出航
家に帰り、書斎に入る。
上機嫌な様子の茂治さん。
「取引が決まった。これは君のおかげだ、花音」
「あ、うす」
「何が欲しい? 今ならなんでも買ってあげようか」
「欲しいもの……。最新型のヘッドギア?」
「ヘッドギア……。ゲームのか」
「はい。私が使ってんのすっげー古い型なんで。買い換える金もなくて使ってんすけど、最近たまにラグがあるんで買い換えたくて」
そういうとすぐに手配すると言ってくれた。
よし、私のヘッドギアを買い替えられる。私はウキウキ気分で部屋に戻りログインしたのだった。
ログインして甲板に出るとフロルアージュがニコッと微笑み返してくれる。
「よぅ、お前すげえやつだったんだな」
「聞いたんですのね〜。ふふ、おどろきました?」
「驚いたよ」
石油会社の石油王の……。
「月能……もとい、ワグマは船員の話受けるってよ」
「ふふ。よかったですわぁ」
「断れないってそういうことだったんだな」
「はい。とりあえず、二週間程度、あなたたちの時間をもらいますわ。ちなみに何人来ますの?」
「私とワグマと……多分あともう一人の友達だけだと思う」
「ふふ。では、待ちましょう〜」
といって数分後。
現れたのはワグマとオイリ、そしてアルテミス。
「船旅に誘ってくれないなんて水臭いじゃないか。ふふ、世界的大富豪と船の旅というのはそそるね」
「というわけで、行くメンバーはこのメンバーなんですけどどうでしょうか。フロルアージュ様」
「ふふ、砕けた話し方でよろしいですわ〜」
「いえ……」
「砕けてくれないと私、取引を……」
「わかりました。フロルアージュ」
こいつナチュラルに脅したな。
「船員私含めて五名。心許ないかもしれませんが、いざ、出港! ですわぁ」
「おー。で、各々の役割は? 船長とか操舵手とか」
「私は操舵手でいいですわぁ。船長は……ここはワグマさんでしょう〜」
「わかりました」
「その他は普通のクルーかい? まぁ、タイタニックのような結末にならないことだけは願っておくよ」
「不吉なこと言うなよ」
「ふふ、ではではー、ゼーレさん、錨を引き上げてきてください〜」
「おう」
私は船の中に入り、錨を巻き上げる装置を手でぐるぐる回す。
ゲーム内だからまだいいが、現実だったら相当辛いだろう。
錨が上げられ、船はゆっくりと動きだしたのだった。
帆船であるために操作は割と簡単……というか、風の流れを読む必要があるらしい。
ゆったりと、海を走っている。
「……暇だーーー!」
「暇ならログアウトして勉強でもしてろ」
「それもやだーーー!」
なんなんだコイツ。
一時間経って、オイリが暇だと爆発。たしかに変わり映えしない海だが、それでも暇か。
「どんくらい進んだんだ?」
「そうですねぇ。今日は風さんの機嫌がよろしいので結構進んでいるはずです〜」
「ふーん……。島とかなんも見えねえけど」
「そうですね〜。そろそろ見えてもよろしいはずなのですが〜」
その時だった。
船が揺れる。そして、海面から何かが出てきた。巨大なイカだった。
「なんちゅうでけえイカ……」
「大王イカって魔物です! ゼーレ、やりなさい」
「了解」
私は黄金武装と鬼神を発動。そのまま一撃を入れる。
大王イカの頭が凹み、そのまま一撃で倒れる。レベルもそこそこあるし、攻撃力が高まってるとはいえ一撃か。力こそ正義だわ。
「すごいですわ! あの大王イカを一撃!」
「ゼーレすごぉーい!」
「さすがに脳筋すぎませんか」
「力こそ正義なんだよ。火力に関してはもう一線級だぞ」
「パワー高くて戦闘能力もあって……。本当にあなたは戦闘兵器にでもなるつもりですか」
「いいなそれ」
戦闘兵器の私はさぞかっこいいだろう。