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ただのスライムは空を駆ける

充実した夏休みをすごしたい



「ほら、ゼラ早く! 遅れちゃうよ」


「ま、待って。アリシ、ェ」


まだアリシエと満足に呼べないことをくやしく思いながら、ぼくは前を行く彼女を必死に追いかけていた。

今日は、ぼくの初めての登校日である。

人が学校に通うにはどうやら手続きが必要らしく、それの申請に時間がかかってしまった。夏休みは一週間前に終わっていたが、これでも早くに認可されたらしい。昨日はわくわくして上手く眠れず、寝坊した結果がいまの惨状である。


「もうみんな行っちゃってるかなあ……」


急いで前を走るアリシエが心配そうに言った。


「もう! 『遠足』に遅れちゃったら、ゼラのせいだからねっ」


頬をふくらませて怒る彼女に、ぼくは謝らなければと思ったけれど、つい笑ってしまった。怒った姿もかわいいものだから。彼女は終始むっつりとしていたが、それもそのはず。

学校についたのは、定刻より二十分もあとのことだった。


――魔法学院ウェルデハイス。


その名の通り、魔法使い――ひいては魔女を育成する学院である。

院には初等部から高等部までがあり、大半の人間は幼なじみのような関係になる。

アリシエの学年は初等部3年。ぼくも彼女と同じ学年に配属されることになった。


「あーっ、やっぱりもう皆出発してるみたい」


からっぽになった3年の教室を見て、アリシエが大きなためいきをついた。


「ご、めん。アリ……シ、ェ」


「……しかたないよ、ゼラ。わたしだって朝食を食べるのがおそかったし、おたがいさまだわ」


アリシエはそう言うが、強がっているのがすぐに分かる。

彼女もぼくと同じくらい、今日の遠足を楽しみにしていたのだから。

――遠足の目的地は、ぼくが生まれた森を抜けた場所にある都市だ。

そこには『大魔法使い』とよばれる人がいて、生徒たちが彼に、各々の作った魔術的な『自由研究』を発表するのだとか。大魔法使いに認められた人間は、夢に近づく大きな一歩を掴むことができる。


なのに、ぼくは……。


「――おこまりかな? おじょーちゃん」


そうして無力感にさいなまれていた直後、

背後からいたずらっ気の多い声がした。


「カレン!?」


どうやらアリシエのお友だちらしい彼女は、「にしし」と笑いながら小さなほうきを構えている。魔女の服装だ、と思った。

――いつかのエリと、同じ服装をしていたから。


「みんなあっちで待ってるよ。ほら、早く魔導服にきがえな」


「……うん!」


どうやら、アリシエの到着を待っていてくれたらしい。彼女にいい友だちがいたことを喜ぶかたわら、自分の無力感がみずぼらしい。


「それで、きみは? もしかしてアリシエのぼーいふれんど?」


――ぼーいふれんど……?


はて、それはどういう意味だっただろうか。

あまり聞いたことがなかい。

そういえば、この前の冒険者たちが言っていたような気がしなくもない。


でも、『フレンド』といっているからきっと「仲のいい」みたいな意味なんだろう。

うん、きっとそうだ。


「――そう、だよ。ぼくはアリシ、の。ぼーいふれん、どだ」


……やっぱりまだ、長い単語を発音するのはむずかしいな。

会話をするのも精一杯だ。これじゃあ普通の人のように話せるようになるのに、どれだけの時間がかかるだろうか。今から頭が痛い。


「ほえー……やっぱりそうなんだー……!」


カレンは恍惚とした声をもらしながら、

なにやら顔を赤らめてよろこんでいる。


なぜかな???


「おまたせっ」


更衣室からもどってきたアリシエは、紫色の魔女のローブを着て、カレンと同じほうきを持っていた。

ぼくは彼女が――いや、彼女たち魔女が空を飛ぶのをいくども見てきた。

彼女たちの愛らしく、そして可憐に空を飛ぶ姿を。


「アリシエたちは先に行きな。あたしはきょういんしつに、アンタたちが登校してきたことをホーコクしてくるから!」


「でも、それじゃあカレンがおくれちゃう……」


「ちっちっちっ。あたしのしゅんそくをなめてもらっちゃ、こまるぜ。

ここから都市まで――バーティカルくらいまでなら、だれよりも早い」


「……うん! そうだったね」


カレンは満点の笑みで、親指を立てながら校舎のなかを走っていった。


「カレンはね、ほうきのそうじゅうスピードがだれよりも早いの」


アリシエは窓辺に近づいて、ほうきにまだがりながら言った。


「いつか追いつくけどね」


その瞳には自信と、好奇心。

どこまで張り合えるのかという期待。

そういうものが見て取れた。

……いいなあ。

友だちであり、よきライバルであること。

それはぼくらモンスターのなかにはない、

人間だけが獲得した「友情」という感情の極地だ。


いつかぼくも、そんな友だちに出会えるといいな。


「……? どうしたの?」


ぼーっとしていたぼくに、アリシエが手を差し出していた。



「――行こう」



開けた窓から風が吹いた。

目の前には緑豊かな森と野山。

その頭上には青い空と入道雲が、どこまで大きく広がっている。


「――飛べ」


その、たった一言のあと。


ぼくは彼女のまたがるほうきの後ろに乗っかって、空を――飛んだ。


その日。今までただのスライムでしかなかったぼくは、初めて空を駆けた。



残り二人はこんど出てきます。

愛すべき同士ロリコンの皆様すみません……。


カレンは――少しだけませた、姉御肌の魔法使いです。

仲間思いが強く、友だちは何よりも大切に思っています。

特技はほうきを使って飛ぶスピードが誰よりも早いこと。

恋愛にたいする期待は人一倍大きく、

将来はおうじさまのような人と結婚したいと思っています。


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