたからね!」
「ナーフって言い方やめろ」
まるで私が環境キャラだったみたいじゃん。