仲間が増えた
隣町の廃工場にその不良集団を呼び出した。
不良集団は原付で現れ、金属バットなどの武器も持っている。
「あの黒髪の女はどこだァ!」
「そうせかせかするなよ。女ならここにいるだろ。私が」
私は木刀を手に不良集団の前に立つ。
「テメェじゃねえ! 怪我したくねぇんなら帰れや」
「帰れ……? こんな楽しい喧嘩の最中に帰るバカがどこにいんだァ……?」
私はまず一人木刀でぶっ叩いた。
「私のダチに手ェ出してんじゃねーよ」
「ひっ……」
「何ビビってんだ! 女だろ! 死なねえ程度になぶり殺せ!」
「矛盾してるぞ」
私は木刀を捨て、素手に移行する。
鼻の穴に指を突っ込み、力一杯引っ張る。
「は、ひゃなもげるぅ!」
「うるせぇな」
私は下顎にアッパー。苦しそうに男は顎を手で押さえた。
私はリーダー格の男を見る。リーダーを張るだけあってそれなりに強そうだ。
だがしかし、妙なのは胸元に妙な膨らみがあること。私が疑問に感じていると、そのリーダーの男は痺れを切らしたのか胸元に手を突っ込んだ。そして取り出したのは。
「拳銃……? テメェそんなのどこで」
「警察から掻っ払ったのさ! 死ね!」
と、銃が私に向けられ、発砲。
肩に銃弾を受けた。貫通した穴から血が垂れる。
「そんなもん、使ってんじゃねぇよボケが!」
私は拳銃を奪おうとして、近くにあった木刀を拾いぶん投げる。
木刀が男の手に当たった。だがその前に銃弾が一発放たれ、その弾は。
「んぐっ……!」
私の左目に直撃したのだった。
私は思わずその場に膝をつく。左目が見えねえ。痛えし、なんだか意識が朦朧とする。
だが、喧嘩はまだ終わっちゃいねえ……!
私は立ち上がり、男のもとにむかう。
「はぁ!? なんで立てんだテメェ! 目ェうったんだぞ!」
「知るかよ……。とりあえず、左目やった落とし前だけつけろや……」
私は男の顔を掴んで思い切り膝蹴り。
男は前歯が折れ、そのまま地面に突っ伏した。すると、サイレンの音が聞こえてくる。
「警察か……」
「死ね!」
男はまだ意識があり、ナイフを隠し持っていたのか私の顔面を斬りつけた。また左目。
警察が駆け寄ってくる。
「園崎 隼人! 逮捕する!」
「おい、この子目ェ撃たれてるぞ!」
「パトカー乗せて病院に連れて行け! 意識は!」
「ある……。なんのこれしき……」
ああ、もうダメだ。
意識が……。
目が覚めると病院だった。
視界が狭く、右目しか見えない。
隣にはうとうとしている月能と衣織。そして、椅子に座りながら寝ている茂原さんに、アルテミス……侑李と本田、菅原がいた。
私は身体を起こす。すると、月能が目を覚ました。
「おはよう」
「……花音」
「私どんぐらい寝てたんだ……。マジで死にかけた。くっそ、左目見えねえ……。やっぱ目失ったのかよ」
「花音っ!!!」
と、月能が大声を出すと、全員目を覚ました。
「よかった……。生きてた……」
「花音くん。おはよう」
「……そういや桃は?」
「今来ます……。ほんとに、生きててよかった……」
「目ェ撃たれたから死ぬかと思った」
「それが普通当たり前だよ。話によると、君、目撃たれてなお反撃したそうじゃないか。普通じゃ考えられない芸当だよ。まぁ、射出角度に救われたね。脳のぎりぎり下を貫通していたそうだ。中に入ってたらもっと生きている確率は低かっただろうね」
そうなのか。私は悪運だけは強いらしい。というか、月能がいう通り私がこんな目に遭うのは呪われてるからっていうような感じがしてきた。
「君が撃たれたって聞いた時は僕たち耳を疑ったよ。仕事の楽屋で聞いたものだから撮影がうまくいかなかった。まぁ、生きててよかったよ」
「無茶しすぎだ。反省しろ」
「……こればかりはね。茂治さん、すんません」
「いい。人助けのため、なのだろう? 緒方さんから聞いた。だが……人を助けるために君が犠牲になっていいということではない。肝に銘じておくことだ。他人の幸せを願うのもいいが、君自身の幸せも願え」
「……うす」
私は再び身体を横にする。
「茂治さん、父さんを連れてきました。大事な話があると……」
「その、申し上げにくい……って、目覚めてるじゃないですか!?」
