3話
「おい!聞いてるのか」
「あ、え…」
「正当防衛だ。そう言ってるんだ」
信じられなかった。目の前の人間は人間の言葉を喋っていた。
「フン!まともに喋れんのかコイツは」
彼はあきれたように一つ息を吐いた。
「あの、」
必要以上に大きい自分の声に自分も驚いてしまった。
「フン!喋れるんじゃないか。なんだ」
「その「せーとーぼーえー」っていう言葉は初めて聞きました。なので意味がわかりません、すいません。」
「なんだ!正当防衛、知らんのか」
「はい、すいません」
「フン!子供だからしょうがないか…」
「すいません」
「アイツらが武器をもって襲い掛かってきた。だから自分の身を守るために仕方なく反撃した、つまりそういうことだ」
「あっ、そういうことなんですね。確かにそうだったと思います」
あの場面を思い出してみると確かにその通りだと思った。最初に向かっていったのは彼らだ。だから悪いのは彼らだ、目の前の人はそう言いたいのだろうと思った。
「うむ!子供にしてはお前、よく分かってるじゃないか」
「ありがとうございます」
満足そうに頷いた目の前の人間は人間らしかった。
「子供」
「は、はい」
「おい!もう跪かなくてもいいぞ」
「?」
跪く?そうか、この人は僕が地面に座っているのを見て、跪いていると思っているんだ。そういうわけじゃないんだけどなあ。でも…もしそんなこと言ったらこの人に恥をかかすことになっちゃうなあ、多分。
「ありがとうございます、いっ」
「なんだ!」
「足が痛くて」
「なんだと!」
しまった、これじゃあ跪いてたわけじゃなくて、足が痛いから座っていたんだと思われちゃったかもしれない。痛くてつい出ちゃったけど失敗だったかな。
「ど、どうしました?」
「俺のせいじゃないぞ」
「はい、違います。さっきのあいつらです。あいつらともみ合った時に痛めたんだと思います」
「フン!まったく極悪人だな、あいつらときたら。ふむ、ふむ………ということは、ということは私はとても良い行いをしたということになるな!」
「???」
「なるな!」
「はい!僕は凄く困っているところを助けて頂いてすごく感謝しています」
「うむ!これで私は天国へ一歩近づいたぞ。お前、子供にしてはよく分かってるじゃないか」
「ありがとうございます」
満足そうに頷いている。結構わかりやすい人なのかもしれない。どうやら悪い人じゃなさそうだ。良かった。
「私は寝る」
「???」
「この辺りに私の寝床があるはずだ。はっきりとは思い出せないが近くまで行けば思い出すだろう」
僕にはなぜこの人がこんなことを言い出したのか分からなかった。考えよう。僕に対して何か求めている気がする。
「子供はいい睡眠の敵だからな」
呟くように言ったその言葉でピンときた。
「わかりました。静かにしています」
「うむ!やはりお前はよくわかっているな」
正解だった。しかも僕の事を認めてくれている気がする。なんだか嬉しい。
ぐぅうう…
大きなお腹の音が鳴った。
「すいません。実は最近あまりご飯を食べていなくて…」
眉毛がピクッと動いたのが見えたので、僕は慌てて謝った。
「む!空腹か……空腹の子供…危険だな」
「あの、僕、遠くにいますから…」
「いや!俺は耳がいい。そんな音が聞こえたら気になっていい睡眠をとることなど出来ん。かといって食べれそうなものなど何も持っていない…」
腕組みをしたまま眉間にしわを寄せ考え始めた。
「いや!違う!」
大きな声に僕の体はビクッとなった。
「私は持っている。持ってはいないが持っている。わかるぞ!持っているのは。しかしどうやって…どうすれば」
その言葉は僕に対して語っているというよりもただの独り言みたいだった。
「そうか!」
腕組みをほどき、手のひらを下にした右手だけを肩の高さまで上げた。
「こうだ!」
掌から真っ赤な林檎が落ちてきた。




