下着のお話
新学期が始まって、最初の帰り道。
私たちは寄り道しようということになり、ショッピングモールにやってきていた。新生活応援フェアというのをやっており、人がものすごくにぎわっている。
「来たはいいが……。私にゃ買うもんねえぞ」
「私はあるよん! 新作のブラ見たい!」
「……あっ」
と、何かを思い出したかのように突然立ち止まる月能。
「すいません。少々用事を思い出しまして」
「用事?」
「はい。これから帰らねばならないんです」
「そうなの? じゃあ、今日はやめとく? 月能用事あるんなら」
「そうだな」
「いえ、二人で楽しんでください」
そういって、走ってきた道をもどっていく月能。
用事か。あるんなら月能は忘れなさそうだけど。何か企んでいたりするのか? イベントごとでサプライズとか……。
そうだとしても、誕生日は全員近くないし、理由がない。
「月能もドジだねー」
「……そうだな」
何を企んでるかは知らないが、ドジってことにしておいてやろう。
「で? 新作のブラか?」
「うん! 新作のブラみてぇー、映画見てぇー」
「映画も?」
「気になってる映画があるんだー! だから一緒にみーよぉ?」
「わかったよ」
まずは下着売り場に行くことになった。
下着エリアは相も変わらず女ばかりというか、女しかいない。当たり前だが。この場所に男は来づらいだろうしな。
衣織がランジェリーを手にして目を輝かせている。
「下着なんてつけれりゃ同じだろ……」
「あ、これかわいー! 私に合うサイズあるかな?」
「なぁ、私この場所いづらいしあそこで待機してていいか」
「かのちんも女の子だからいづらくないじゃん!」
「こんな女女している雰囲気苦手」
「女の子なのに?」
「うるせえ。あそこでジュース飲んで……」
「そういわずに!」
と、衣織が抱き着いて引き留めてきたのだった。
無理に引きはがすわけにもいかず。付き合うしかねえのかよ。
「ねぇねぇ、これかのちんに似合いそうだよ?」
「はぁ? んだそれ。なんでそんなふりふり……。嫌だぜ。私は別にいらねえ」
「ダメダメ! 女の子に生まれたからには内面のおしゃれも大事だよ! たまにはこういうかわいい下着をつけないと!」
「別に……。女の子に生まれたくて生まれたわけじゃねえし、望んで生まれてきたわけでもねえし……」
「でも生まれちゃったんだからねー。ほら、買ってあげるからつけてきなよ!」
「はぁ!? いいって」
と、私の話も聞かず、レジに持って行っていた。
購入し、私に渡してくる。
「あそこの試着室でつけてきて!」
「……お前がつけろよ」
「私に合うサイズじゃないし。かのちんにしか合わないよ」
「……」
「なんでそこまで拒むの?」
「だって……つけたことねえし」
「……ふぇ?」
私の返答が意外だったのか、少し呆気に取られていた。
「こういうブラなんて私つけたことねえんだよ。買ってもらったこともねえし」
「…………じゃあ、今までノーブラだったの? まじで? 擦れるんじゃない?」
「ばんそうこうつけてるし……」
「それだけ!? 駄目だよ!? ってか、型崩れもするし! 今すぐ買いそろえよう! さすがにノーブラはだめだよ!?」
「…………」
試着室まで行って、私はブラのつけ方の指南を受けた。
「なんでもってないの」
「買ってもらったことねえっつったろ。出生については話しただろ。あの孤児院は買ってくれることもねえし、前の親は最低限のお金しか出さなかったから買えなかったし。仕方ねえんだよ」
「最低だねー……。とりあえず今日からつけよう。ね? かのちんおっぱいはあるんだしつけなきゃだめだめ。これだけじゃなくてほかにも買ってあげないとねー。かのちんの闇深さあなどってた」
「闇深いってお前な」
私は一応ブラをつけてみた。
に、似合わねえ。鏡で確認してみるが、似合ってない。というか、改めてみると私ってやっぱり女性なんだなとは思うけど……。
「……これが自分なのが超はずい」
顔だけはいいんだよな。顔だけは。
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ガイドラインには多分引っかからないだろう(恐怖)