先生と村人
今回も大勢のヒトが仕入れの旅に名乗りを挙げてくれたので、一帯で協力して一括して物を送る事になった。冬に取引で盛り上がるのは珍しいから一帯のヒト達も大喜び。
「今回の取引も美味えなあ」
「ああ。また美味えもんが増える」
「麻も大きいわよ。もう少し安いと助かるってずっと思ってたもの」
「ね。ほんと先生に感謝だわ」
大型取引は何時だって美味しい。必ず新しい要素が齎される。ただ物を取引するのとは訳が違う。完成した商品の取引ではなく、材料の取引になるのだからな。
「もうちとヒト手が有りゃなあ」
「「うんうんうん」」
本当にそれだ。その点は申し訳なく思う。特にこの村は私が住んでいるだけに他の三ヶ所より引っ越してくる者が出ない。馴染んでくれれば情報を取り寄せやすいだけに他での移住者より頑張ってくれるのだが。こればかりはどうしようもない。
「んー。引退間際の退治屋に声掛けてやろうか?」
「ほんとか!?」
「でも、先生の事とか大丈夫?」
成る程、その手が有ったか。
退治屋の家系出なければ引退後の生活をどうするか考えなければならないからな。
「俺の馴染みは大抵先生の事を知ってるんだ。クセの有る奴が多いが、ヒトの為に化け物どもを退治してきた連中だから性根は良い。それで良ければ教会を通して募集するぜ」
「「わああ!」」
安全面的にも助かるな。他の化け物や事情を知らない退治屋が来ても時間を稼げる。皆も問題無さそうだし頼もう。
「殆どが根無し草だから、ここの料理を食えば一発だろ。ちと都まで行ってくる」
「私も行こう。それと何人か来てくれ。そろそろ図書館の本棚を馴染みの書店に送ろうと思っていた」
「お。なら俺も行く」
「俺も俺も。都で飯食ってみてえ」
丁度良かった。新しい本棚が出来始めていて、これまで研究所に預かって貰っていた本棚と入れ替え始めてるんだ。
研究所で使う分は予定通り残し、残りは全てあの書店に持っていく。ついでに本棚と交換する予定の専門書も引き取りに行こう。
名乗り出てくれたヒト達を連れ、研究所に行って本棚を荷馬車に積んでいく。結構な重さだから皆で協力して積載だ。当然私は見学。足手纏いにしかならん。頑張れ皆。
「これだけ立派な本棚なら無理も無えが、あの書店の本棚も結構立派じゃなかったか?」
「いや、この本棚は私の聖水につけ込んで本の保存性を高めたり虫を寄せ付けなくしているんだ。効果が弱まっていくから図書館で使うには三十年程で交換しているんだが、書店で使う場合はまだ使えるらしくてな。それまで余った分は焼却処分していたから丁度良かった」
「成る程なー。そんだけ高性能なら書店も欲しがるか」
寸法も問題無いらしいからそのまま使える。今後も作り替える時は不要な物を送って向こうも取り替えて行く事になるな。幾らでも協力するとも。
あ、そうだ。良い事を思いついたぞ。銀狼も連れて行って退治屋への告知も一緒にやってしまおう。
荷馬車でガタゴト。今回は運搬要員もヒト手を集めたから賑やかな旅路になって良い。店内への設置も手伝ってくれれば飯を奢ると言ったら即座に集まってくれた。他の村にも声を掛けている。おかげで都に到着するまであっと言う間に感じたよ。
「あ! 先生!」
「やあ。新しい本棚が出来始めたから今までのを持ってきた」
「うわ、ありがとうございます!」
まずは書店の本棚を入れ替える。急遽閉店して本を運び出し、本棚を入れ替えて本を戻していく。大勢連れて来たからかなり捗っているな。やはりここでも私は見学。妹や兄、それから店主も本の入れ替えで指揮をとっているから運搬は完全に村のヒト達や銀狼の仕事。
「いやあ、本当にありがたいですよ」
「やっぱ良い物かい?」
「ええ。代々先生のお役に立てなそうな専門書を倉庫に入れていて、先生の図書館の本棚と同じ作り方の本棚を使っていたんです。百年毎に交換していましたが、一つ作るのに金貨が何枚も必要になってしまいましてね」
「「うおお!?」」
金貨が必要な本棚を沢山運んでいたと知って皆が仰天。実は凄い物だったんだぞ。金貨の塊を運んでいるのと同じだ。
「うーあ、知らなかったぜ。ウチにも昔先生から貰ったって言う本棚が有る」
「ウチにもあるぞ。凄え贅沢品だったんだな」
「やべえ。俺昔本棚に落書きしちまった」
なんか妙な言葉が聞こえたが、あげた物なのだから我慢しよう。もっと大事に使わんか。子供の時の事なら仕方ないのかもしれんが。どんな物でも大切に使え。勿体無い。
「そうだ。先生。一つお願いが有るんです」
