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ネバー・ネバーランド

『不思議の国のアリス』

著書:イギリスの数学者チャールズ・ラトウィッジソンが、ルイス・キャロルのペンネームで書いた児童小説。


 服を着た白ウサギは、兎に角、足が速かった。短距離走世界記録保持者、人類史上最速のウサイン・ボルトさえも顔負けのスピードだった。そんな白ウサギについていけるわけもないが、それでもピーター・パーンとティンカー・ベールとカーコはヘロヘロになりながらもどうにか追いかけ追いついていた。

「もう、やだッ、無理だよ!」

と、カーコが悲痛な叫び声をあげた。

 矢庭に、白ウサギが立ち止まって、こちらに向き直り立ち上がった。カーコがビクッとして、何か不味いことでも言ったのかと後退りすると、突如、白ウサギはライトニング・ボルトのポーズをとった。

ゴロゴロゴロ!

快晴の空に、雷が鳴り響いた。

 茫然と立ち竦んでいるピーター・パーンとティンクル・ベールとカーコに気にもかけずに、白ウサギは走り出し瞬く間に小さくなって森の奥深くに消え去った。

 疲労困憊のピーター・パーンとティンクル・ベールとカーコは、あてもなくヨロヨロヨタヨタと森の中を彷徨っていた。

「どこへ行くんだ?」

 声がしてその方を見上げると、木の枝にのんびりと寝そべっているチェシャ猫が、こちらをじっと窺っていた。

「儂等は疲れておるんじゃ、白ウサギを追い駆けてきたんでな。休める所を探しておるんだが、そなたは知らぬか?」

 ピーター・パーンが尋ねると、チェシャ猫が答えた。

「それなら、いい所があるぜ」

「知っておるならば教えてくれぬか。礼はしたくてもできぬが」

「礼なんていらねえさ」

と言って、チェシャ猫は前方を指差した。

「この先を行けばあるのじゃな」

と、ピーター・パーンが見上げたら、チェシャ猫の姿は既にそこにはなかった。

 幾分元気を取り戻した三人は、ゆったりとした足取りでチェシャ猫が指差した方向へと前進した。暫く歩いて行くと急に視界が広がり、木々を切り開いた中に大きな屋敷が建っていた。玄関扉についたノッカーをコンコンと叩くと、ドアが開いて執事らしき男が顔を出して言った。

「いらっしゃいませ。ピーター・パーン様とお連れの方々ですね」

「いかにも、そうじゃが」

 ピーター・パーンがドヤ顔で返事すると、

「チェシャ猫が、帰り道に教えてくれたのですよ」

 執事が言い、ピーター・パーンが照れ隠しするように意味もなく笑った。

「カ・カ・カ・カ」

「さあ、どうぞ。お入りください」

 ピーター・パーンとティンカー・ベールとカーコは執事に促されて家の中に入り、ティー・パーティが行われている広い庭へと案内された。

 庭に置かれたテーブルには、耳元に藁をつけた三月ウサギと帽子屋とヤマネ(眠りねずみ)の三人が、横並びに椅子に腰かけて茶を啜っていた。

 イラストレーターのジョン・テニエルは、挿絵の中で三月ウサギの耳元に藁をつけることで白ウサギとの違いを表現した。当時の風刺画で藁は愚か者を表すアイテムだった。

 ピーター・パーンとティンカー・ベールとカーコが三人の前に座ると、執事がやってきて、三人の前にティー・カップを置いて、紅茶を注いだ。

 執事が去ると、いきなり帽子屋がなぞなぞをふっかけてきた。ピーター・パーンとティンカー・ベールとカーコは紅茶を啜りながら思考を巡らしたが、そのなぞなぞの答を見い出すことはできなかった。そう、そのなぞなぞには元から答などなかったのである。

 つまらないお茶会に退屈してきたカーコは、大きな欠伸をした。それを見た三月ウサギは、

「欠伸とかけて、何ととく」

と、帽子屋に持ちかけた。それを受けて、

「欠伸とかけて、何ととく」

と、ヤマネに投げかけた。

「欠伸とかけて、何ととく」

と、次に目の前に座っているカーコに向けて発した。

 考えもせずにすぐさま、カーコはティンカー・ベールに問い掛け、ティンカー・ベールも考えもしないでピーター・パーンに助けを求めた。

「欠伸とかけて、カ・カ・カ・カととく。その心は、意味のない笑いに意味のないお茶会。お後が宜しいようで。カ・カ・カ・カ」

と、ピーター・パーンは意味もなく笑った。

 ポカンと口を開けて眺めていた三月ウサギと帽子屋とヤマネは、

「カ・カ・カ・カ・カ」

と、ピーター・パーンを真似て意味もなく笑い出した。

「疲れも癒えたことだし。そろそろ、失礼するとするかな」

と、ピーター・パーンは立ち上がった。

「うん、そうしよう」

と、ティカー・ベールも立ち上がった。

「うん」

と頷いて、カーコは立ち上がった。

「カ・カ・カ・カ」

 三月ウサギと帽子屋とヤマネは意味もなく笑い続け、終わる事のない意味のないティー・パーティもまた続けていた。

 執事に見送られて、三月ウサギの家を後にしたピーター・パーンとティンカー・ベールとカーコは、またしてもあてもなく足取り重く歩いていった。

 背後からエンジン音が聞こえてきて、近付いてきて、ピーター・パーンとティンカー・ベールとカーコが脇に寄ると、長~い長~~いリムジンが横付けするように停車した。

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