四話 そこには、勇者が居た。
文字数がなかなか多くならない。
村の悲惨な現状を理解した俺は、一目散に自分の家へ走り出す。
すると、村に居る魔物が一斉に襲ってくる。
「どけぇ!」
俺は叫びながら、魔物の群れへ突っ込んでいく。見た所いるのは、魔物の中でも最弱と呼ばれている[ゴブリン]。それでも、普通の何も無い状態の人間が戦ったら負ける。
しかし、既に冷静じゃない俺はそんなことも考えず突っ込む。
「grrrrrrrrrrr!」
魔物は俺を、格好の獲物と見ているようだ。
「邪魔だぁ!」
俺は前方に見えるゴブリンに向かって、拳を振る。すると拳は、軽くゴブリンの腹を貫く。腕に感じる肉と内臓の感触に不快感を覚えながらも、腕を引き抜き、後ろから迫るゴブリンを回し蹴りで迎撃する。
そして更に、次のゴブリンを殺そうとした瞬間...
「動かないで下さい」
と、後ろからハクアの声がかかる。その言葉に俺は、つい足を止めてしまった。どういう事かと思ったその瞬間、俺の横を白い線が通り、近くにいたゴブリンの頭が胴とお別れした。
その光景に吐きそうになるのを堪え、先程白い線が通った先を見る。そこには、純白の剣を持ったハクアが居た。周りが血まみれなのにも関わらず、ハクアには一切血が付いていない。
「クロト、先走りし過ぎないで下さい。まずは、落ち着いて状況を見て下さい。そうしなければ、目的の場所にたどり着く前に死にますよ」
振り返らずに言ったハクアの言葉は、俺を正気に戻らせた。
「すまん、ハクア」
「...クロト、貴方が焦るのも分かります。ですが、貴方が死んだら私も死ぬんです。そうなれば、貴方の家族の助かる確率も減ります。これからは、もう少し冷静に物事を考えてください」
「分かった」
ハクアの言う通りだ。先程まではゴブリンしかいなかったが、それ以上の魔物がこの先で待ち構えていたら、まずい状況になるのは確かだ。
「でも、時間が無い。急いで計画を立てよう!」
「...いえ、もう大丈夫なようです」
「大丈夫って何が?」
そう思った時、空から光の雨が降ってきた。
「光、雨属性超級合成魔法。[ライトレイン]。単純な名前ではありますが、その効果は絶大で、広範囲にわたり、人の傷を癒し、火を消し、魔物へダメージを与える。これだけの魔法の使い手が来たら、もう安心でしょう」
ハクアの説明に、俺は一安心する。
「でも、父さんと母さんは無事か見に行かないと」
「分かりました。私はクロトの時計の中に入っています」
ハクアはそう言うと光の粒子になって、俺が無意識のうちにポケットに入れていた時計の中に消えていった。
「驚くことばかりだな。...父さん、母さんどうか無事で居てくれ」
家族の無事を祈って、俺は走り出した。
少し経ち、俺は住民の避難所と思われる場所を発見した。そこは、かつてこの世界を、強大な魔精霊から救い、勇者とまで言われた[タチバナ・ハヤト]が持っている邸宅の一つらしい。
「父さん、母さん、此処に居てくれ?」
早く会いたいと思い、邸宅に入ろうとした。
「君、ちょっと待ちなさい」
門番らしき人に止められた。
「なんですか?早く家族に会いたいんですけど」
「君、名前は?」
「え?クロトですけど」
「君がそうか。クロト君、入っても大丈夫だ。あと、何があっても僕がもう一度此処へ来るまでは、何処にも行ってはいけない。それだけ、約束してくれ」
門番さんの必死な表情に押され、頷くと「お願いだよ」と言って何処かへ走っていった。
「何なんだ一体」
俺は、門番さんの事が気になりながらも、邸宅に入った。
「さて、何処にいる?」
部屋一つ一つ、見て回っている。
どの部屋も扉が開いている為、住人には悪いが勝手に中を確認させてもらっている。
そうして少し歩いていると、遂に発見した。
「父さん、母さん!」
俺は部屋へ駆け込む。
「クロト?クロトなの?」
「あ~、髪とか眼とか少し変わってるらしいけど、クロトだ」
「どこ行ってたのっ、心配したのよ」
母さんは少し泣いている。父さんも一安心しているみたいだ。
「ごめん...」
俺の全身から力が抜ける。
「何かしら?廊下の方、少し騒がしいわね」
母さんの言う通り、ざわついている。その時
「ここか!無能!」
衛兵らしき男が部屋の中に入って来た。
「お前が無能だな。貴族殺害容疑で即刻死刑だ」
そう言って、男は腰に差していた剣を抜いて俺に振り下ろしてくる。
「俺は貴族なんて殺してねぇよ」
俺は横に避けながらそう言う。
「黙れ!貴族様からの証言だ。無能が親を殺した、と。罪人に容赦はせん!」
「狂ってやがる」
(そうですね。私だったら、即刻切ってます)
「は?」
何故かハクアの声が聞こえる、と言うより、頭の中に直接伝わってくる。
どういう事か知りたいが、今は目の前の男だ。
衛兵なのは合っているだろうが、こいつは貴族に操られたようなもんだ。
剣が当たったら、俺は即死んでしまう。
「もういい。死に際に見せてやるよ無能、お前が契約できない精霊をな!こい、風の中級精霊。そして、その無能を殺せ!」
衛兵がそう言うと、俺の少し前に緑色の魔法陣が現れ、そこから魔法陣と同じ緑色のトンビが現れ、俺に突っ込んでくる。
この距離と部屋の広さだと回避はギリギリ。ハクアならば容易く迎撃できるだろうが、俺の周りに何かが現れる様子はない。
ふと、両親の姿が目に入る。俺は目を疑った。
父さんは、いつの間にか扉の前に来ていた貴族らしき男に金を貰い、数を数えている。
母さんは、父さんの方と俺の方を交互に見て、最終的には金を選んだ。
さっきまで、心配していた母さんは何処に行ったんだ?
避ける気力を失った。結局は家族にも見捨てられる。無能だから...俺は此処で...いや、それは駄目だ!今の俺にはハクアが居る。俺が死ねばハクアも死ぬ。
俺はもう一度、力を入れ直す。
目の前の敵を見据え...
「貴様、人の家で何をやっている」
その声と同時に緑色のトンビは白い光に貫かれ、細かい粒子になった。
部屋にいる全員は、この主を見る。黒い髪に黒い瞳。口の周りに髭を生やし、如何にもオジサンな男。
貴族らしき人が声を出す。
「貴方は、[タチバナ・ハヤト]!」
そこには、勇者が居た。
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