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真祖な一般人のスローライフ  作者: 仲田悠
第五話「かみつく吸血鬼」
17/28

先生の取引

こんにちは、仲田悠です。

何とか日を開けず第五話を投稿出来ました。

第六話でまた区切りを付ける予定なので、もうしばしお付き合い頂ければと思います。


まだ少し話の分け方が不慣れな為、今回からはダメガールズの話と同様に五千文字前後ずつに分けさせて頂きました。こう言った事も今後の課題とし、色々と挑戦していきたいと考えております。

八部構成となりますが、お付き合い頂ければ幸いです。

 秋もそろそろ終わる。大分涼しくなってきた。私にとって憂鬱な季節がやってくる。

「流石に冬までには間に合わんか」

「悪い、流石に無理だ。今までなら何とか間に合わせられたんだがよ」

「今回から色々と変わっちまったからな」

「仕方ない。その分しっかりした図書館にしてくれ」

 だから出来れば秋の内に改築を終わらせて欲しかったんだが、秋に入ってから始めているし流石に無理か。今までの倍近い規模になっただけでなくアーティファクトも使う事になったし。助手が二人も居るからと納得しよう。ただでさえ憂鬱な季節だと言うのに、そんな季節の中で本の移動など考えたくも無い。

「少年、小娘。外に預けた本の回収は全て任せる」

「解りました」

「え、全部ですか? お兄ちゃんと二人で?」

「うむ。冬は外に出たくない」

「ずるくないですかー!?」

 やかましい。大人しく扱き使われろ。

 買い出しなども二人に押しつけるからな。私は可能な限り出ない。少し考えれば解るだろう。私は冬になったら外に出てはいけないんだ。

「連続して転倒する私を介抱するのとどちらが良い」

「うぐぅっ!?」

 一年の中で一番転ぶのが冬と言う忌々しい季節。

 体の動きが鈍るだけでも転びやすいと言うのに、水溜まりが凍結するという恐ろしい事態も起こるんだぞ。霜柱に足を取られた事だって有る。良いか、良く聞け。

「赤い水溜まりを見たくなかったら私の代わりに外へ行け」

「笑えない冗談です……」

「冗談を言っている訳では無いぞ。凍った水溜まりで滑って転ぶなど有り得ん。足を滑らせて凍った水溜まりに頭から突っ込むのが私だ」

「開き直りすぎですっ」

 実際そうなのだから開き直るも何も無い。何なら村のヒト達に聞いてみると良いさ。間違いなく冬は私を外に出すなと言う。大司教の家の者は代々そう言われて来たから少年は聞いている様だな。

「チビちゃん、代わってあげるべきだよ。僕も父上からそう聞いているんだ。冬になったら先生を絶対に外に出すなって」

「はぅあ」

 そういう事だから頼むぞ。冬はとにかく憂鬱だ。

 幼い頃から冬は苦手だった。雪を見るのは好きだったが、それ以外は何もかもが嫌だった。体調を崩しやすいし、窓を開けて外の空気も吸えない。病のせいで食事を摂る時はいつもゆっくりで、それが料理を冷ましてしまうのも嫌だった。冬になったら私は外に出ない。用が無ければ絶対に出ないからな。




 専門書を入手した事で羊村に新しい要素が齎されているわけだが、本格的にその成果が出たのはここ最近の話になる。鮮やかな色に染まった毛糸で服屋が服を売り始めたんだ。

 都で染料となる植物の種を購入して夏の終わり頃に収穫。鮮やかな赤や青に染まった毛糸で服屋が服を作り、それを一帯のヒト達が購入して一帯の光景がかなり鮮やかになっている。私も赤いマフラーを購入出来た。かなりご機嫌。

「買ってくれたのは嬉しいけど、外に出ちゃ駄目よ?」

「あぅ。村のヒトからも言われたです……」

「な? まあ、診察の時は嫌でも出なければならないからな。その時の為さ」

 買ったら買ったで注意される。知ってる。毎年の恒例行事。小娘も理解した。と言うか脅され始めた。毎朝私の髪を整える様になってから、小娘はとにかく村の女性に押されっぱなし。特に何かされた訳では無いようだが怖いものは怖いらしい。それも解る。あの時は私も怖かったし。

