初めて
母親が口から離して目の前に置いたそれは、僕の身体と同じくらいの大きさの何かの足だった。根元から切断されたと思しきその足は、黒い毛に覆われ、二股の蹄がついている。
「食べろ」ということなのだろうか。
『■■■■■■■■』
確認するように顔を見返すと、母親はじっと僕を見ている。きっと食べて良いのだろう。
卵の殻がまだ残っていたが、足の切断面から漂う血肉の香りは、とても魅力的だ。未だに空腹だった僕は、迷わず囓りついた。
実に美味い。
筋張ったその肉は、噛む度に旨味を感じさせた。頭を突っ込むように食べ進める。
半分程度食べた辺りで、満腹を感じて食べることを止めた。すると、母親は僕の顔に付着した血や油を一通り舐めとり、食べきれず残った肉を、一口でぺろりと丸呑みにした。
『■■■■■■■■■■■』
食べ終えた母親は、僕の正面に座る。言葉は分からなかったが、何処か嬉しいような感情が伝わってきた。僕も応えるように声を出してみる。
「キュィィ、キュィ」
特に何も考えずに声を出すと、相変わらずの高い声が出た。自分でも可愛らしい声だと思う。
声を出しながら、母親に近付こうと足を動かしたが、歩き出してすぐに転んでしまった。
足を動かすことにまだ慣れていないのだ。
再び立ち上がった時、僕は母親に前足で掴まれて彼女の側へ運ばれた。母親は鱗の付いた猛禽類のような足で、自らの横っ腹に僕の身体を寄せた。
温かい体温が、鱗を越えて伝わってくる。母親の鱗は、見た目より柔らかかった。
「グオォル」
初めて母親が耳に聞こえる声を出した。耳障りの良いその声を聞きながら、僕は眠りに落ちた。