第三十一話
あれからしばらくの間、俺は魔物を大量虐殺していた。
最初は覚束なかった鴉の黒羽も今では、ある程度は自由に動かせるようになった。
鴉の黒羽は鋭く、硬い。
その姿は、逸品の剣をも超える美しさがある。
魔物に向けて黒羽を飛ばすと、音速で黒羽が飛んで行って辺り一面に、魔物の鮮血と漆黒の羽を撒き散らす。
その羽の舞う美しさは俺の心を強く揺さぶった。
(まぁそのせいで…壁やら床やらが血で染っているんだけどな……)
鴉の黒羽はとても扱いにくく、当初は制御が全く効かなかった。
その為に、俺は慣れるために魔物を大量に倒す必要があったのだ。
「魔物を大量に倒したお陰で、レベルやステータスが大幅に上がっているだろうな〜」
俺はニヤニヤとした笑みを浮かべながら、ステータスを開こうとしたが気付く。
「あっ……そういえばステータス適応中で見れないんだった」
そう、今俺のステータスは何故か適応中と表示されていて、スキルすら見ることが出来ない状況なのだ。
なので鴉の黒羽を手に入れた時は、思わず叫んでしまったくらいには、嬉しかった。
鴉の黒羽はとても強力なスキルだ。
魔物を蹂躙するだけの能力が備わっているなら、それだけでも強いのだが、鴉の黒羽は汎用性が物凄く高い。
例えばだが、鴉の黒羽は飛ばすだけではなく、空中に待機させることが出来る。
つまり、魔物を一撃で葬り去る一撃を複数回ノータイムで打てるのだ。
全察知と一緒に使うと、魔物が近付くのを察知して自動で追尾して魔物を倒してくれる。
また、素手での格闘時に、手に纏わせることによって、急激にスピードとパワーが上がり、岩をも砕くことが出来る。
まさに遠近両用のチートスキルだ。
さらにもう一つ応用が出来る。
それは移動だ。
背中と足に羽を出すことによって、移動速度が上昇して通常の倍以上の速度で動ける。
「今思ったら、鴉の黒羽スキルって隠密よりもチートだろ……」
遠近両用で自動追尾機能付き、おまけに移動速度を大幅に上げるとは、鴉の黒羽はチートすぎる。
自分が持っている分にはいいが、自分以外の誰かが持っている可能性を考えると、体が震える。
「まぁそんなことは無いなろう……」
こうして俺は可能性に恐怖するのだった。
鴉の黒羽を使いこなせるようになってから、俺は96層や97層の魔物を倒してきた。
経験値やドロップ品は腐るほど集まり、俺のステータスは表示することが出来るのなら、人間の最高Lv100になっているかも知れない。
とまぁ……こんな感じでダンジョンを楽々進み、経験値を荒稼ぎしていたというわけだ。
「一撃で倒せる割には、経験値が良いからな〜…」
本当に鴉の黒羽様々だ。
もし黒羽が無かったら、俺は死んでいただろう。
いかに黒羽がチートかがわかる。
「剣自体の性能もさることながら、特殊なスキルがこれまた強いって……剣が主人公ポジションかよ……」
(剣が主人公……)
自分で言っていて悲しくなる。
「まぁ、俺も強くなるし?」
俺は誰も居ないダンジョンで独り剣と張り合っていた。
「虚しいからやめよう」
俺の長所は直ぐに気持ちを入れ替えることだ。
俺は100層に進むために階段を探すことにした。
1時間後
俺はダンジョンの壁を殴っていた。
理由?そんなの簡単だ。
「階段が見つからないっ!!」
そう、階段が見つからないのだ。
かれこれ1時間、頭の中でマッピングをしながらこの階層を進んできたが、見つかる気配がない。
本当に階段があるのか?と思ってしまう程だ。
「1回最初に居た場所に戻ってみよう」
(……ないよな?)
嫌な予感がしたが、俺は元いた場所に戻ることにした。
そこには、岩をむき出しにした様なデザインのものがあった。
俺はそれを見て軽く絶望した。
「あったよここに……」
何が?とは聞かないでくれ……
「何で……何でっ」
俺は叫んだ。
「何で降りてきた階段の後ろに階段があるんだよぉぉお!!」
なんと上のそうから降りてきた所の後ろの道を進むと、階段があったのだ。
「わかった……このダンジョン造った奴、絶対に1発殴る」
俺はダンジョンを造った物への怒りを胸に下の層に降りていくのだった。




