蒼眼の死神
イリーナは私たちにバフを付与してサポートに徹してくれていた。
魔物を倒しながら、森を歩いていると、背後から誰かの気配がする。私はイリーナを守るように後ろを歩き、背後の気配に注意しながら進んでいく。
すると、突然背後から剣を持った男が襲い掛かってきた。
「なっ……!」
「イリーナを放せ!」
私は剣をかわし、相手を蹴り飛ばす。
「いきなり襲うことねえじゃねえかよ。なぁ」
「うぐっ……」
蹴り飛ばされた相手は、再び剣を構え直し、私めがけて突撃していった。すると、その男の仲間だろうか。その男の仲間はオイリたちを拘束していた。
動くな、と私に告げられる。
「…………」
「ご、ごめんゼーレ。人質にされちゃった……」
「チッ……」
動けば殺すと言われている。
こんにゃろう。卑怯な真似しやがって。そんな真似するのは確かに戦術としては正しいかもしれないが、人の心で言うのならマイナスに決まっている。
それに、私が動いたらキルするなんていうのはずりぃ。
「やめてください、リーダー!」
「イリーナ。助けて……」
「この人たちが助けてくれたんですよ!!!」
と、イリーナが叫ぶ。
すると、リーダーと呼ばれた男が、は?という顔になった。
「そ、そうなの、か?」
「そうです! 私はその、この方と一緒に行動してただけです! なぜ最初そういう事実確認をしないんですか!」
「す、すまない!」
と、剣を下ろす。
オイリたちも解放されたようだ。私はリーダーに近づく。リーダーの胸ぐらをつかんだ。
「てめぇ……。いきなり剣を振り下ろしやがって。そういう覚悟はあるんだろうな。人様の友人を盾にするのもムカついてるんだぜ」
「す、すまなかった……。謝るし、謝礼もする。本当に、申し訳ない……!」
「申し訳ないで済んでたら私ここまでキレてねえよ。なぁ、おい」
「そこまでするんです」
「いでっ」
ワグマが私の後頭部を思い切りたたいた。
私はしょうがないのでリーダーと呼ばれる男性をその場に下ろす。誰もがほっと一息ついていた。ちくしょう、ちょっとイラつきが止まらねえ。
「本当にすいませんでした!」
「……チッ」
「いえいえ。今度からはちゃんと事実確認をお願いしますね? こういう間違いは誰にだってありますから、短絡的に行動せず、ちゃんと確認してからしましょう」
「はいっ!」
「私からの説教は以上です。オイリはなにかありますか?」
「なんかドラマの人質役みたいで面白かった!」
「その感想出てくんのがある意味さすがだよ」
「ゼーレは? 今度は手ではなく口で説教ですよ?」
と、二人が私を見てくる。
チッ。こういうのは暴力でわからせたほうが早いし、そんなやり方しかやってこなかったから口でなんていうのはちょっと難しい。
私は言葉に詰まってしまう。
「まぁ、なんだ。気を付けろ」
「ふふっ。頭は充分冷えてきたようですね」
「うるせえ。興が冷めただけだ」
「うちのもすいませんね。もともと不良なんでこの方。ちょっと頭に血が上りやすいんです」
「……あっ」
と、一人の男が声を上げた。
私はその男を見る。どこかで見たことがあった。
「も、もしかして……蒼眼の死神……?」
「なんだよそれ」
「俺が住んでる関東地方では有名な不良です! 喧嘩がめっぽう強くて、一人でやくざを壊滅させたとか伝説があります。俺が戦った時は中学二年生で、同い年だった記憶がありまして……」
「そんなやべえやつなの、か?」
「あなたそんな風に呼ばれていたの?」
「……恥ずかしいからやめろ。なんだよ蒼眼って。中二病だろそれ」
確かにそう呼ばれていたのは知ってるけど。
だが、噂に尾ひれがつきすぎだ。やくざを壊滅させたことはない。戦ったことはあるが、恐れられているだけにしかすぎない。
「お前、もしかして帝蘭中の島本か」
「ひっ、覚えられてた……」
「一発ぶんなぐられたからな。よく覚えてる」
私はその島本に近づいた。
「ひっ……! 今はもう真面目に過ごしてますから! なにもしてないですから! 許して……」
「いや、怒ってるわけじゃねえよ。顔なじみと会うの久しぶりだからな。フレンドになろうぜ」
「ふ、フレンド……?」
「ああ。私まだこのゲーム始めたばかりだからよ。いろいろと教えてほしいことがあるかもしれねえし。いいだろ?」
私は島本……。
「お前このゲームの名前なんていうんだよ。人が多くて申請できねえ」
「あ、イズランドっていう……」
「イズランド……。いたいた」
イズランドに申請を送った。
「ま、私たちは行くよ。悪かったな。怒って」
「へ? あ、ああ」
「困ったことがあったらあんたらのとこ尋ねるかもしれん。そんときゃよろしくな」
私はそう言い残して、オイリたちと一緒に街へ戻ることにした。