仲直り
宿屋でオイリと共にログアウトしようという話になった。
明日は、あのワグマの考えを見抜いてやると思いながら、ログアウトボタンを押そうとしたとき、部屋の扉が大きな音を立てて開かれる。
「あん?」
「ゼーレ、オイリ。ちょっといいですか」
「ワグマ!」
と、オイリはワグマに飛びかかった。
「私怒ってるんだよ! なんで教えてくんないのー!」
「い、今から教えますから。やめてください」
「……教えてくれんの?」
「はい。まぁ、理由はゼーレですから」
私?
私はしょうがないので、部屋に入れてやり、椅子に座る。ワグマは地べたで正座していた。
いいとこのお嬢様が地べたで正座とは滑稽というか。
「んで? 理由は」
「その……。オカルトの話になるのですが」
「オカルト?」
「ゼーレ、あなた呪われてるんです」
「私が?」
何を言い出すんだこいつ。
「呪いというのはそう簡単に解けず、解くには月の光ではなく太陽の光……。つまり、あなたを幸せに出来るのは私ではなく、オイリ、だと思いまして」
「ふんふん」
「それで……。まぁ、私がいても幸せではない、かと思いまして。有名な令嬢ですし、あなたと一緒にいたらあなたに迷惑をかけてしまいますし」
「ふぅん」
嘘をついてるようには見えねえ。
「くっだらね……」
「くだらなくないよ! ワグマだって真剣に……」
「お前どっちの味方なの? くだらねぇよ。私を幸せにするのは自分じゃできないとかほざきやがって。北海道で言ったあの言葉はどうしたよ」
「…………」
「まぁ、なんでもいいけどよ、そういうのは私には秘密にしててもコイツには喋っていいし、なぜお前は秘密ですとか言わねえ?」
「…………申し訳ありません」
「謝ってほしいわけじゃねえ。理由を言え」
「……突き放したかったから」
「だろうよ」
「私という存在が邪魔になるであろうから……。私が嫌われればよいと」
安易な考えだな本当に。
私はワグマの胸ぐらを掴み、一発お見舞いしてやった。
「テメェから関わってきてテメェから絶縁宣言は無しだろ」
「…………」
「ゼーレ! 殴る、ダメ!」
「もう殴らねえ……ってかなんで片言なんだよお前は。一発殴ったんだ。これでケジメつけたってことにしてやる。ったく、お前頭いいのにバカだよな」
「……耳が痛いです」
「殴られたから!?」
「お前は……」
例えだろ。てか、耳殴ってねぇし。
「本当にごめんなさい。これからはあなたたちにも相談することにします」
「おう」
「うん」
「早速で悪いのですが……」
「なんだ?」
「一発殴らせてください」
「は? なんで……」
と、私は夕食時のことを思い出す。
そういえば、テーブルをバンっと思い切り叩いて来たんだっけ。あの時少し甲高い音がしたような。
「……えーと」
「あなたがテーブルを壊したんですよ。アレは高いんです」
「……お前が怒らせるから」
「怒ったからとはいえ、テーブルを叩いて威嚇というのはマナーに欠けるとは思いませんか?」
「お前やっぱ少ししょげてろよ! なんで!? お前謝ってスッキリしたから怒ってるんだろお前!」
「何のことでしょう」
こいつ……! やっぱ性格悪い! 仲直りする気満々だったんじゃねえか!
ここまで見据えて……なわけねえな。とりあえず。
「ログアウト!」
逃げる。