アストロ
アプデが昨日終わり、私たちの話題はアプデのことしかなかった。
「世界ランキング私は何位かなー?」
「お前期待するなよ……。入ってなかった時のショックのほうが大きいぞ」
「だって私だって十分強いし!」
「そりゃ強いけど……」
上には上がいるもんなんだよ。
車が衣織の家の前に停まり、衣織が早速ログインしよー!と元気よく家の中に入っていった。ドアが閉まり、私たちは阿久津宅に向かう。
「実際、衣織は入ってるんでしょうか」
「いや……。少なくともハーレーより下、デイズとどっこいくらいだからないんじゃねえの」
「辛辣ですね。ですが、その評価は正しいとも思います」
厳しいことを言うが、衣織はまだ入るような器じゃない。
あれより強い奴なんてまだたくさんいる。というのも、衣織は自分の役職の立ち回りをきちんと理解してない。
理解していたら強いんだけどな。
「さて、楽しみですね。ゼーレは何位でしょうか」
「期待すんなよ……。スキルとかはガチ構成ってわけじゃねえし、スキルだって加味するんなら私は入ってないかもしれねえぞ」
「入ってなかったらさすがにランキングとして信用できませんから。大丈夫ですよ。ゼーレだけは絶対に入ってます」
「そう断言できるかね……」
と、月能の言うことは正しかった。というか。
「私1位ってマジかよ」
早速ランキングを見ると、クラン:クライノート所属 ゼーレという名前が一番上にあり、左側に1という文字があった。
私がトップ? まじで?
「アルテミスが言ったとおりですね」
「私入ってないー--!」
「上位30は私だけみたいだな……。あと見ろよ。2位から6位まで全員同じクラン所属してるぜ? すっげえ強いクランなんだな」
「その強いクランでもゼーレは越えられないということですか」
クラン名はアストロというもの。フランス語で星のとかそういう意味だったか?
アストロはたしかに耳に挟んだことがある気がするな。あそこは本当に強い人しか入れないクランだと聞いた。
「すごいですよね。上位の半分を独占するなんて」
「7位、8位、9位、10位、1位は違うクランなのにな。強くなる秘訣とかあるのかね? チート?」
「断じて否!」
と、クランの拠点の扉を勢い良く開けて入ってくる五人の男女。
「まずは初めまして! 俺はアストロクランリーダーのデネブ! 貴殿がゼーレだな?」
「声が大きい……」
「すまない! 声が大きいのが私の長所でね! 元気いっぱいだといつも言われる!」
「リーダー、それ俺もうるさいと思ってるんすけど」
「ほんっとにうるせえ」
「うるさいよねぇ」
「うんうん。うるさい」
と、メンバーからうるさいといわれていた。
ランキング2位がこのデネブってやつ。たしかになんだか強そうなオーラはある。
「で、うちのクランに何の用だよ」
「単刀直入に言おう! 私と手合わせしていただきたい!」
「だから近いからそんな大声じゃなくていいっての……」
手合わせ、ねぇ。
「いいよ。やろうか」
「感謝する! では、コロシアムへ移動しよう!」
と、元気よく外に出ていくデネブ。
「ごめんねぇ。あ、私4位のアルタイル。よろしくね。職業は魔法使いの上級職の魔女だよ」
「俺はアルゴル。職業は剣士! よろしくな。ちな3位」
「……ミザール、武術家、5位」
「リゲルですぅ。ハンターで6位でーす。ゼーレさんの職業は? 武術家ですか?」
「いや、まだ武闘家」
「え、武闘家……? 下級職のままでその強さ……?」
悪いかよ。すっかり忘れてたんだよ、上級職とかあるの。
「で、そちらは~」
「あ、ワグマです。こっちがオイリ。まぁ、上位30位にも入らない雑魚ですよ」
「そんな卑下しなくてもいいだろ。ランキングってのはあくまで目安だしな。それに、強さだけあってもろくなことねえぞ」
「そうそう! ゲームは楽しんだもん勝ち! って私たちが言っても説得力ないけど」
「そうだねぇ。でも、そこのオイリさんはものすごく楽しんでる……。っていうかぁ、なんか見たことある気がするのは気のせいかなぁ?」
「わかった! オイリさん、女優の花本 香里さんに似てる!」
「あー、たしかにそっくりさんだな」
と、オイリの顔をじろじろ見ている。さすがに有名な女優だからすんなり名前が出てくるか。
「その女優の娘だぞ」
「……ふぁっ!?」
「リアルネームは花本 衣織でーす! うちのお母さんのファンなの!? ありがとねぇ、いつも応援してくれてえ」
「……サインがほしいもんだな」
「うちのお母さんが大ファンなんだよねぇ。この前の刑事ドラマも面白かったしねぇー」
「そんな大スターの娘! うらやましいなぁ!」
と、衣織が囲まれていたのだった。
「私はデネブんとこいくか」
「いや、そろそろもっかい戻ってくるっすよ」
「どゆこと?」
「はーっはっは! なぜ来ないんだいお前たち! 私に寂しい思いをさせるつもりかな!?」
「ほら」
寂しがりやかよてめえ。