◇ 性分
私たちは洞窟型のダンジョンは難なく攻略できた。
というのも、ゼーレ君、オイリ君がものすごくイライラしているようで、八つ当たりするかのように敵を蹴散らしていたのだから。
「何をそんなに怒っているんだろうねェ……」
気になる。
気になったことは調べないと気が済まない。私は心当たりがあるであろう人に聞きにいくことにした。
まぁ、ワグマ君なんだけどねェ。
「ということで、君なら何か知ってるんじゃないかな。ワグマ君」
「いえ……」
と、右上を見て話す。
「わかりやすいねェ。嘘ついてるのがバレバレだよ。嘘をついてまで自分は関わってないとでも言いたいのかい?」
「……怒らせたのは私です」
「ほう」
まぁ、ひた隠したい理由は怒ってる理由がわかっていて、自分が関わっているから、だろう。
阿久津 月能。一筋縄じゃいかないお嬢様だ。嘘が下手すぎる。
「あなたなら察しているのでしょう。私が関わっていること」
「もちろんさ。二人が怒る理由はそれしかないだろうからね。それで、何を二人にしたんだい?」
「…………」
「黙秘権を行使するのかい? やましいことをしたわけだ」
「……あなたって性格悪いですよね」
「何を言うか。私ほど優しさに溢れてる人はいないと思うがね」
「なら、なぜそっとしておくことをしないで他人のことに口出ししてくるんですか?」
「今私の優しさは君には向けられていないからだよ。それぐらいは理解したまえ」
私の婆さんが言っていた阿久津家のお婆さん像。強情で、しょげない強い女。
そのお婆さんの孫だとは思えないくらい弱い。
「いいから話したまえよ」
「……私が、二人を突き放したんですよ」
「なぜ?」
「なぜって……そこまで話す必要が?」
「気になる。もしかして、二人にも理由は話していない、のか? なら怒る理由もわかる。オイリ君はともかく、ゼーレ君は私と同類だからね」
「同類?」
「気になることを不明確にしておきたくない。私もゼーレ君も同じだろう。私はともかく、ゼーレ君のことは君はよくわかっているだろうに。それがわかってまでなぜ理由を言わない?」
「……傷ついてしまうだろうから」
傷つく、か。
傷つけることを厭って、黙っていることにした。
そのおかげで二人は怒った。
「なるほどねェ」
「これで満足ですか?」
「満足するわけがない。まだ、突き放した理由を聞いていない」
「……笑わないでくださいね。あなたが笑うオカルト分野ですから」
「ふむ」
オカルト?
「呪いって信じますか?」
「基本的には信じていない」
「でしょうね。ですが、ゼーレが家に来てから呪いのように不幸が続いてるんです」
「不幸?」
「収益が少しずつ下がり始めていたり、事故が起きかけたり……。呪いのように不幸が降り掛かってるんです」
「ほう。運がないね」
「だから考えました。もしかしたらゼーレは呪われているのではないかと。あの子は呪われるべき生まれで、その呪いがまだ解けていない……と」
「生まれに関してはそうだろうねぇ。私も盗み聞きはした。不倫で生まれた子だろう? たしかに、生まれは呪われるべきだろうねぇ」
「その呪いを解くにはどうしたらいいか。あの子に光を見せないとダメなんです。私はその光を与えられません。月ですから。太陽となる存在が必要なんです」
なるほど。
そこまで聞いて大方理解はできた。
「月である君はゼーレ君を幸せにできないと踏んだのか」
「はい。なので、太陽であるオイリに任せようと」
「だとしても、突き放すのは違うんじゃないかい?」
「……いえ、月がいては太陽は」
「月は太陽の光を反射して地球を照らすのさ。年がら年中、太陽ばかりでもむしろ逆効果。君は賢いけど、どこか抜けてるねぇ」
「…………」
それだけ必死だったということだろう。
ゼーレ君について、今まで必死に考えてきた証だともいえる。
「……そうですね。私が間違ってましたか。申し訳ありません」
「気にしなくてもいい。私は気になったから聞いただけさ」
「ふふっ……。あなたを見ているとお婆さまの友人を思い出します」
「夢野って人のことだろう?」
「……なぜあなたがその名を?」
「私の本名は武宮 侑李。祖母の旧姓は夢野。ここまで言えばわかるだろう?」
「…………」
驚いた顔をしていた。
「私の祖母と君の祖母は友人だったのさ」
「……なるほど。だからあなたにも武宮さんの面影が」
「ククク……。君なら気づくと思っていたがねぇ」
「私、鈍いので」
「そのようだ」
ワグマ君はふふっと笑う。
「まぁ、二人のところに行きたまえよ。宿にいるよ。そのことを話しても二人は怒らないさ」
「……わかりました」
「もう二度と世話を焼かせないでもらいたいね。私は焼くより焼かれる方が好きだから」
「気をつけます」
と、ワグマ君は宿に向かって行った。
私の役目は終わりだね。さて、私は錬金術の続きでもやろうか。