「ん。妹には随分と世話になったし、私に出来る事なら聞こう」
「ありがとうございます。実は兄さんが結婚する事になりまして」
おおお? それはお目出度い。ご祝儀を出さねばならんな。
しかし、それに関連したお願いとは何だ? 冠婚葬祭の知識は一般常識の粋を出ないぞ。
「それで、これを機に家を出ようかなって。司書として雇って貰えませんか?」
「うお。雇おう。それはこちらとしても助かる」
「ありがとうございます!」
「助かりますよ。前々から僕が結婚したら先生の司書になりたいと言っていたんです」
かなりありがたい話だ。一人でも増えてくれると助かる。規模が倍になるだけあって、大変になるだろうと見ていたし。部屋を一室宛がうとしよう。それから呼び方も変えなければな。今日から妹ではなく司書と呼ぶ。誰であっても名前で呼ぶのは面倒くさい。
「蔵書の目録って用意していますか? 無かったら私が作って店とやり取りしようと思うんですけど」
「是非とも頼む。量が量なだけに大変だとは思うが、私の体質のせいで作れずに居たんだ」
しかも目録まで。とにかくありがたい。規模が大きくなるにつれて欲しいと思ってはいたし、実際に作ろうともしたが体がもたずに断念しているんだ。仕入れる度にある程度は作っているが、全部とまではいかなかった。何より取引が楽になるのは大きい。足りない専門書を仕入れ易くなる。
他にも図書館の運営について少し話し、作業が半分程進んだのを確かめて銀狼と教会へ。特に会う予定は無かったのだが大司教の方から来て欲しいと執務室に招かれた。
「我が国の本教会から話を伺っています。先日は災難でしたな」
「ああ、聞いていたか。箱詰めされて重しを乗せられた状態で牢屋に入れられたぞ」
「ぬう。事情を知らなかったからとも聞いていますが、まずは調べてから実行しろと思いましたよ。宰相たる者のする事ではありません」
話を聞いて心配してくれていたらしい。あれから宰相が処刑され、財産も没収されたと教えてくれた。錬金術協会からも知らせが届いているが、私の提案通り陛下が没収された財産を全てアーティファクト普及の予算にして下さったそうだ。おかげで通信アーティファクトの中継点設置が年内中に国内全てで片付く事になったとも聞いた。
「して、本日は如何なさいました?」
「退治屋に募集を掛ける事にしてな。ほら、一代での退治屋は引退後が大変だろう。そこであの一帯に招いてみてはと銀狼が提案してくれたんだ」
「俺もそろそろと考えていたから引退して先生の村に定住する事にしてな。村の皆も良いと言ってくれたし、教会を通して告知して貰えればと思ってさ」
「それは素晴らしい。本教会に通達し、教皇猊下にも上申して世界中の教会に告知させましょう」
お、世界的に告知してくれるか。それはかなりありがたいな。一気にヒト手が増えるし安心度もかなり強くなる。副業の護衛任務等で雇い主に気に入られなければ引退後は大変だし、護衛を続けようと考えている者でも平和な暮らしが出来るならとこちらを選んでくれるかもしれん。
そのままあの一帯を退治屋の隠居場所にしてしまうのも手だな。アーティファクトの作り手が増える事にもなるし。
「ああ、そうだ。関係無い話だが、隣国のとある村を拠点にしている行商人と懇意になってな。村同士での取引が多くなりそうなんだ」
「おおお! となると、新しい食材が増えますか!」
これも一応報告して置こう。大司教も大型取引について良く知っているからな。
「凄いぞ。サトウキビが入ってきたし、今度はお茶とブドウ、麻が入ってくる」
「ブドウ! となるとワインもでしょうか!」
「ああ。まだ図書館が改築中で大工が空いていないのだが、落ち着いたら酒蔵や酒樽を作ると張り切っているよ。担当する農家も決まったし、いつか陛下にお飲み頂くんだと息巻いている」
「あの一帯で作られる物であれば陛下もお気に召すでしょうなあ」
以前の視察中に他の酒も定期的に買うと仰って下さっているくらいだしな。葡萄酒も出来たらこちらから献上しようと考えているよ。私もかなり楽しみにしている。
どんどん盛り上がっていくから本当にヒト手が欲しい。お風呂の事も話そうか。
「面白いですね。成る程、ヒトを募集しようとするわけです」
「本気でヒトを集めりゃ簡単に町になるって。お互いに良い事尽くめだし、告知の方を頼むぜ」
「任せて貰おう。あの一帯の発展は私にとっても喜ばしい事だからな」
馴染みの顔も来るだろうし、今後はまた忙しくなるな。今年は一年通して盛り上がっていて良い。




