神狼※※※※※
魔王は、真剣な表情である。フローズは、お茶を飲みながらまったりしている。マルコシアスは、苦笑して座っている。魔王は、真剣に問いかける。
「フローズ、お前の名を教えてくれないか?」
フローズは、苦笑して小さくため息を吐き出す。
「今更、貴女が聞く必要はないでしょう?」
「だが、私は聞きたいのだ。」
「お断り致します。」
「では、命令だ。言わねば、この国は魔王軍は守らない。私は、ずっと気になっていたのだ。」
魔王は、真剣な表情を崩す事なく言っている。フローズは、沈黙の後に苦し気に言う。
「僕は、どうなっても知りませんよ?」
「構わぬ。」
フローズは、諦めたように頷いてから言う。
「では、マルコシアスには席を外して貰います。」
「何で、俺は駄目なんだ?」
フローズは、悲しい表情をして呟くように言う。
「僕の名前は、強い力を持っている。何せ……いや、何でもない。とにかく、マルコシアスには言えないんだ。だから、席を外してくれないかな?」
マルコシアスは、何か言いたげだったが席を外す。魔王は、フローズを見て待っている。
「僕の名前は………いいや、我の名は※※※※※。」
次の瞬間、魔王は凄まじい寒気を感じ、心臓を掴まれたような幻覚を見て倒れる。フローズは、悲しい表情で倒れた魔王に記憶消去の魔法をかける。
フローズの名は、祝福にして呪い。
故に、産まれながら強い力を持ち、フローズは本来の力を封印せざるを得ない。
幼いフローズは、周りにとって恐るべき存在。
子供と侮れば、最悪は命を一瞬で刈り取り存在を消されてしまう。無邪気で、癇癪でも起こそうものなら慌てて逃げられた。フローズは、幼少期はずっと孤独で隔離されていた。少年になり、力をつけてから親と会うことを許された。
とは言え、最初は会ってはくれなかったが。
フローズは、顔をしかめ頭を左右に振り考えを振り切る。そして、魔王をお姫様抱っこして椅子に座らせる。フローズは、無表情に窓から空を見上げる。
本来の力を、少しでも出してしまえば、若き魔王など赤子の手を捻るごとく殺してしまうだろう。フローズは、苦々しくため息を吐き出した。倒れる音を聞き、駆けつけたマルコシアスを見る。
「フローズ、魔王陛下に何をした!答えろ!」
「僕は、名前を教えただけだよ。」
フローズは、困ったように笑ってから言う。
「何故、名前を聞いて倒れたんだ?」
「僕の名は、祝福にして呪い。主の資格を持てば、神の祝福を持たぬ者には必ず聞けば、命を奪われる死の呪いを与える。大丈夫だよ。死ぬ前に、魔王陛下からは名を聞いた記憶を消しておいたからね。」
フローズは、座ってお茶を飲んでため息を吐き出している。マルコシアスは、フローズの頭をよしよしと撫でる。そして、優しく顔でフローズに謝る。
「すまんな。本当は、言いたくなかったんだろう?お前は、最初に断ったもんな。」
「ごめん、夕食は作ってあるから2人で食べて。」
フローズは、狼の姿になり2階に上がって行った。よほど、顔を見られたくなかったのだろう。
マルコシアスは、苦笑してから魔王を見る。
「あれ、私は………どうして?」
「………貴女は、フローズの主としての資格を失ったようです。陛下、フローズをまだ好きですか?」
マルコシアスは、暢気に笑って呟く。
「本当は、脅したくは無かった………。しかし、邪神の配下が目撃された。だから、フローズの力が必要だった。私だって、フローズが好きで傷つけたくなかった!だが、配下は許してはくれなかった。」
つまり、魔王にフローズを従わせるよう言った奴が居ると。マルコシアスは、険しい表情でアンドロマリウスと頷き合うと、泣き出します魔王を見る。
フローズは、魔王軍に居た時に帝の称号を貰った。
そして、一部の魔王軍はその力に頼りっきりであった。マルコシアスは、魔王に帰るように言ってフローズの部屋に向かう。フローズは、布団に潜っている。感情が不安定で、人化が上手く出来ずに獣人のようになっている。マルコシアスは、ベッドに座るとフローズは顔だけ出す。
「ねぇ、マルコシアス………僕は、生きてて良いのかな?僕は、あの時に………死んでいれば…………」
「フローズ、お前はもう魔狼じゃないんだな。」
マルコシアスは、悲しげに表情を歪めるフローズを見ていう。察するに、魔狼族を見捨てた戦場で、フローズは生きる為に神狼に進化する道を選んだ。
そして、それを邪神の配下に見られてしまったのだろう。フローズは、それを後悔していた。
マルコシアスは、アンドロマリウスに命じる。
アンドロマリウスは、援軍を呼ぶことにした。
そして、部屋に彼らが入ってくるのだった。