7話
「なんだぁーーこれは!」
パルメザンチさんの突然の大声。
「どうしました?」
妹のミカとパルメザンチさんのバトルを何とかおさめた僕は、パルメザンチさんが住処と呼ぶ場所に来た。この山は岩山で無数の横穴が開いているので仮住まいの場所に困ることはない。
男達から救ってくれ、さらに沢山の林檎をくれた命の恩人のパルメザンチさんに僕は掃除をかってでた。怪我が治ったらこの場所にきて掃除をするのだ。
本当はパルメザンチさんの洞窟のすぐ近くに僕たちも引っ越してきたかったけど、パルメザンチさんはほんの少しでも物音がすると眠れないという理由で拒否された。
「どうしました?ではない!」
パルメザンチさんは自分の住処を見て驚き、そして怒っている。
「見ろ!天井からは水滴がひっきりなしに落ちている。そして地面は濡れた土だ。それに見ろ、なんだあの気色の悪い虫は!あっちにもこっちにも虫だらけだ。そしてこの暗さ!電灯どころか電気すら来てない、ベッドも風呂も無い!無い無い無い!必要な物全てが無く、不要な物全てがあるぞ!」
「うわ!」
右手で側面の岩に拳を叩きつけた途端、地面が揺れた。まるでこの山全体が揺れているようだ。硬い岩山をこれだけ揺らすなんてパルメザンチさんの力は人間とは思えない。
「こんなものが住処と言えるか!」
「わわ!」
再び山が揺れた。そんなことあるはずがないとは思うけど、そのうち山が割れてしまうんじゃないだろうか。
それにここを住処だと言っていたのはパルメザンチさん自身だ。住処だというからには何度もここで寝たりしているはずだ。なぜ急にこんなことを言い出すんだろう。
「でもパルメザンチさん、洞窟とはこういうものだと思います。僕たちがいるところも同じですから」
「こんな所で寝れるか!」
「結構寝れますけど」
最初はつらかったけど馴れると気にならないものだ。
「断じて否」
「そう言われても…」
「む、ほら見ろ、頭に雨だれが落ちて来たぞ」
「デカ赤ちゃん」
「なんだと!」
「いちいち手間がかかる」
「もう食べ終わっちゃったの!?はい、ミカ」
「私がいつお前に手間をかけた。そしてお前はフードを被っているから雨だれが気にならんだけだ」
急いでミカの口に林檎を持っていく。ミカが今まで喋らなかったのは林檎を食べていたからだ。相当気に入ったようで口の周りがベタベタになっている。もうすでに5個以上は食べている。
シャクっという小気味いい音がしてミカの口の中は林檎で一杯になった。これでこのふたりがしばらく言い争うことはないだろう。
それにしても我が妹ながら驚く。パルメザンチさんは巨人と言っていい位に背が高い。それに体も分厚い。普通の男の人でも怖くて目を合わせようとすらしないと思う。あまりにもパルメザンチさんは戦闘的肉体だ。
ミカは同年代の女の子よりも背は低めだし、最近あまりご飯を食べれていなかったので痩せ気味でもある。それなのに一歩も引かずに黒いフード越しに鋭い眼を浴びせている。
「感謝の言葉のひとつでも言ったらどうだガキ」
「モゴモゴゴモ、うめざわとみおときすしてからのでぃーぷきす」
「食い終わってから喋れ」
口の中に林檎がまだ残っているせいでミカの言葉を聞き取ることはできなかった。
「とにかく、だ!こんな所にはいられん。私は行くぞ」
「そんなぁ、どこに行くんですか?」
「無論、最高の睡眠がとれる場所にだ。どこにある」
「そう言われても」
「王都」
いつの間にかリンゴを食べ切っていたミカが言った。
「王都………王がいる都か。この国で一番栄えているに違いない。そこだな。最高の寝具もあるに違いない」
「そうですか…」
「私とアオシも行く」
「ミカ、それは無理だよ」
ここから王都はあまりにも遠い、なにより僕らにはお金が無い。
「そこのデッカチャンが連れていく」
「そんなこと頼めないよ」
僕たちはたださっきであっただけの関係、赤の他人なのだ。
「おいジャイアント白田、これが目に入らぬか」
そう言ってミカはずっと被っていたフードを脱いだ。




