表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真祖な一般人のスローライフ  作者: 仲田悠
第四話「おちつく吸血鬼」
14/28

吸血鬼とアーティファクト

 図書館の改築が始まった。

 陛下と殿下がお越し下さった日に少年と小娘が研究所に行っていた理由で、研究所の片付けをして貰っていた。改築の前に本の大量移動も行われている。

 殆ど読まれない分野の本を家の奥の方に有る個室に押し込め、たまに読まれる分野の本を居間に近い個室に本棚も移動して置く。

 魔道書は全て研究所だ。

「すまないな」

「いえ、むしろ役得ですから」

 おかげで研究所の殆どが本で埋まっている。

 改築が終わるまでは私の家で調合したり大工屋で設計したり鍛冶屋で作ったり。それでも改築中は研究所内で落ち着いて読めるのだからと快く場所を貸してくれた。

「しかも国王陛下と王太子殿下直々にご視察頂けましたからね。士気が上がり過ぎている為、ここで少し落ち着いて再勉強する事になりました」

「ははは。成る程、その方が良いかもしれん。かなりご期待頂いて下さっているからな」

「ええ。中継点どころか材料の生産力強化まですんなりご助力頂ける事になるとは思いもしませんでしたよ」

 陛下と殿下がここをご視察の際、受け取っていた通信アーティファクトの計画に承諾すると直々にお言葉を頂き、デザート後に聞いたばかりの生産力強化や抽出用機材を置く場所の融通も利かせるとまで仰って頂けた。

 こうなるとやれるところまで、と考えてしまうのが普通だが。そこを敢えて落ち着かせたと言うのは会長の器量と言うべきだろう。

 再勉強して腕を上げてから新しい基盤を作ろうとするのは中々出来る事ではない。勢いに任せてしまう者が殆どだ。

「お、居た居た。先生ー」

 おお? 鍛冶士が来た。

 バネ付き馬車の開発者も居る。

「どうした?」

「ほら、自転車。ただ直すんじゃなくて色々改良してみたらどうかと思ってよ」

「む? 故障か何かでも?」

「それがさ、聞いてくれよ会長さん。自転車にも先生の不幸っぷりが働いたのか、何も無えとこで体勢崩して派手に転がった挙げ句前輪が比し曲がっちまったらしくてさ」

「しかも転がった先が水溜まりだ。尚悪い事にそこを陛下の馬車が通り掛かってしまってな」

「ぶふっ!?」

 今では研究所内でも私の不幸が名物扱い。

 やはり酷過ぎて笑うしかないらしい。

「改良は構わないが、具体的にどう改良するつもりだ?」

「バネ付き馬車と同じ様に、後ろ半分を上下に動く形にしてバネを噛ませるんだ。そうすりゃ安定度が増す」

「是非とも頼む。それは最高だ」

「まあ待てって。他にも色々有るんだ」

 おおう。値が張っても良いから全部頼みたい。私の為にと改良案を幾つも話してくれた。

 後ろの二輪の間隔を少し離し、その上で車輪を厚くする。バネと合わせればかなりの安定度。

 そもそも自転車は舗装された道に乗る事を想定していた為、ここの様に土の上を直接走れる様に最適化した方が良いそうだ。

「で、ペダルにアーティファクトを組み込めねえかと思ってな」

「ほう?」

「ふむ。私も気になるな。どの様なアーティファクトを?」

「漕ぐ時にペダルに掛かる負荷を魔力に変換して歯車を回す力を増幅出来ねえかな」

「「おおお!?」」

 欲しい! 漕ぐのが楽になるなら最高だぞ! それなら恐らく出来る!

「出来るはずだが、どこに魔石を埋め込むのだろう」

「ペダルの軸だな。ここでちと確かめてえんだが、魔石ってなあ熱にどれくれえ耐える? 鋳造に混ぜても魔石の効果が残るなら解決するんだ」

「おおお!? 解除魔法で砕かない限りはどう形状が変換しても効果は残る! 成る程、粉末にして混ぜると言う考えは無かった!」

 更に面白い案まで。

 それが出来るなら色々と道が開けるぞ。もっと早く確かめるべきだった。

「冷凍ボウルの大量生産が可能じゃないか」

「そうそう。煉瓦に混ぜて断熱とか除湿も絶対良いぜ。家も窯も変わる」

「おおお!」

 良いな。実に良い。

 図書館の方は改築の事を考えて取り壊し易い様に煉瓦を殆ど使って居ないが、家の方は別だから家の改築の時に贅沢しよう。断熱も除湿も建物がしてくれるなんて素晴らしいじゃないか。

