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魔王の初恋

私の初恋は、綺麗な満月の夜だった。父様が、私に護衛をつけたのだ。それが、父様の右腕フローズだった。月明かりで、彼の毛がキラキラしていて抱きつき毛をモフモフしたのだ。本当は、はしたない。


だが、フローズは動かずじっと座っていた。


しかし、暫くしてフローズの耳がピコピコと僅かに動いた。そして、少し考えてからグイグイと前足を器用に使って私を離した。私は、寂しかった。


「お嬢様、そろそろ身支度をなさってくださるメイドが来ます。なので、少しだけ離れますね。」


「嫌だ!フローズが、居ないと着替えない!」


すると、フローズは困ったように笑っている。


「姫様、我が儘を申すものではありません!」


メイド長に、怒られたが嫌なんだと我が儘を言って暴れた。もっとフローズと一緒に居たかった。


「フローズ、行かないでぇー………。」


フローズは、どうするか悩む仕草をする。そして、笑ってから私にこう言ったのだ。


「もし、お嬢様がこのパーティーを乗りきれたら。そうですね、僕の秘密を1つだけ教えます。」


「………本当か?」


私が言えば、フローズは頷いてから部屋から去る。




私は、パーティーが終わり直ぐにフローズに会うために走る。パーティーで、ドレスだったので動きにくいが必死にフローズを探した。フローズは、人化してワインを片手に父様とはなしていた。


「フローズ、私はのりきったぞ!」


「それは、偉いですね。」


フローズは、優しく笑っている。


「さぁ、フローズの秘密を教えてくれ。」


すると、全員が黙りフローズを見ている。


「うーん………。明日では、駄目でしょうか?」


「もう、待つのは嫌だ。」


私は、あの時に我が儘を言った自分を呪いたい。


「なら、約束を果たしましょうか。私の秘密は、フローズ・ヴィトニルとは名前ではなく称号です。」


全員が、知らなかったらしい。パーティーは、パニックになった。父様も、知らなかったらしい。


「じゃあ、フローズの本当の名前は?」


フローズは、人差し指を口の前に持ってきて、内緒だというジェスチャーをする。


「教える秘密は、1つだけの約束ですから。勿論、それは秘密ですよ。ちゃんと、約束は守りましたので失礼します。では、お騒がせ致しました。」


フローズは、逃げるように会場から消えた。


「おい、フローズ!おっ、おまっ!?」


慌てたように、慌ててマルコシアスが走り出す。


「フローズには、罰を与えて名を聞き出さなければな……。本人は、死んでも言わんだろうが。しかし、お前の我が儘も役に立つものだな。あの、道化から秘密を聞き出すなど。偉いぞ、ミシェーラル。」


私は、思わずその場で泣いてしまった。その頃、フローズは右腕になったばかり。つまり、フローズを貶めてしまったと悲しかったし苦しかった。


「フローズ、名を言えない理由は何だ?」


「僕がその名を、名乗る事を許されてはいないからですよ。僕は、まだ魔狼ですからね。」


フローズは、拘束されてるのに暢気に笑いながら言う。勿論、拘束はされているが怪我はない。


「では、神狼になれば教えるのか?」


「さて、その時に貴方が主に値すれば………あるいは?僕では、判断が出来ませんけど。」


父様は、苦笑してから頷いた。


「それは、掟の縛りかい?」


「そう、掟の縛りには流石に抗えません。」


掟の縛り?掟によって、何かを制限される事?


「簡単に言えば、約束は守らないと関係が悪くなりますよね?約束を、守ろうとすることで行動や発言が一部だけ出来ない。例えば、誰かに秘密や内緒の話を言わないとか制限されると思ってください。」


フローズが、私に分かるように教えてくれる。


「娘が、主になると?」


「戦争で、貴方が死ぬ可能性がある以上です。そもそも、貴方は主の条件を満たしていませんから。」


「娘は、満たしていると?」


「まだ、2つですけどね。」


しかし、この後の戦争でフローズを見捨てた。なので、私が声を掛けてもフローズは無言を貫き、笑顔で私の前から去った。フローズは、私が嫌いになったのだと思う。まぁ、仕方ない………。


私は、それだけの事をしたのだから。


でも、私はこの恋を諦めたくない。だから、コミュニケーションを取ろうとした。しかし、失言して怒らせてしまった。正直、泣きそうだ……。


いまだに、フローズの称号の意味と名前は知らないのだが。いつか、話してくれると良いなと思う。




私は、ため息を吐き出すと紅茶を飲む。


黒い髪に、赤い瞳そして白い肌である私。皆は、私を美しいと褒め称える。でも、フローズはもっと美しく幻想的な美しさだ。青みがかった、白銀の髪はキラキラしていて月の光と太陽の光を浴びると、全く違う輝きを放つのだ。そして、氷のような青い瞳は時に優しく時に冷たく光をやどす。


ああ、会いたい……。でも、会えない………。


「ミシェーラル、彼に会いに行かないのかい?」


「父様、そうですね………。」


私は、俯いてから顔を上げた。父様は、フローズを道化と言っていた。それは、どうしてだろう。


「父様、フローズは道化なのですか?」


「彼は、初代フェンリル………神殺しの魔狼の記憶と力を受け継いでいる。本来なら、魔族最強はフローズであるはずなんだ。しかし、彼はその力の片鱗すら綺麗に隠している。だから、彼は道化なのさ。」


なるほど、フローズは魔王にならないために弱い振りをしていると。確かに、道化だな………。


「なら、私を殺せば良いものを…………。」


「1度は、忠誠を誓ったんだ。だから、殺せなかったのかもね。魔狼は、忠誠心と誇りが高く有能だ。忠誠心が、消えても誇りが邪魔して殺せなかったんだろうよ。彼は、やはり味方で居て欲しい。」


父様は、優しく笑ってそう言った。フローズに、会いに行くだろうか?フローズは、嫌がるだろうな。でも、それでも………やっぱり、会いに行こう。

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