フロルアージュの正体
私は衣織の着せ替え人形になっていた。
服を手に取り、こっちが似合うかなぁ、とか頬を緩めて笑顔で服を選んでいた。
「ああ、そうだ。月能。フロルアージュってやつから船に乗らないかって誘われたんだけど行っていいか? 結構一緒に行動するみたいなんだが」
と、名前を言った時、服を手にしていた月能がぽとっと手に持っていた服を落とす。
「今、名前をなんと……?」
「だからフロルアージュ。船に……」
「ちょ、なんでそのことを早く言わないんですか! え、うそ、あなたが出会ったんですか!?」
「で、出会って悪いことでも?」
「逆です! いいことしかないんです! あなたが出会えたお陰で取引が上手くいきそうです!」
と、興奮気味だった。
「どういうことだよ。説明しろ」
「あ、ああ。そうでしたね。まず、フロルアージュが何者なのか、からお話ししないとなりません。とりあえず衣織。この店の女物の商品は全部買い占めておくので場所を変えましょう」
「サラッと言えるのすげえよお前」
月能はレジに向かい、何やら話していると女の人が飛び上がって驚いていた。
そして、何やらオーナーらしき人とたくさんの店員が現れ段ボールがすぐさま用意されて商品がどんどん積まれていく。
「なにこれ。引っ越し作業?」
「カードでお願いします」
「ぶ、ブラック……。あ、ああ、あの、ありがとうございます……! ま、またお越しを……」
「はい。荷物は後で取りにこさせますので。では」
と、話を終えて、喫茶店に行こうということでショッピングモールを抜けて近くにある喫茶店に移動したのだった。
コーヒーを注文し、月能は話し始める。
「まず、フロルアージュの正体についてです。彼女は、アメリカにある石油企業のマイケル・セイバーの娘さんなんですね」
「マイケル・セイバー?」
「端的にいえばアメリカの石油王です」
そこまで聞いてヤバさを理解した。
石油王の娘ってマジかよオイ。
「私の家……。阿久津家はそこと取引がしたい。交換条件として、娘がゲームをするから、ゲーム内で娘と出会うことと言われていました」
「……なぜ?」
「もしも自分達が阿久津ファミリーと取引する運命なのならば、ゲーム内でも絶対に会えると。広い世界の中で、さまざまなゲームの中で出会えたとしたらそれは運命の相手だということでした」
「運命て……。運命論者かよ」
ゲーム内で阿久津家と出会えたのなら、取引をするという条件だったようだ。
「失敗条件は娘がゲームに飽きてログインしなくなった時。今まで会えなかったんですよ。そもそもなんのゲームをやってるのか。私たちがやっているゲームではない可能性だってあったんです」
「ほえー……」
「運命なんてものは私は信じてませんが、ラッキーですね。あちらにも話は行ってると……。と、父から電話です」
電話に出る月能。電話越しの茂治さんの声はものすごく昂っていた。
「ええ。花音が出会ったようです。はい。では、そのことを伝えておきます」
と、電話が切られた。
「花音、帰ったらすぐに父の部屋へ」
「説教?」
「とんでもない! あの石油王と取引できるのはウチにとっては大きなメリット! そもそもセイバー家は顧客をそこまで作らないんです。取引相手をものすごく選んでるんですよ。日本の企業でも取引しているところはありません。今までは」
「……そこと取引できること。それ自体が大きな名声となるのか」
「そういうことです。あそこの石油は質がいいですからね。父もものすごく上機嫌でしたよ」
ということだ。怒らせてないみたいでなにより。
「では、早速帰りましょう。花音にはきっとご褒美があると思いますよ」
「ご褒美ねえ……」
「衣織も送っていきましょうか」
「待って、まだ注文のやつ来てない!」
「あ、そうですね。それ食べてから行きましょう」