「石臼も有りだろう」

「デケえな。粉屋の馬が要らなくなるぜ」

「先生の自転車を修理し終えたら単純構造の機械を色々と探してみます」

 まだまだ開発出来る物が有る。

 発祥して二百年も経過しているのに遅すぎはしないか? これも観点が違うからだろうか。

 いや、そうではないな。

「会長。国内の錬金術協会全支部に、錬金術師にヒトの生活を観察させる様に提案してくれ。どうにも足下にネタが転がっていると気付いていない様に思えてならん」

「すぐ通達します。成る程、ヒトの生活。思い当たる節が有り過ぎますよ」

 錬金術師ともなれば都、最低でも町暮らし。そして研究内容は非日常的な現象ばかり。どんな物が日常的に使われているのか解らなくても不思議では無い。

 それに気付いて日常生活に活かそうとするかどうかが錬金術大国との差ではないだろうか。行った事が無いから錬金術大国がどの様な発展を遂げているか解らないのだが。

「観点が違うのではないんだ。視野が狭すぎるだけなんだと思う」

「それです。間違い有りません」

「いっそ街角調査をすれば良いんだ。安価になるならどんな日用品を便利にして欲しいかとな」

 需要を理解していない。まずはここから変えて行くべきだ。そこを理解すれば現状の生産力では到底追いつかないと痛感するはず。

「或いは今の様に職人と提携ですかね」

「それも有りだな。今の様に錬金術師では気付かなかった活用法を提案してくれるかもしれない。錬金術師だけで作るより上質にもなるはず」

 と、ふと思い当たった。そして苦笑い。

「話が国の改革になってきたな」

「ははは、確かに。その為にも学び直さねばなりませんね」

 善良で無害な一国民のはずな私が国の改革に首を突っ込んでいる。化け物がそんな大それた事をして大丈夫なのかと不安になってしまうぞ。

 ここで私の不運っぷりが出なければ良いが。




 図書館の改築や陛下と殿下のご来訪。嬉しい事が続いているが、一番嬉しく楽しみにしている事がある。

「せんせー、嬉しそー」

「何か良いこと有ったのー?」

「うん。研究所で今開発している物が楽しみなんだ」

「「へえー」」

 居間に勉強の場を移した子供達にも解るくらい上機嫌。光景を写すアーティファクトにどうしても期待してしまう。

「ねー、せんせー。ぼくもアーティファクト作れるかなー」

「どうかな。一番大事な所は魔法が使えないと作れないが、他の動く部分を作るなら誰でも作れるからね」

「そっかー。せんせーみたいに何か凄い事やってみたいなー」

「ははは。なに、お父さんお母さんがやっている事だってとても凄い事なんだぞ」

 私が何か新しい事をしている時に学びに来る子はそう言い出す事が多い。

 殆どが家業を継ぐ子達だから諭すのが大変だ。親が良いと言うなら教えてやるつもりだが。

「どんな物であれ、育てる事や作り上げる事は何だって凄い事なんだ。食べる物を用意する事は世界で最も大事な事だし、いつも使っている様な道具を作る事だってとても大事な事さ。皆のお父さんお母さんも凄い事をしている凄いヒト達なんだよ」

