魔狼狩り
フローズ君、ピンチ!
さて、カボチャの煮物の完成!
フローズは、ご機嫌な様子で鍋の蓋を閉める。煮崩れせず、味が染み込んだカボチャを味見してから。
「やっぱり、和食も美味しいよねぇ~♪」
ちなみに、異世界勇者の知識で和食はこの世界にも存在はする。ただ作れる人が、右手で数える程しか居ないだけ。フローズは、何故か和食を気に入って以来だが、レシピ調べて作るようになっていた。
今日の和食メニューは、ご飯と味噌汁と焼き鮭とほうれん草のおひたし………そして、カボチャの煮物。
「ラスタ君が、楽しみにしていたし。」
「おはようございます、フローズさん!」
おや、噂をすれば影ってね。フローズンは、暢気に笑ってラスタを見る。そして、微笑んでから言う。
「おはよう、ご注文は?」
「勿論、朝の和定食で!カボチャ♪カボチャ♪」
フローズは、朝の和定食を出すと考える。さて、する事は終わらせたんだよね。うーん、レシピを見てアレンジでも考えようかな?今日は、大きな依頼で冒険者達は出払っている。なので、暇なのだ。
「それにしても、最近は冒険者ギルドに行かないから、大きな依頼の内容を見てないや。」
「何か、名前持ちの魔狼の討伐だと………」
すると、フローズは驚いて息を呑む。それは、自分の事を示しているのか?表情に出さず、適当な返事をしてレシピを見る振りをする。ラスタは、気づく事なく食事する。フローズは、苦々しい表情だ。
さて、残っていた僅かな冒険者も仕事に出掛けた。
そして、2週間がたち………
フローズは、ため息を吐き出して店を閉めた。そして、3階のベッドに倒れるように寝る。
「おい、フローズ?大丈夫か?」
「…………マルコシアスか…………」
フローズは、いつもより低い声で名前を呼ぶ。
「まぁ、怒るのも無理ないか………。でも、少しで良いから聞いてくれないか?フローズ…………」
マルコシアスの声音に、何かを感じてフローズはベッドから起き上がり座る。そして、無言でマルコシアスに続きを促す。マルコシアスも、頷くと言う。
「あれは、人間が勝手にやった事だ。」
「だから、自分達には関係ないと?違うだろう……?人間が、名持ちを自ら討伐しようとは思わないはずだよ。なら、理由は魔族側に有るはずなんだ。」
フローズは、鋭い視線をマルコシアスに向ける。マルコシアスも、苦笑してから頷くと頭を下げた。
「本当に、すみませんでした!」
「魔族は、僕さえも殺すのかな?そう言う、方針なのかな?ならば、容赦はしないけどさ………」
フローズの周りが、一瞬で凍てついてくる凄まじい魔力だ。フローズは、人化を解除して縮小魔法で中型犬サイズになりベッドに座る。
「待て、フローズ!俺達は、敵対したくない!」
「ならば、教えてくれる?事の顛末をさ。」
フローズは、鋭い視線を向けて静かに見る。
「事の始まりは、3週間前なんだが。まず前提として、魔王軍を抜けたお前を気に入らない奴は少数派だが確実に結構いる。そいつらが、魔王軍の名前で貴族たちに話をちらつかせた。そして、欲にまみれた貴族は冒険者ギルドに依頼をだしたって訳だ。」
フローズは、目を閉じて人化する。そして、座り直した。マルコシアスは、思わず安心してしまう。
「なるほど、それで魔王陛下のご意見は?」
「討伐反対、フローズに事のしだいを告げよらしいぞ。ってな訳で、よろしくなフローズ店長!」
「………………は?」
素で、思わず間抜けな声を出すフローズ。
「魔王陛下から、お前の護衛兼店員として動くように言われた。あと一人、アンドロマリウスが来るからさ。フローズを、心配してたしな。」
「お待たせしました、よろしくお願いいたします坊っちゃん。私は、アンドロマリウスです。」
アンドロマリウス、盗品を取り戻したり、泥棒の正体を究明できる悪魔で蛇を握った人の姿だ。隠された事柄を明らかにでき、裏取引の現場や隠された財宝の場所を発見す事が得意。正義感が強く、召喚者が邪悪な心の持ち主だと自ら罰を与える良いやつ。
というのが、魔界での評価だった。
ちなみに、アンドロマリウスはソロモン72柱の第72位である。ソロモンの柱は、魔界でも重要視されて丁重にもてなされる。マルコシアスも、なんだかんだで第35位の柱であるし。
努力と実力のみで、魔王の右腕となったフローズはソロモンの柱たちからも一目おかれていた。それほど、優秀であった為に例外なくアンドロマリウスも尊敬していたのだ。本人は、知らなかったけど。
「その、坊っちゃんは………」
「では、フローズ様ですね。」
うーーん、どうしたものか?
フローズは、助けを求めるようにマルコシアスを見るが無視される。フローズは、苦笑して頷く。
「わかったよ。どうせ、帰るように言っても聞く気はないでしょ?部屋は、好きに使っていいよ。3階には、ここを含めて四部屋あるしね。2階にも、空いてる場所はある。それと、僕は手を出さない。」
「それは、黙って殺されるって事か?」
マルコシアスは、真剣にフローズを見てから言う。
「そうだよ。邪神に、捕まるよりましだよ。」
すると、二人は驚いてからフローズを見てくる。
「邪神から、接触して来たのですか!」
「マジかぁ……。じゃあ、お前を狙っていると?」
フローズは、真剣な表情で二人に告げる。
「神狼の力が、とても欲しいらしい。夜に、街に邪神の分身が入り込んだ。その時に、低い声で言われたんだ。まぁ、躊躇なく殺したんだけど。」
マルコシアスは、苦々しい表情で呻くように言う。
「予定変更!二人じゃ、守りきれない!」
「………ですね。とにかく、フローズ様は暫くお店に出ないでください。私達が、暫くは引き受けます。怪しまれても、私達が説明しますからね。」
フローズは、しぶしぶ頷いた。次の瞬間に、力が抜けたのかフラッとベッドに手をつき、そのまま崩れるように倒れた。驚く、マルコシアス。
「フローズ!?」
「どうやら、精神的ストレスですね。少し、熱が有るようですが大丈夫でしょう。」
アンドロマリウスは、真剣に倒れたフローズを見てから苦笑してマルコシアスを見る。
「まぁ、朝から夕方まで1人でお店を開いて、深夜は街のパトロールと敵の排除で忙しいんだろう。それに加えて、魔狼狩りの件があるからな。」
申し訳なさに、二人は思わず視線をそらした。
次回 気付いた者達