六話 時計って凄くね?
始めた時よりも長く書けるようにはなったなぁ。
今俺は、義父さん、[タチバナ・ハヤト]の家の前に居る。こっちも邸宅、というかさっきの所より豪華だ。いや~、結構疲れたわ。割と近かったが、此処に来るまで義父さんの今までの話を散々聞かされた。
例えば、「一人目の妻とは勇者に選ばれたその日に会い、一目惚れしたんだ。今の俺は思う、あれは運命だと」とか
「魔精霊はマジで強い、あれ無理ゲーかと思った」とか
「俺の娘達は、母親似でマジ可愛い、クロト襲うなよ」とか。
俺は、一つ一つ言葉を返した。
「妻って事は、俺の義母さんになる人か。俺を受け入れてくれるかな?」とか
「それは、戦いたくねぇ。ってか無理ゲーって何?」とか
「襲わねーよ。ってか襲えねーよ。そんな事したら、多分俺はあの世行きだ...」とか。
只の会話だけれど、結構楽しかった。俺は他人と会話した事が殆ど無かったからかもしれない。
そんな会話を少し続け今に至る。
「二人共、僕の事忘れてません?」
「...マイケルさんだよな?、俺は忘れてないよ」
俺はそう言うが、はっきり言って忘れてた。まぁしょうがない。いろんな事があったんだし。義父さんは...
「あ、マイケル。居たのか」
「「...」」
俺もマイケルさんも何も言えなかった。マイケルさんが可哀想だろ。
「そういえば、マイケルさんが『何処にも行ってはいけない』って言ってたのは義父さんを呼ぶ為だったのか...あれ?呼んでどうするんだ?」
「あぁそれはね、前からハヤトさんは君を息子にしたかったらしいんだ。理由は僕も聞かされてない」
「前からか...」
義父さんと会うのは、さっきが初めての筈だ。今までは、村ですれ違うぐらいだった筈だ。まぁ、覚えてないけど...
「クロト、取り敢えず今日は俺が用意した部屋だけで過ごしてくれ。今日、俺が家族だけで相談して、明日の朝皆で話そう。服とかは部屋に持って行かせる。トイレとか浴場とかの案内は...マイケルに任せるか」
「部屋だけか...まぁ、いいや。分かった、父さん」
「了解しました!」
俺は少し不満はあるが世話になっている身なので、我儘は言えないと直ぐに承諾し、マイケルさんは敬礼して家の中に駆け込んでいく。
「クロト、取り敢えず部屋までは俺が案内する。付いて来い」
そうして、俺は義父さんと共に家に入っていく。
「すげぇ」
中はめっちゃ広くて豪華だ。
「ここにある、高級な品は殆ど貰い物だ。使う事なんて滅多にないし、金をそんな事に使いたくない。後、今日は行けないが庭に結構広い畑があるんだ。そこら辺も自給自足っていうのが俺は好きなんだ」
「普通の貴族だったら考えられねぇな、多分」
「そうだろう」
普通の貴族だったら、家の中は金で出来た食器や、有名な画家が描いた絵などが至る所にある、らしい。俺も人から聞いただけだから。
「おっと、ここがクロトの部屋だ」
そう言って義父さんが部屋の扉を開ける。
「広すぎだろこれ!しかも豪華!」
ベッドに、空いている本棚、机まである。
「縦横十メートルぐらいだぞこれ?小さい方だろ。豪華なのは家族だからだろ。まぁこれでも貴族からしたら普通なんだけどな」
「そ、そうなのか」
これで普通、そりゃあゾデブが太る訳だ。
「じゃあクロト、何も無ければ次に会うのは明日になると思う。何かあれば、机の上に置いてあるボタンを押してくれ。マイケルが来るから」
そう言って義父さんは部屋から出ていく。
「義父さん!」
俺は、義父さんを呼び止める。
「まぁ、その...ありがとう」
「...どういたしまして」
と言って、義父さんは照れ臭そうに去っていく。
「さてと。ハクア、いるか?」
俺は部屋の扉を閉め、そう言うと、ポケットに入っている時計から光の粒子が出てきて人の形を作る。
「随分と丸くなりましたね、クロト」
「一言目がそれかよハクア」
ハクアは、最後に見た時と変わらない服装で床の上に正座で座っている。
「それよりも私に聞きたい事があるんでしょう?」
「あぁ。まず一つ目、俺の髪に白髪が混じっていて片目が琥珀色な事。二つ目、めっちゃ上がった俺の身体能力。三つ目、俺の頭に直接伝わってくるハクアの声ってところか」
「成程。まず一つ目の質問ですが、恐らくその時計が関係しているでしょう。その時計に触れたことで、魔力がクロトの体に流れ込み体を作り変えてしまった。その反動で髪の一部の色が抜けたというところでしょう。眼の色は魔力を時計から無意識に流してしまっているからですね。時属性の色は琥珀色ですから」
「そうなのか。うん?体を作り変えたってことは、身体能力が上がったのもその影響か?」
「恐らくそうでしょう。後、三つ目の質問ですが、契約者と心の中で話をする技。[念話]です。私の場合は時計を通して話をしないといけないので少し大変なのですが...」
「そういう事か...すまん、後もう一つ質問していいか?」
「ええ、いいですよ」
「俺が諦め掛けた時、『大丈夫』って言ったのは何でだ?」
「あぁ、それは貴方の父親となったタチバナ・ハヤトの契約精霊と話したからです。同じ神級精霊だったので」
「まじで!?神級精霊多くね?」
「偶々でしょう」
「そうか...」
「そうです」
結構色んな事が知れたな。俺もハクアと出会ったことですごい変わったな。何というか、疲れた。
俺は何となくポケットから時計を出す。そういえば...
「ハクア~、この時計どんな機能があると思う?」
「そうですね、私も分かりません」
「剣とか武器を創れればいいのにな~。その方が便利だし」
「それは難しいんじゃないでしょうか」
「やることもないし、調べてみるか。剣を創れ~」
冗談でそう言うと、時計から半透明な歯車が現れて、俺の目の前に両刃の剣が形作られていった。直ぐに出来上がった剣。
「...なぁ、ハクア」
「...何でしょう」
「時計って凄くね?」
「凄いですね」
俺達は少しの間、完成して床に落ちた剣を見ながら呆然としていた。
クロトの服は現在とてもボロボロです。