落下
目下の雲に向かって、とんでもない速さで回りながら僕は落ちている。
とりあえず、暴れる鳥を口から離して体勢を立て直すことを試みる。鳥に飛び付いた時にたたんだ翼を思いきって広げると、翼が風を受けて回転が止まり、落下の速度が落ちた。
僕は半分滑空するような形で落ち始めた。
視界の上端に、逃がした鳥が映った。僕の噛み傷の影響で不恰好な飛び方だったが、僕から逃げるようにどこかへ飛んでいく。
僕も落下を止めなければならない。
羽ばたいてみるが、体勢が崩れるだけであった。
そんなことをしていると、一瞬にして視界が白く染まった。雲の中に入ったことを意識する暇もなく、すぐに雲を抜ける。
雲を抜けてまず目に入ったのは、大海原だった。波打つ黒々とした海面がどこまでも広がっていて、霞んで見える程遠くにはぼんやりと陸地が見える。
このままでは、海面に叩きつけられてしまうだろう。そう思った時、頭上から唸り声が聞こえてきた。
「グルゥオオ」
首を上に向けると、母親がまっすぐに降りてくるのが見えた。安心感を覚える声だ。
母親は、凄い速さで僕に追い付き、前足で僕の胴を掴んだ。
僕を鷲掴みにした母親は、軌道を変えて横向きに飛び始めた。てっきり上空にある大地に戻るのだと僕は思っていたが、違うようだ。
進行方向を見ると、先程見た陸地がある。徐々に高度を下げていることからも、そこを目指しているのは間違いないだろう。
『■■■■■■■』
母親は何かを言いながら、さらに速く飛び始めた。その言葉からは、安堵のような感情が伝わってきた。