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子竜、世界を見る  作者: 笛口秋雲
第一章
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卵割り

 ふと、意識が覚醒した。真っ暗で何も見えず、身体の自由がきかない。何か、箱のような物に身体が閉じ込められている。身体をほとんど動かすことが出来ない。

 

 僕は混乱していた。ここに至るまでの記憶がない。何とは無しに、自分がこれまで長い時を生きてきたという事だけは、ぼんやりと認識出来る。しかし、どこで、どのように生きてきたのか全く記憶がない。

 ただ、今やるべきことは予め知っていた。自分を拘束している物を壊すことである。

 僕は少しばかり動かすことが出来る首を使い、それを壊し始めた。口の先端を我武者羅に何度もぶつける。最初はあまり手応えがなかったが、小さな罅が入ったことを境に、次第に穴が広がっていく。

 首がそれを突き破って外に出ると、眩い光が目に入った。


 目が徐々に慣れてくると、周囲が見えるようになってきた。僕は鱗の付いた白い壁に囲われていた。生き物であることが、呼吸と共に上下している事から分かる。上を見上げると、青い空が覗き、地面には踏み倒された若草が見える。

 やけによく回る首で見おろした自分の身体、僕の身体は、白い卵の殻に包まれていた。兎にも角にも身体を動かすために、身体を包む卵の殻を再び割り始める。

 

 殻から脱出して、自分の身体を改めて観察する。

 鳥と蝙蝠がまざったような不思議な翼に、鋭い爪の付いた四本の足、先端に刺が付いた尻尾、長い首、そして、全身を白い鱗に覆われている。

 

 僕は、竜になっていた。

 

 今、僕を囲んでいる生き物は僕の母親だろうか。僕を守るように寝転がり、鱗の色と質感が同じだ。その可能性は高いだろう。

 もしこれが敵対的な生物であれば、非常に危険な状況であるが、仮にそうだとしても今の僕に何か出来るとは思えなかった。

 この生き物が僕の母親であるならば、どうにかして、僕の存在を知らせるべきだろうか。

 

 僕は逡巡の後、知らせることはせずに、脱出した後の僕の卵の殻を食べることにした。割っている最中に気が付いたが、この殻は美味しい。偶然口に入ったその味は、僕の食欲を掻き立てた。

 

 そして、殻の硬さに苦戦しながら夢中で食べていると、僕を囲んでいた生き物が音もなく動きだしていた。

 

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