 これは掛け値無くそう思う。

 基本生産業は尊い。生産者は誰であれ立派だ。

 確かに錬金術師は凄いと思うし、アーティファクトは便利だと思う。だが、別に錬金術やアーティファクトが無くても生活は出来る。

「皆のお父さんお母さんが居ないと色んなヒトが生活出来ない。それはとても凄い事なんだ」

 生産者が居るからヒトは生きられる。これはいつも教え子に言っている事。

 研究所が出来た今だからこそ、改めてそれを教えていかなくてはと思う。

【ご主人様! 試作品が出来ましたにゃ!】

【出来たか!】

 ミリイから嬉しい報せ。とは言え間が悪い。

 家の者は私が楽しみにしている事を良く知っているから、すぐ報せようとミリイに取り次がせたのだろうと思うが、今回は逆の意味で正解だ。

【すまないが後回しだ。子供達にアーティファクトより基本生産業の方が凄いと話していたところでな。ここで喜んでしまうと台無しになる】

【にゃうっ。またツイてませんにゃ……】

 言った端からアーティファクトに喜ぶなどと示しが全くつかん。運が無い。

【子供達が帰ってから向かうと伝えてくれ】

【解りましたにゃ!】

 期待通りに出来ていれば良いのだが。

 理論上は行ける。ただし理論が通用する事でも無い。もう祈る他無い。成功してくれ。

 諦めていた事が叶うかもしれないとなれば、どうしても期待してしまうのだ。




 子供達の見送りに合わせて家の者達が会長と一緒に来てくれた。気を回してくれたらしい。

「どうだ!?」

「完成はしました! 後は先生がどうなるかです!」

「よし! 頼む!」

 剥き出し状態で複数の魔石が繋がった試作品。

 カメラと名付けた撮影アーティファクトが私に向けられ、起動した。

 そう、楽しみにしていたのは私の姿。鏡に映らないから今の私がどんな姿なのか私自身が知らないでいたからな。

 カメラが捉えた光景が写真と名付けられた紙に写される。成功してくれ。自分がどんな姿か見たい。美人と褒めて貰えるが、本当にそうなのか。

「「あ!」」

「ど、どうだ?」

「写りました! 成功ですよ!」

「おおお! 見せてくれ!」

 成功した! 私はどんな奴だ!?

「これが、今の私か……」

 はは、はははっ。

 そうか、これが私か。成る程、確かに美人に思える。だが、それ以上に。

「せ、先生!?」

「どうしたですか!?」

「……いや、すまん。最後に自分の顔を見たのは千年近く前なものでな」

 一気にこみ上げてきて、涙が流れた。

 鏡に写った最後の私は病にやられて痩せ細った顔だったし、何よりこの顔は見覚えが有る。

「私は、母似だったのだな……」

「「あ……」」

 私の顔を確かめられたと言うより、母に再会出来た様な気分。涙を流すのも随分と久しい。

「もう少しまともな服を用意してちゃんと撮影するか。これを機に髪も整えるとしよう」

「是非そうして下さい。実のところ、今のままは勿体ないと皆で話していましてね」

「む。そうか。礼も兼ねて整えよう」

 こうなると自分の不運ぶりに少し腹が立つな。

 今後は気を付けよう。

「もう前から倒れられん」

「「ぶふっ」」

 母に似た顔を地面に押し付けるのは良くない。うん、良くない。気を付ける。

 服は流石にこれまで通りだが、髪型を整えるくらいはして良いな。どんな顔か解った以上は相応に整えないと。今更ではあるが。

「よし。金を取りに――」

「「あ」」

 べしゃり。

 言った端から前に倒れた。痛い。くそ。

「先生、オチが酷すぎるです」

 オチ言うな小娘。と言うか助けろ。




 どうしてこうなった。

「やっとお洒落する気になってくれたか」

「例のアーティファクトが完成して、やっと自分の顔を見れたんですって」

「流石の先生も勿体無いって自覚したみたい」

「服はともかく髪型ぐれえはってさ」

 何故髪型を整えるのに皆に囲まれねばならん。

 と言うか、何故外でやる。

 少しはマシな髪型にして見ようと思うのだが、と言い掛けた瞬間に女性達が私を引き摺って皆を集めてしまった。おかげで見世物。

 待て。他の村からも来ているぞ。何なんだこの状況は。見世物どころか晒し者だぞ。

「お、おい」

「喋っちゃ駄目」

「な――」

「駄目」

 発言権は無いらしい。この調子だと拒否権も無さそうだな。

 ああ、うん、晒し者だ。行商人まで集まり始めたじゃないか。誰か助けてくれ。

【ミリイ。何とかならんか】

【ご主人様。ここは皆に見て貰うべきですにゃ】

 ミリイまで敵だと!?

【ご主人様が髪を整える事で皆さんが一層気に掛けて下さると思うのですにゃ】

【それはどうなんだ……】

 気に掛けて貰えるのはありがたいが。

 気の遣い方が変わってくる様に思えるぞ。私より髪型を気にしそうで嫌だ。私を心配しろ。

「素材が良すぎるから、服も込みで考えた方が良いと思うのよ」

「でも先生、あれしか着ないのよね。丈夫だからって」

「あー。じゃあ、あれと別の服を用意して両方に合う髪型にしましょ」

「「それね」」

 なん、だと……!?

