アルテミスという女
闇の神の捜索は明日に持ち越され、私は晩御飯を食べた後、鍛え上げようとトレーニングルームへ向かう。
ベンチプレスなどの本格的なマシンが揃っており、鍛えるには持ってこいだろう。
私はとりあえずランニングマシンを起動し、走り出す。速度は最高速度に設定した。
私が走っていると、隣に月能がやってきた。月能も走るらしい。
「お前運動するんだな」
「こんな良い器具があるのですから使わないわけにはいきませんからね」
「ふぅん」
私は前を見て走る。
「アルテミスは私の祖母の友人の娘でした」
「何だ急に……。祖母の友人?」
「はい。阿久津 月乃が私の祖母なのですが、そのご友人の夢野 眠という方のお孫さんということで」
「……へぇ、世界は意外と狭いんだな」
「そうですね。そこでなのですが」
「ふん?」
「アルテミスと明日、現実で会うことにしました」
「ほう、じゃあログインはしないんだな」
「はい。あと、花音も来てください」
「は?」
意味がわからない。
私はそもそも……。
「月能の祖母にすら会ったことねえのに夢野ってやつが分かるわけねえだろ。私にゃ……」
「お願いします」
「……わあったよ」
なぜ私が会わなくてはならないんだろうか。
「また昨日みたいなこと考えてねえだろうな」
「いえ、私も関係ありますから。夢野と……もう一人球磨川という女性を連れてくるそうです」
「夢野に球磨川……。球磨川ってまた珍しい名字だな。たしか数十年前に球磨川って苗字の柔道家がいたが、もしかしてその球磨川の?」
「孫らしいですよ。というかよく知ってますね。60年近くも前の話ですよ?」
「柔道の歴史の本に載ってたんだよ。へぇ、その球磨川の」
筋肉質とはお世辞にも呼べない見た目だったが、オリンピックに出ては必ず金メダル。生涯負けを知らず、生ける伝説となった球磨川 白露という柔道家。
今生きていれば74くらいか。
「その球磨川と、夢野と、阿久津家が友人関係だったのか? 奇妙な話だな」
「そうですね」
「70近くの婆さんになってもまだ友人なのか?」
「いえ……。私の祖母と夢野さんは早死にしましたから」
「あ、わり」
「いいんですよ」
じゃあ球磨川さんだけか。
「球磨川さんも明日は来るらしいので……。私も初めて会います」
「……会ったことねえの?」
「二人と会うのは教育に悪いと祖母が言ってまして、会わせてくれませんでした」
教育に悪い?
「片方は人の心がなく、片方は柔道バカなのですぐに取り組みにかかるとか……」
「なにそれこわ」
人の心がない女と柔道バカ……?
柔道バカってことはそっちは球磨川さんだろ? じゃあ人の心がないのは夢野……。
アルテミスもたしかに人の心を理解こそしているが、気を遣ってる様子もない。
アレより酷いのだろうか。
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