プロローグ
太陽が照りつける今日この頃。
私は棒付きキャンディを舐めながら登校していた。今の時刻は午前8時。ギリギリ間に合う時間である。
「停学でずっと家にいたせいか時間感覚がやべえ。昼夜逆転していたせいかねっみぃ……」
私は欠伸をひとつ。
校門前には生徒指導の萩野という男性教師が立っている。厳しい先生ではあるが、話は分かる先生だ。
「よっ! 市ノ瀬! 反省したか?」
「しましたよーっと」
「眠そうだな? 停学中、ずっと夜更かししていただろ」
「そりゃまあ」
「早く寝ないと大きくならないぞ〜?」
「もうこれ以上大きくなる必要ねえよ」
私の身長は172cm。女子の中でも高い方だ。
「で、いじめっ子とかどうなったんすか」
「いじめっ子は退学処分だ。虐められていた奴は今は無事に学校に来ている。最近、クラスメイトと打ち解けたようだぞ?」
「ならよかったっす」
「天下の不良、市ノ瀬 花音が人を助けるために暴力を振るうとはなぁ」
「……もう不良じゃないですけど」
中学時代、私は割とグレていた。
タバコや酒などは興味なかったしやらなかったが、気に食わない奴は割とボコボコにしてきた記憶がある。
だがしかし、中3にもなるとそういうことをするのもなんかだせえなって思い始めた。から、喧嘩はそこまでしなくなった。
「……前々から疑問なんすけど、なんで校門前に立ってるんすか? いつもいつも。立つ必要ないっすよね?」
「まあな。これは俺の趣味みたいなもんだ。いいだろ? こう、竹刀持って待ってる厳しい体育教師ってもんは」
「あんた根っからの善人だから竹刀で叩くことなんて出来ないくせに……」
「褒めてくれるとは嬉しいねえ。ほら、入った入った。時間になるぞ」
私は背中を押されて、学校の敷地内に入る。
教室に入ると、ピンク髪の女が私に抱きついてきた。
「おっはー! カノちーん!」
と、私に元気よく挨拶してきたのは友人である花本 衣織。女優と俳優の娘で見た目がいいと人気の子。割と変人。
「お前……黒に戻せよ」
「やだよ! この髪の方が乙女ゲーの主人公みたいじゃん? 私、顔がいいから似合ってるし」
「自画自賛うっぜえ……」
「それに、カノちんも金髪に染めてんじゃん」
「私のは自前だっての。ハーフだっつってんだろ」
母さんがドイツ人で、そのハーフ。
私の透き通るような青い目も、金髪も母さん譲りのものだ。だからとやかく言われる筋合いはねえ。
「ようやく停学明けたんですね。お勤めご苦労さまです」
「お勤めいうな。ムショに入ってたわけじゃねえよ」
「あら。ごめんあそばせ?」
「お嬢様ぶんな」
「お嬢様ですし」
目の前の女は阿久津 月能。あの阿久津家のお嬢様。なぜか私たちと関わっている。
「それより! あなたが来るのを待っていたんです!」
「んだよ」
「これ! 一緒にやりません?」
と、出してきたのは一つのゲームソフト。
名前は"Free world Fantsy"というソフトだ。今テレビでも広告を出しているゲーム。
人気で、即売り切れの店も多いと聞くが。
「よく手に入ったな」
「阿久津家の力を舐めないでもらいたいですねぇ。金の力というのはやはり無限なのですよ」
「お前……」
「私もやーるよっ! カノちん!」
「お前もやるの?」
「ツキちんに誘われたからね! というわけで、やろ?」
「……ま、いいけどよ」
私はソフトを手に取る。
生活は全て自由。オープンワールド的なもので、何をするのもあなたの自由、とある。
昨今のVRMMOって大体自由を謳い文句としてるくせに割と不自由なところあるんだよな。
「VRMMO、ねぇ」