 後は普通のロングコートを購入だな。転ぶせいで毎年買わないといけない。すぐ破ける。特に冬は。血で汚れる可能性も高いから、常に黒いコートを頼んでいる。赤いマフラーが際立って悪くないな。うん。

「そうそう。行商人さんが来て、ウチのセーターを買ってくれたのよ」

「おお? もう目を付けたか」

「まだ数が少ないって話したら、来年になったら買い込むって」

 鮮やかな糸や生地も高く取引されるものな。ここでも貢献出来たのは何よりだ。綿なんかもあるから、そちらも買われる事だろう。もう少し染料の栽培を広げても良いかもしれん。来年になったら種を仕入れに行くか。

 服を購入したら、次は定食屋。そろそろ季節のメニューが変わる。ベニイモはまだ続いているのだが、ここは冬もデザートが美味しい。少年と小娘に振る舞ってやろう。時には飴を出すのも大切だ。

「わ! イチゴです!」

「この時期から春まではイチゴが採れる。それからミカンだな。ケーキが一番華やかな季節さ」

 煮物や鍋に最適な野菜も採れるが、定食屋で人気が出るのはデザートの方。年中デザートが売れるとは言え、冬の場合はまた違った動きになるんだ。

「おお、先生」

「うお。この季節にまた来てくれたのか」

「ははは。季節毎に一度は来る事にしましたよ。それが正解だったと喜んでいたところでして」

 その理由が解る相手が来た。栗の村から来た行商人だ。寒くなってきたのに隣国から来てくれるのはかなり珍しい。そうで無くともこの季節に来る行商人は少ない。これが冬のデザートの動きが違う理由だ。

「驚きました。ここは冬でも美味しそうなデザートを出しているんですね」

「ああ。冬は特に狙い目だ。観光客が少ないから行商人だけでデザートをせしめられる」

「良いですねえ。隣国から来たのに何も食べれず帰るのは遠慮したいですし」

 まず観光客が遠のく。冬に観光しようなどと考える者は多くないし、居たとしても噂に聞く温泉とやらがある場所に行くだろう。だから冬は村のヒトか行商人が定食屋を占拠する。そして冬のデザートも美味しい物ばかり。村人からすれば一番楽しみな季節かもしれない。

 彼にお勧めの料理とデザートを教えて頼んで貰おうか。

「先生のおかげで、私の村にも観光客が来るようになりまして」

「お、それは良かった。やはりアイスクリームか」

「はい。都から貴族がお忍びで来る程でしてね」

 やはりアイスクリームは強し、か。貴族であっても贅沢品だからな。我が国の陛下と殿下にも大層お喜び頂いたし。

「おおお。これは美味しそうだ」

「この辺りの郷土料理で、根野菜のコンソメスープだ。行商人がこれだけは食べたいからと故郷で話さずに居る程の絶品だぞ」

「なんと」

 料理は汁物が中心になるな。それもあっさり系。香辛料で辛めに仕上げているから温まって良い。根野菜が煮崩れない程度に長く煮込んでいるから根野菜にも味がしっかり染みこんでいて美味いんだ。肉は牛肉で、その出汁もまた味に深みを足してくれている。この一帯の冬の風物詩とも言えるだろう。

 味に自信があるのに観光客が少ないのは何故だと以前は首を傾げていて、その答えが行商人達の食欲と独占欲だったわけだ。まあ、村人からすれば自分達も食べられるから良いらしいけどな。

