悪役令嬢は死なない
悪役令嬢は必ず死ぬ。
あらすじは口にしてみれば簡単だ。婚約者を寝取られた悪役令嬢が、ヒロインに復讐しようとするも、逆に殺されてしまう。そして皆、幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。
悪役は退場しなければならない。世界が書いた脚本にそう書いてあるのだから。運命は絶対なのだ。
ただ私の立場から言わせてもらえば、この脚本には穴があり過ぎる。矛盾だらけでお話にならない。
なぜなら、私が好きなのは女の人だからだ。
確かに婚約者にきゃーきゃー言ったりもしたが、それは純粋に彼の筋肉が美しかったからである。
筋肉は正義だ。力こそパワー。あの上腕二頭筋には兵士達だって顔を赤らめる。汗で光沢を増した大胸筋には誰だって魂を揺さぶられるに決まってる。
特に背が小さく、食が細く、肉をつけられない体質の私からしてみたら、羨ましかったのだ。でもあれは芸術だ。それ以上でもそれ以下でもないだろう。
いつか林檎を素手で潰してみせるのだと夢を見ていたのは十二の頃までだ。いやまだ諦めてない。
だから単純に見て愛でてはいたけれど、ドキドキするのは女の人に対してだけ。誰にも言えないけど。
だからヒロインに対しては何も言うことはないし、人の恋路を邪魔する気もなかった。ただし彼の食事には気をつけてあげて欲しい。贅肉と筋肉は違う。
私は悪役令嬢にされたのだ。ヒロインに、婚約者の彼に、そして両親と兄に。ある日いつものように学園に登校してみれば、そういう事にされていた。
一体どういう事なんですか、と詰め寄ってみたら、ヒロインが悲鳴を上げて、それにビックリしていたらいつの間にか斬られていたのだった。
そして視界は暗転した。
私は死んだのだ。けれど生き返った。正確に言えば生き直した……やり直した?やり直し続けている。
百回以上は人生をやり直しているんだけど、いつも決まって最後には同じ結末を迎えるのだ。
初心かった私は五回斬られるまで、彼らも誰かに騙されていると思っていた。でも真実はそういう事だったんだと六回目で学んでしまった。
七回目はそれを家族に訴えたが、あなた疲れてるのよと一蹴され、そしてやっぱり斬られて死んだ。
八回目でその家族もグルだったと知った。九回目は王都を出て旅をしていたのに、兵士に連れ戻されて、結局はそうなった。役者は舞台から降りられない。
十回目からは連れ戻されるまで冒険者をして、十一回目には魔法も覚えたし、十二回目は薬草について学んだ。十三回目には一人で迷宮を踏破した。
けれどどんなに魔法を覚えても、弓が上手くなっても、人を傷つける覚悟が無い以上は結局、兵士に見つかって同じことになるのだった。
記憶は続くので知識は増える。けれど身体で覚えた技術は毎回リセットされてしまうので残念です。
十四回目には伝説の鎧を手に入れたけど、学園には持ち込めなくて、十五回目には絶対防御魔法を覚えたけど魔封じの毒を盛られてしまった。
十六回目には最初から空を飛んで逃げたけど撃ち落とされて、魔封じの首輪をつけられた。
いやだって兵士達は仕事をしているだけで何も悪くないのだ、傷つけられるはずがないじゃんか。魔法使いも冒険者も賞金稼ぎも悪人じゃない。
十七回目には姿を消す魔法を、十八回目には存在自体を別次元へと移す魔法を、十九回目には世界を五秒で一周できる飛行魔法を覚えた。
けれど指名手配までされて、見知らぬ他人の人質をとられて、結局は捕まってしまう。
この世界はおかしい。
まるで脚本でもあるかのように、結局は同じところに収まってしまう。だから私は魔法を鍛え、世界そのものから抜け出す術さえ編み出して、そして見た。
まさに私は、いや人類が、世界そのものが、全てが……ただの役者と舞台装置だったのだ。
"おとめ・げぇむ"と呼ばれる神々の遊戯版の上で踊らされていただけだったのだ。
それを知った私はさらに鍛え、超越し、ついには神にまで至り、さらにそれを飛び越えた。
そうして私は超越神に至ったのだった。