成長期の悩み
中学生なら自分の服は自分で選べと、母さんはひとりでぼくを行かせた。
近所の服屋。
良いズボンがあった。これにしようかな。でも……と、ぼくは不安になる。最近、成長痛がひどい。ぴったりのズボンを買ったとしても、すぐに身長が伸びてつんつるてんになってしまうだろう。ちょっと余裕を見たほうがいい。このズボンはどうだろう。
一度試着するのがいい。うん、そうしよう。
試着室はせまくて、ズボンを履き替えるのに苦労した。でも、大丈夫そうだ。少し余裕がある。よかった。鏡で見てもほら……あれえ?
鏡にはぴったりのズボンを履いたぼくが映っていた。おかしい。さっきまで余裕があったのに。
仕方なく、ぼくは一度試着室を出る。もっと大きいズボンを探さなくっちゃ。
今度選んだやつはかなり大きい。大きすぎるくらいだ。でもこれなら……あれえっ?
鏡を見て、びっくり。またぴったりだ。それどころか、少し小さく、えっ、あれっ、わっ、なんで?
どういうわけか、見る見るうちにぼくの身長が伸びてゆく。服が体を締め付けて痛い。たまらず全部脱いでしまう。
その間にも身長は伸び続け、とうとう試着室から顔が出た。それを見た店員さん、「お、お客様」とびっくり。ごめんね、ぼくにもなにがなんだか……
このままじゃ天井に頭がついてしまう。あわててぼくは試着室から、店から飛びだした。
どんどん身長は伸びていく。人が、車が、建物が、街が小さくなっていく。とうとう雲に突っ込んだ。
ぼくは悲しくて仕方なかった。泣いても、泣いても、涙は止まらなかった。
きっともう僕に似合うズボンはないだろう。