あなたがいたからこそ
警察がやってきて事情聴取を受けてやっと解放された。
警察署の前では球磨川さんたち、侑李と月能が待っていた。
「そういえば、お三方はゲームというものはやっておられるのですか?」
「やっているとも。風のうわさで君もやっていると聞いたが、本当かい?」
「友人に誘われましてつい先日始めさせていただきました所存で」
と、三人がゲームについて盛り上がっていた。
私の隣に球磨川のばあさんが立つ。
「たしかに、君も月乃に似ていなくもない」
「……信じてないんですか?」
「信じている。君の生まれのことも。だがしかし、長く生きている私からのアドバイスだと思ってほしい。きっと君は自分の出生について、いろいろ思うところがあるだろう? 望まれてないとか、呪われているとか。だからこそ、不良という道に入ってしまったかもしれない。だがしかし、運命ってのはわからないもんだ。私も、月乃たちと出会っていなかったらろくでもない最期を迎えていたかもしれない。だからこそ、出自はともかく、月能たちに感謝することだ。運命というのはきっとある。ばかばかしい話だと笑うかもしれないが、とにかく、君の運命を呪うな」
と、忠告するかのように私の目を見てまっすぐと。
運命を呪うなって言われてもそれは困る。私自身、望まれてない、忌むべき存在、阿久津家にとって膿のようなものだとは理解している。
汚い生まれであることも理解はしている。だからこそ、運命というものがあるのならば、呪うとは思う。
呪うななんて……。
「君は幸せになれる。阿久津家はそういう家だ。人を変える力を、月能はもっている」
「……そっすか」
たしかに、それはなんとなくわかる気がする。
月能についていくと、妙な安心感がある。私も変われるんじゃないかと淡い希望を昔抱いたこともあった。
「では、ゲームでまた会いましょう。おばあ様。いきましょう」
「では、再びゲームで相まみえようじゃないか!」
「そうですね。花音、行きますよ」
と、私は月能に手をひかれ、車に乗せられたのだった。
運命を呪うな、か。
私たちを乗せた車は走り出す。
「なぁ月能」
「なんでしょう?」
「運命って信じるか?」
「……いきなりなんですか? 哲学の話でしょうか」
「そうじゃねえよ。いや、私も信じちゃいねえけどさ、もしも私と月能が出会うことがなかったらどうなっていたんだろうかって思ってよ」
「そりゃ……。学校でも孤独だったと思いますけど」
「大体今も孤独に近えから変わんねえよ」
「あと……。こうして一緒に車に乗ることも、当たり前ですが話すこともない。ましてや、あなたがゲームすることなんてなかったでしょうね」
そうか。そうだよな。
私は確かに誘われなきゃゲームなんてやらねえ。
「……月能は私と出会えて嫌だったと思ってるか?」
「急にしおらしいですねぇ。らしくないですよ?」
「いいから答えろ」
「はいはい。では、まぁ、取り繕いも、誇張も嘘もなしで本心を語りますと、嫌ではないですよ。私もあなたと出会えなければここまで楽しいと思えてないでしょう。あなたがいるからこそ、私たちは毎日楽しめるんですよ」
その言葉を聞いて、少し私は救われたような気がした。
不良という私を肯定してくれて、呪われた私を受け入れようとしてくれて。月能はたしかに人を変える力がある。そう心から理解できた。
「球磨川さんと会ったことで、あなたも思うところができたみたいですね。私じゃあなたの心は動かせませんでしたが。さすがは年の功でしょうか」
「馬鹿言うなよ。お前も十分動かしたさ」
私も少しは変わっていかないとな。月能のためにも。