表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子竜、世界を見る  作者: 笛口秋雲
第一章
4/10

初めて

 母親が口から離して目の前に置いたそれは、僕の身体と同じくらいの大きさの何かの足だった。根元から切断されたと思しきその足は、黒い毛に覆われ、二股の蹄がついている。

 「食べろ」ということなのだろうか。


『■■■■■■■■』


 確認するように顔を見返すと、母親はじっと僕を見ている。きっと食べて良いのだろう。

 卵の殻がまだ残っていたが、足の切断面から漂う血肉の香りは、とても魅力的だ。未だに空腹だった僕は、迷わず囓りついた。

 実に美味い。

 筋張ったその肉は、噛む度に旨味を感じさせた。頭を突っ込むように食べ進める。


 半分程度食べた辺りで、満腹を感じて食べることを止めた。すると、母親は僕の顔に付着した血や油を一通り舐めとり、食べきれず残った肉を、一口でぺろりと丸呑みにした。


『■■■■■■■■■■■』


 食べ終えた母親は、僕の正面に座る。言葉は分からなかったが、何処か嬉しいような感情が伝わってきた。僕も応えるように声を出してみる。


「キュィィ、キュィ」


特に何も考えずに声を出すと、相変わらずの高い声が出た。自分でも可愛らしい声だと思う。


 声を出しながら、母親に近付こうと足を動かしたが、歩き出してすぐに転んでしまった。

 足を動かすことにまだ慣れていないのだ。

 再び立ち上がった時、僕は母親に前足で掴まれて彼女の側へ運ばれた。母親は鱗の付いた猛禽類のような足で、自らの横っ腹に僕の身体を寄せた。


 温かい体温が、鱗を越えて伝わってくる。母親の鱗は、見た目より柔らかかった。


「グオォル」


 初めて母親が耳に聞こえる声を出した。耳障りの良いその声を聞きながら、僕は眠りに落ちた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