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伍 抑制。

 結論から言えば、食わず嫌いをしていた茄子を食べたら案の定好きではなかったような感覚だった。

 収穫はなし。

 ラノベの内容に鍵はない。むしろ、ラノベに固執している状態が鍵なのかもしれない。

 まあ、そもそもラノベに固執しているのであってBLに固執しているわけではないから他の異世界転生だのを読んでみても良いかもしれない。

「先輩、他にありませんか?こういうBL以外で。」

「もしかして、はまった?」

「いえ、そうではなくて、流石に始めてのラノベがBLというのは、ちょっと難易度が高いです。」

「ああ、成る程ね。じゃあ、この『異世界に転生したら悪役令嬢のメイドになったけど、俺は男な件。』とか、良いんじゃない?」

 目眩がした。

 こんなにアホみたいに長いタイトルなんてどうせ略されるんだからどうにかしろよ。

「あ、あ、はい。わ、かり、ました。」

 手にしたラノベの表紙をみる。

 ああ、イメージ通りの絵だ。

「あのさぁ、木内君・・・。」

「先輩、共存共栄ですよ。」

 自分でもわけのわからないことを言ってしまったので、そりゃあ中多先輩も目を丸くするのは道理だ。

 ともかく、本を開く。

 数ページ、カラーページが続き、漸く本編かと思えばキャラクター紹介と目次を挟み、よくわからない設定のページが現れた。そして、その次のページから本編だ。

 ラノベを読んだことはないが、ラノベのテンプレはわかっている。

 転生、美少女に助けられる、なんか色々ある、英雄になる。というルートか転生、神からチート能力を手に入れる、無双、ハーレム、英雄になる。など、そりゃあ面白いわけがない。

 どこかでみたことのあるような話の展開とタイトルから想像できるオチなどから面白みなど感じられず仏頂面で読んでいた。

 うわあ、すぐデレる。どうせそろそろベッドインでもするんだろうな。ああ、やっぱり。流石にそこの描写はないか。あ、悪役令嬢の許嫁だ。どうせ主人公のことが好きとかで断るんだろうな。ほら、断った。

 更に惹かれあって、からの、来たよ、イチャコラしやがって、つまんな。


 結論、成果はなし。

 やはり内容ではなくてラノベ読むこと自体に固執しているのかもしれない。

 そうなるとラノベを読む理由を知らなければならないが、これについては物凄く自然に、そして、本人に聞くことができる。

「唐津部先輩、なんでラノベを読むようになったんですか?」

「ん?ああ、ラノベってさ、内容が薄いってよく言われるけど、その分、話にのめり込みやすいじゃん?」

「まあ、確かに、内容は入ってはきました。」

 成る程。つまり、話にのめり込みやすいから読む。話にのめり込むというのは現実からの乖離を表していたりもする。

 ということは、ラノベを読むことで現実から逃げている?

 もしそうなら唐津部先輩はやはり過去に何かを抱えている。

 しかし、ラノベに逃げるというのは賢明かもしれない。

 私が好む利根川律のようなやや、グロテスクな文章や、池鑑子の更にグロテスクなものだと更に病んでしまう恐れがあるわけだから、そういう面で言えば都合よく話が進むラノベは良いわけだ。

 あまり純文学を押し付けないようにしよう。

 私はチラと中多先輩を見た。


 *


 唐津部先輩が抱えている過去は恐らく益田さんが教えてくれた噂、妹を亡くしたという噂が関係することは確実だ。

 もしそうでなければ肉親を失うよりも最悪なことを経験したことになる。(具体的な例は挙げられない。挙げられたとしてもその想像だけでトラウマになりそうである。)

 今、私は次の短編のネタ探しのために校内をうろうろしている。

 珍しく、隣にいるのは星山先輩だ。

 本当に珍しく、ネタ探しに行きます、と言ったら、「私も行く。」と言うから部室はややざわめいた。

 ただ、珍しいとかそんなことはどうでもいい。今、重大な問題はとても気まずいことだ。

「せ、先輩、なんで、付いて来たんですか?・・・あ、いやいや、あの、付いて来て欲しくない訳ではなくて、その、珍しいなって思いまして。」

 星山先輩は少し考える素振りをしたが、それは素振りだけで答えることはなかった。なんだそれ。

 言葉のキャッチボールという言葉があるけど、今、キャッチボールをしようとして投げたら捕ってくれたけど、投げるフォームを構えて終わった感じだ。

「せ、先輩?」

「あのさ、副会長に何言われたの?」

「へ?」

 投げるフォームを構えた後にサッカーボールをいきなりこっちに蹴らないで欲しい。私のグローブをどうしてくれるんだ。

 私はいきなりの質問にやや戸惑い、そして、漸く質問の意味を理解し、答えた。

「い、いや、その、部活は楽しいか?みたいな感じです。」

 嘘だ。

 当たり前だが、唐津部先輩の過去を知れ、と言われたなんて言えるわけがない。

「嘘ね。」

 なんで、バレたんだ?

「あなたは何かを調べてる。それもあまり好ましく無いもの。」

 ぐ。そこまでお見通しか。

 なるべく表情を変えず、そして、声色も自然を装い、

「な、何言ってるんですか。私が何を調べてるって言うんですか。」

 これが墓穴だと言うことはすぐにわかった。

「唐津部さん。」

 !?

 自分でもわかるような動揺の仕方をした。

 慌てて隠そうとしたけど、遅いことがわかってるのでやめた。

「・・・なんで、わかったんですか?」

「なんで、なんでと言われても理由はあの副会長が関わっているから。」

 確かに根拠にはなっていないが、恐らくそれが最大の根拠なんだろう。

「あなたがやっていることは邪道よ。人には誰しも知られたくない過去がある。貴女もあるだろうし、棚島も私も。」

 はっ、とした。

 確かにそうだ。

「どうしても続けるなら私は止めない。だけど、それで何かが壊れても私は知らない。」

 何かが壊れても。

 星山先輩は立ち竦んだ私を置いてさっさと行ってしまった。

 何が壊れるのか。

 それを見てみたいという歪んだ知識欲が現れている自分を客観的に見ている自分がいた。

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