壱 入部。
気分転換の新連載です。
やってみたくてしょうがなかったので、やってみます。
「こんにちは。一年四組、四十九番、木内加奈です。」
私、木内加奈は後悔している。
私をみる上級生は全て鋭い目付きで、悪いことを責めるような目だ。
「え、えっと、部活動見学で来ました。あ、あの、わ、私、本が好きで、よく近代文学を読み、ま、す。」
ああ、こんなことなら益田さんの言う通り止めとけばよかったかなぁ。でも私絵も音楽も運動もできないし。帰宅部もカッコ悪いし。
「あ、ああ、見学の子ね。わかった。いや、あのね、ウチの部活はあまり日の当たらない部活だから見学が来るのが珍しくてね。」
そう言って立ち上がったのは絵に描いたような好青年だ。名札に赤いバッジがあるから三年生か。
「あのう、私何か悪いことしましたか?」
恐る恐る聞くとさっきの三年生は慌てて言う。
「そんなことないよ。ただ、みんな執筆中でカリカリしてるんだ。鉛筆も机にカリカリってね。」
・・・ギャグセンスは無いらしい。
「部長、そんなんだから人が来ないんだよ。」
一人の女子生徒がそう言った。この人も三年生。
「え、何が悪かったんだよ?」
好青年は女子生徒に振り向く。
「上手く無いギャグなんか言ってないでさっさと案内でもしたら?」
女子生徒はまた原稿用紙に向く。
「ああ、やっぱりつまらなかったかな?」
「はい。」
「ええー。」
あまり怒らなさそうだからって本音が漏れてしまった。
「まあ、いいや。お名前は?」
「え、木内加奈です。」
さっき言ったじゃん。
「木内さんね。じゃあ今からここの案内をするね。」
そう言って案内が始まった。
この文学部は月に一度、互いに短編を見せ合い、書評し合い、そしてまた来月に向け短編を書く。
学期に一度、また長めの文章を見せ合う。これも短編同様見せ合い、書評し合う。そして、一番良かったものをどこかのコンクールに出品する。最近はあまりいい評価は無いらしい。
文化祭では自費出版で短編集を売る。
売れようが売れなかろうが赤字にならないから、遊び程度でやってるらしい。
成る程、中々楽しそうだ。
案内、というか紹介をしてくれた好青年、棚島先輩により自己紹介が始まった。
はじめは棚島先輩。
「えーっと、棚島康人って言います。三年です。残念です。・・・、あれ?つまんない?・・・好きな作家は西野迅です。入部したらよろしくね。」
次は棚島先輩のギャグを指摘した先輩。
「私の名前は星山冬加。三年。好きな作家は梨川りんご。」
星山先輩、ね。よし、覚えた。
「私の名前は唐津部春夏です。ラノベが大好きです。特に最近は男の子同士が愛し合う、いわゆるBLにはまってます!好きな作家さんはこんにゃく大王先生です!よろしくね!あ、二年です!」
「よ、よろしくお願いします。」
唐津部先輩はあんまり話が会わなさそうだなあ。
というのも私はあまりラノベが好きではない。
「僕の名前は中多大介。二年。ここにいるラノベ豚なんかより、遥かに文学的な少年です。好きな作家は秋目桜です。」
中多大介先輩は話が合いそうだ。
さっきの唐津部先輩がラノベ豚と呼ばれて中多先輩に必死に抗議している。
「じゃあ最後に木内さんの自己紹介もよろしくね。」
棚島先輩に言われて、私は自己紹介した。
「えっと、私の名前は木内加奈といいます。よくキウチと呼ばれますが、キノウチです。好きな作家は中多先輩と同じで秋目桜が好きです。」
そういうと中多先輩はいきなり私の手を掴んで上下に振る。握手だということに気づくのに少しラグがあった。
「木内さん、秋目桜のどこが好きですか!」
あまりに積極的なのでややひいてはしまう。
「え、ええっと、利根川律とは違うあの独特なミステリーとかが好きです。」
「『金木犀』とか!?」
「そ、そうです。個人的には続編の『銀木犀』の方が、好きです。」
「わかる!あまり知られてないけど、『秋の香』とかいいから是非読んでね!無ければ貸すから!」
「は、はい。」
ちょっと、熱心過ぎるような?
ともかく、私の文学部生活は始まった。