11話
「うわーすごい綺麗な街ですね」
アオシは感嘆の声をあげた。そのそばにピタリとついているミカも頷いている。
「そりゃあ上層階ですからね。金持ちしかいませんや」
王都ルクセンブルドックは渦まき、あるいはチョココロネのような形状をした都市で地表から螺旋状の階段を上っていくと平層階、そこから螺旋状の階段を上っていくと上層階、そしてさらに上に行くと王族や貴族が住む天頂階がある。
「魔物対策ですか?」
「その通りでさ。地上に街があれば町全体を敵から守らなくちゃあいけやせんが、この作りなら街に上がるための階段を集中的に守ればいい。そうなりますや」
「へえ、すごいですね」
「第一門のフルカワは相当ビビっていたんでしょう、ここに上がるための許可証はそう簡単に出るもんじゃあありません。年に100万ゴールド、それ以上の税金を納めている都民だけでさあ」
第2門の前とあって沢山の人たちが行きかっていてそのほとんどがこちらの方をチラチラと見ている。
「ふぅ」
ミカが小さく息を吐いた。
「大丈夫?」
「うん」
「なんだ静かではないか」
腰を曲げてフードを被っているミカの顔を覗き込むように見たパルメザンチさん。
「ミカは人が多い所が苦手なんです」
妹は小さい時からずっと他人から指を刺されて生きてきた。銀色の髪も珍しいし、そしてなによりも頭から咲いている花。だからミカが元気なのはいつも家族といるときだけだ。
「今日は大丈夫…みんな私を見ていないから」
「結構な事だ、静かでいい」
通り過ぎていく人たちはパルメザンチさんを見ている。だからだ。みんなミカに目がいく前に規格外の大男であるパルメザンチさんを見るのだ。そして自身に満ち溢れたその態度と濃密な暴力の香りが目を離させない。
「しかしなぜこの私が上の階層、天頂階だったか、それに行くことができないんだ。もう一度あの、フルカワとかいうヤツの所に行く必要があるかもしれん」
そして心が強い。他人の視線なんかまったく気にしていなさそうだ。
「いえ旦那、あのフルカワの野郎には天頂階の許可証を出す権利なんかねぇんだと思いやす。たしかあれは天頂階でしか発行できないはずですから」
「ふん、まぁいい」
太い腕を組み眉間にしわを寄せていたパルメザンチさんだったがどうやら機嫌は回復したようだった。それを見たズレネズミさんは分かりやすいほどに安堵している。たぶんパルメザンチさんが天頂階にいったら大ごとになると思っているんだろう。ぼくもそう思うけど。
「それじゃああっしはもう行きます。皆さんお元気で」
「あ、そうなんですか。ズレネズミさんありがとうございました」
「いえ、あっしのほうこそ。旦那のお陰であっしも分も上層階の許可証頂いちゃいまして、これで商売の幅がグンと広がるっつうもんですよ」
なんだか少し寂しい気持ちになった。ズレネズミさんとはさっき会ったばっかりだっていうのに。
「ふん、またこき使ってやるからな」
「いやちょっと勘弁してくださいよ旦那ー」
そうだ、べつにこれで一生会えなくなるわけじゃないんだ。僕は去っていくズレネズミさんの背中を見送った。