「えぇ!? まだ3日しか経ってないよ!? というか、目覚める確率って相当低くなかった……?」
「……君、身体どうなってるんだい?」
「さぁ……。タフなのが私の売りだから……」
「北海道で車に轢かれたあと、私たち二人を担いで家に戻ってましたね」
「あったあった!」
「あったじゃねえだろ! 車に轢かれたァ!?」
「…….君は一回お祓いにでもいっておくか?」
とみんな可哀想な目で見てくる。
いや、マジでなんなんだろうな。あらゆる厄災が私の元に訪れてる気がする。
「それで大事な話とは?」
「いえ、彼女はもう目覚めないかもしれないということなのですが……杞憂でした」
「そうですか。お手数をおかけして申し訳ない」
「いえ、私の娘を助けようとしてくれたのです。こちらがお礼を言うべきで……」
「桃」
「……はい。なんでしょうか!」
「まだありがとうって聞いてねえ」
「…………」
「ありがとうって言葉だけでいいからくれよ。それだけで私はいい」
「…………」
と、突然桃の顔から涙がぶわっと噴き出した。
「私があなたにこんなこどをだのんだがらぁあああ! 目失っでぇええええ……! ごめんなざいいいいい!」
「ありがとうって言えよそこは」
「ありがとうございまずぅゔゔゔ!!!」
と、桃は私のベッドでわんわんと泣き出した。
「一番辛かったのは桃だったよね。自分のせいでって追い詰めてたもん」
「だって……私がこんなこと頼まなかったら、こういうことにならなかったんでずぅ……!」
「いや、どっちにせよ首突っ込んでたと思う」
「喧嘩を聞きつけて駆けつけるのは早いですからね。鶏が先か卵が先かの違いです」
「まずはその喧嘩好きをやめたまえ……」
「そうだな。花音」
「うっ……」
「とりあえず、私は仕事があるからもういく。月能。ついていてくれ」
「わかりました」
「俺たちも行くよ。この後撮影があるから」
「お大事にね」
と、茂治さんと菅原たちが出て行ったのだった。病室内には桃と私と侑李、月能、衣織が取り残される。侑李はリンゴの皮を剥いていた。
「なぁ、桃。左目もう戻んねぇの?」
「戻らなくもないですが……。結構な年月かかります」
「へぇ、戻るんだ」
「昔、不死帝家の分家の人に電脳アバターの子がいたんです。その子のために人工で身体を作っていたけどその子は消されちゃって……そこからその技術を応用して細胞を再び作り出して体の再生ができるようになったんです」
「電脳アバター……。昔のアレか」
「ただ、その細胞を成長させるには人間の成長と同じくらいの年月が必要なので……。早くて5年後くらいでしょうか」
「ふぅん」
じゃあしばらくはこのままか。不便だな。
「左目が見えねえのは不便で仕方ねえ」
「人間は視覚で情報を得ますからね。まぁ、サポートは私たちもしますよ」
「私も! こうなったのは私のせいだし、それくらいさせてもらわないと!」
「私もする!」
「みな健気だねェ。ほら、りんごが剥けたさ」
「ありが……おまえ器用だなおい」
「リンゴの戦士さ。さぁ、頭からかぶりつきたまえ」
リンゴがまるでロボットアニメに出てくるロボットのような形にむかれていた。
これ軽く芸術だろ。
「なんかこれ食べんの私が敵役みたいで嫌なんだけど」
「そうかい? ならば妖精の方がよかったか」
「そっちはもっとダメだろ。モチーフが無機物なだけマシだなこれは」
私はリンゴを食べる。
「まぁ、私もサポートはするよ。友人だからね。クイズとか暇つぶしたいなら私に任せたまえ。いい暇つぶしを持ってきてあげよう」
「ゲームでいいわ暇つぶしは」
「桃くんと言ったかい? この状態でVRMMOはプレイして良いものかい?」
「大丈夫です! 過激な運動ではないので! それより、みなさんもやられてるのですか? VRMMO! フリファンを!」
「やってますよ。クランも作ってます。入りますか?」
「入る! 私友達とやるのが夢だったんだー! 私、ピーチって名前でやってるの! よろしくね!」
「私はワグマ、こっちがオイリ」
「私はゼーレ」
「ふむ、ゲームではアルテミスさ。よろしく頼むよ」
私たちの仲間が増えた。