「これは話せません。話したところで隣国なので問題無いのでしょうけど、ここまで美味しいスープは食べた事がありませんよ。他のヒトに持って行かれるのは惜しい」

「作り方はそう難しい物でも無いんだがな。素材の質が良いからだろう」

「解ります。どの食材も味がしっかりしていますし、スープに味が染みこんで実に美味しい」

 値段の割に量も多め。満腹感がかなり有る。そんなスープを堪能したら、次はイチゴとミカンを使ったショートケーキだ。

「来て良かった……!」

「ははは。都から来る行商人などは、もう都でケーキを食べられないと言っているよ」

「そうでしょうとも。ここに来てからと言うもの、どこのデザートを食べても満足出来なくなりまして」

 それはそうだろうなと思う。種類も豊富だし、材料の質も良い。皆の工夫も美味しくしてくれてる。ヒトを呼べるだけのデザートしか無いんだ。他で食べられる訳が無い。

 会長や研究所の職員など、都に帰っても何も食べずとんぼ返りしているそうだし。ここの食材で弁当を作って持って行ってるとも聞いた。

「ううむ。来たからには何か取引をと思うのですが、こうも美味しい物ばかり見てしまうと気が引けてしまいますね」

「ふむ。一年を通して何が出来るか教えてくれ。こちらも提示して取引と行こう」

「おおお! それは是非とも!」

 この行商人とは良い付き合いをしたい。ちゃんとお互いが納得出来る取引をしてくれる。多少負けてくれたりもするしな。場所が離れている事も気兼ねなく取引出来る理由だ。……っと。

 今とても良い物の名前が挙がったぞ? それはちょっと待ってくれ。

「サトウキビも栽培しているのか?」

「はい。こちらで栽培していないようでしたら、良い取引材料になるかと思います」

「欲しい。砂糖を自給自足出来るのは魅力的だし、何より酒が出来る」

「お酒!? サトウキビでですか!?」

 サトウキビも栽培しているらしいぞ。それは何が何でも欲しい。

 果実酒作りが始まった事で砂糖の入荷量が増えてるし、今ここで作っている物とは別の酒にもなる。そしてその酒を使ったデザートのレシピも抱えているんだ。彼を家に入れて見せてやろう。

「本当だ……! お酒に……!」

「それから、これだ。その酒を使ったデザート」

「お酒をデザートに!?」

 だからサトウキビは何としても欲しい。食べてみたいと思っていた。アイスクリームにもなると言う話だし。

「思っていたより良い取引材料になりそうですね」

「ああ。前回の事も有るし、今回はこちらが幾らか譲歩しようじゃないか」

「それはありがたい。では、これ等の情報と染料に関する情報は如何でしょう」

 おお? 今回も中々に良い条件だ。確かにどれも有益な情報だが。

「ついでに良い物も付け足そうか。研究所で新しいアーティファクトが開発されてな」

「なんですって!? それを付けて頂けるのですか!?」

「今後の取引にも使えるかもしれんからな」

 カメラも付けよう。まだこの国でも普及が進んでいない物だし、写真を撮影する事で取引がしやすくなるはずだ。写している間に研究所まで取りに行こう。今回は私が出す。サトウキビは私個人から出せる食材だ。出せるだけ出して貰って元手にしよう。

「おお! サトウキビですか!」

「ああ。サトウキビに関連した情報と染料の情報で良いと言われたんだが、今後の取引にも使えるからカメラも持たせようと思ってな。私が出すつもりだ。出来ていないか?」

「出来ていますとも。いやあ、ここに砂糖まで来るとなれば大きいでしょうに」

「大きい。砂糖にザラメ、角砂糖。何よりサトウキビから作られる酒だ」

「お酒も!」

 会長も大喜びでカメラを値引きしてまで出してくれた。もうすっかりここの住人。ここに有利な取引なら幾らでもと言った感じだ。アーティファクトが取引材料になるのは大きいどころではない。農業用の物も新しい値段で開発が進んでいるから、後で行商人を案内しよう。間違いなく欲しがる。

 早速カメラを持って帰って試しに撮影してやったよ。

「本当にこれを!? 宜しいのですか!?」

「これが有ればまた良い取引が出来るかもしれんからな。先行投資さ」

「ありがとうございます!」

 光景を切り取れるのはとにかく大きい。色んな事に使える。定食屋も買えたら品書きに写真を掲載すると言っていたしな。まだ少し高いのが難点だ。荷馬車一台分は掛かる。

 他にも農業用の物が有ると説明し、移し終わったら案内する事にもなった。今研究所で開発している物は手頃な値段ばかりだから彼の村でも買えると思う。

「早速活用させて頂きますよ。研究所の商品を撮影させて頂く事は出来ますでしょうか」

「他との流通に協力的だから大丈夫だとは思うが、駄目でも説得しよう」

 早速役に立ちそうだな。商品を値段と共に撮影して消費者に見せる。実に解りやすい。使っている光景も撮影すれば購買意欲も増すだろうし、それも会長に頼んでみよう。

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