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シャンロック   作者: オスカ
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第1章 #1  また同じ日を迎えて

 涼しい風が、眠気を帯びた横顔を撫でる。5月に入って暖かい季節になってきたが、早朝の風はまだ涼しさが残る。まだ人気が少ない通りを通って学校へ向かう。



「よーすショウ」


 後ろから声を掛けられた。聴き慣れた声だ。声の主はショウの幼馴染であり、同じ高校に通っている早瀬ハヤセ 快斗カイトだ。

 正確は明るく、運動神経も抜群とまさにスポーツマンと言って遜色ない。実際、陸上部に入っていて部内でも頼りにされている・・・らしい。

 初見でこいつと出会えばその明るさにこちらも話しかけやすいだろうが、十数年も付き合い続けるとすこしうざったくもなる。

 特に朝は。


「なんだ、今日は早いんだなカイト」


 陸上部は朝練が無い為、カイトはいつも授業開始ギリギリに登校する。その為、家が近い者同士でありながらあまり一緒に登校することはないのだが、今日は珍しく朝早くに登校している。


「たまには俺だって早起きくらいするさ。いやー清々しい朝だ」


 手を頭の後ろで組み笑いながらそう呟く。


「にしてもショウ。なんでいっつもお前はこんな朝早くから登校してんだ?」


「特に理由なんてないよ、まああれだ、早起き早登校が習慣になってるだけだな」


 思い返せばなんでこんなに早く学校に行くようになったのかは覚えていない。小学校の頃からの習慣だが、それと言って理由となるような出来事があったようにも思えない。自分でも分からないまま習慣化してしまったのだ。


「まあ、早登校は色々得するよ、ギリギリになって遅刻することもないし、宿題やり忘れてたら授業開始までに終わらせられるし」


 遅刻もあまりしないし、宿題を家でしっかり終わらせるショウにはあまり関係ない話だが、カイト目線になると結構ありがたい話ではないだろうか。こいつも真面目ではあるが何かと抜けている所がある。


「それは良いな!んじゃ、今日も学校に着いたらやり忘れた宿題片づけるの手伝ってくれ」


「やってなかったんかい」


 関西人でもないのに関西弁でツッコんでしまう。


 そんな他愛もない話を繰り返しながら二人は学校へ向かう。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――






 帰り道、ショウはまっすぐ家には帰らずに、近くにある小さな山へと向かった。山の中腹には沈む夕日を眺めることが出来る展望台のような場所があり、ショウにとってこの場所は幼いころからずっと通っている場所だった。

 

 その展望台までは歩いて10分もかからず緩い傾斜の階段を登っていくだけでつく。展望台は周囲に木製の柵で覆われ、丸太のようなイスが3つ等間隔に並んでいる。


 柵に体重を預け、肘をついて夕日が照らす町を眺める。何かに悩んだときはいつもこうしてきた。絶景とは言いすぎだとしても、ここから見える景色がショウは好きだった。


 そうして眺め始めて数十分。太陽が地平線に沈みかけ、徐々に空に暗がりが見え始めた。そろそろ帰ろうかと、かばんを持ち階段の方へ向かう。

 その時、山の林の向こうから一瞬、強い光が見えた。



「なんだ・・・?」



 この山の奥には人が住んでいる場所なんてない。地元の子供たちが遊び場に使うことがあっても、あんな強い光が放たれるような事なんてほとんどない。

 


「行ってみる・・・か?」



 単なる好奇心が林の奥へと歩を進ませようとする。ショウ自身この山の中には何度も遊び場として入ったことがある。多少暗くなっても迷って町に戻れなくなるようなことはほとんどない。その自信から何の躊躇もなく、ショウは林の奥へ足を踏み入れた。






 生い茂る草木の合間を縫うように歩く。歩道としては全く整備されていないが、遊び場として何度も入ったことがあるショウにとっては何の苦でもなかった。苦があるとすれば学生服のままだから少し歩きにくいだけだ。

 一度家に帰って私服に着替えてからでもよかったか、少し汚れてしまった制服を見て少し後悔しながらも歩を進める。


 ある程度進むと、草林の合間から人の声が聞こえてきた。男性の声だ。草むらに隠れ、その声のする方を見る。草木が無く少し開けた場所に、黒いスーツを着込んだ男が立っていた。どこからか迷い込んだサラリーマン、この山に何かを建てようとする建築設計士、この男が何者かショウは頭の中で考える。


 まるで行動が不明な人物の正体を暴く探偵の様な、少し心躍る気分になっていたショウだった。


 



 ――――――だが、そんな子供じみた考えは一瞬で冷え去った。





 男が片手に持っていたのは、拳銃だった。 黒く光るそれは、まさしく人を殺すためのものだった。


 さっきまで在った気楽な感情は一気に緊張へと直走る。途端に周囲の空気が重くなり、息苦しさが現れる。

 


 見つかれば殺される


  

 目の前に立つ男が何を目的に、何のためにこの場所にいるのかは分からない。だが、拳銃を持つ以上一般人ではないことは確かだ。何か悪事を働いているとすれば、それを目撃してしまった自分は殺されてしまう。あの男のもつ拳銃の銃弾を1発でも身体に当たってしまえば、致命傷になってしまう。


 恐怖が舞い上がり、手が震える。死の意識を感じ、過去に体感したことのないほど心臓の音が鳴り響く。見つかりたくないのにそれは鳴る。止まって欲しくても鳴り続ける。


 ショウは急いでその場を離れようと、音を立てないように移動しようとする。だが、運が悪くも、ショウは足元に生えている草で足を取られ、転んでしまう。


 おもいっきり前屈みに転んでしまったショウは急いで身を起こそうとする。だが顔を上げたときに目線の先に、いや、目の前にあったのは黒く光る拳銃の銃口だった。


「まさかこんなところに人が来るとはな」


 銃を突きつけた男が言葉を発する。静寂の林の中で自分の心臓の鼓動だけがうるさく音を鳴らす。


「悪いが、見られた以上は死んでもらう」


 男から放たれた言葉。死というワードが頭の中で反復する。こうも人はあっけなく死ぬのか。どうにもできない理不尽な事が起きれば、人は成す術もないまま死へと誘われてしまうのか。


 男が引き金を引こうとする。





 突然光が溢れた。 男のそばに落ちているキューブ状の黒い箱が突然光る。



「」



 男が驚いたような顔で何かを呟く。だがその言葉はショウには届かずそのまま光に飲まれ気を失ってしまう。

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