 まさかここで着替えもしろなども言わないだろうな!?

「お、おい!」

「別の服は横に掛けるだけよ。取り敢えず良さそうな服を幾つか持ってきて頂戴」

「「ええ!」」

 待て待て待て!

 着替えは安心したが服選びからだと!?

 まさか、その間私はこのままか!?

「さあ、覚悟して貰うわよ。私達が納得するまで付き合って貰いますからね」

「ちょっ!?」

「美人なのにお洒落しないどころかいい加減な手入れだなんて他の女に失礼よ。機会が有ったら徹底的に叩き込むって昔から言われてたんだから」

「「うんうん」」

 それでか……!

 いかん、それは大人しくするしかない。白旗を上げて晒し者になろう。こう言う時の女性には逆らってはならないと小説で読んだ。

 女ながらも良く解らないでいたが、ここにきて痛感した。これは本当に逆らえない。怖い。

「覚悟はした。だから、その。せめて背もたれが有る椅子にしてくれんか……?」

「妥協しましょう」

 座ったまま気を失いそうで怖い。背もたれくらいは許してくれ。

 よし、交渉成立。持って来てくれた。少しは楽になったぞ。これで覚悟を決め――

「誰か荷馬車出してー!」

「あいよー。俺が出すぜー」

 荷馬車!? 服の為に荷馬車!?

 待て、まさか店一件で一台か!?

【ご主人様。気付けのお酒を取ってきますにゃ。他の村にも荷馬車が向かう様にゃので】

【……頼む】

 覚悟が足らなかった。いや、幾ら覚悟しても足らないだろう。諦めるしかない。諦めよう。

 今日はこのまま日が暮れそうだ……。




 私の整髪は完全に着せ替え人形での人形遊びへと変わり、更に撮影会へと進展してしまった。

 押し寄せる服の波。

 長時間に及ぶ相談と整髪。

 整髪の段階で日暮れまで掛かり、その後は転ばない様にと椅子ごと担ぎ上げられて研究所まで連行され撮影会だ。

 見栄えが良い写真が出来るまで何度も撮影を繰り返されたし、出来たら出来たで皆が欲しがった為に大量印刷。一度の撮影で同じ写真を何度も印刷出来る仕様でなければもっと掛かっていた。

 他の事で家の者も盛大に巻き込んだせい為、帰る頃には皆でぐったり。送ってくれた会長が苦笑いする程の惨状だよ。

「本当にお疲れ様でした」

「ありがとう。女の恨みは恐ろしいと心底理解出来た」

「ははは……」

 会長もかなり押されていたものな。

 研究所へ押し掛ける前に、整髪している間に薄暗くなって来たので照明アーティファクトを出してくれと殺到されているんだ。

 職員もやけに協力的だったから事は上手く進んでいたものの、圧力を掛けられた会長には申し訳ないと思った。とばっちりも良いところだろう。

 小娘には毎朝私の髪を整える事を日課にしろと命令が下ったし、少年に至っては私が転んだ時に下敷きになれと言う無理難題を押し付けられた。

 ミリイには他の村の通信アーティファクトを使っても良いと許可を貰えたのは素直にありがたいと思うのだが。

「せめて護身用の障壁アーティファクトくらいは持ってみません?」

「む。壁を張れば服は守れるか」

「いえ、壁ではなく膜状に展開するんです。最高純度魔石なら小さくても転倒からは充分身を守れますよ」

 それは作ろう。膜状に展開出来たのか。てっきり壁を張る魔法だと思っていた。

 こう言う時は魔法使いや錬金術師の視点が大きく出るな。

「会長さん。障壁の質って調整出来ます?」

「む。強度以外と言う事だろうか」

「ええ。クッション状の壁を張れるなら、僕が携帯して先生が転ぶ先に展開したらどうかなって」

「「おおお?」」

 それも欲しい。痛い思いもしなくて済むなら作りたい。

「にゃー。会長さん、アーティファクトはあたしでも使えますかにゃ?」

「ふむ。魔力を持っていれば使えるとは思うが、流石に使い魔が使えるかまでは試してみないと解らないな」

「では、少年さんのが出来たら試させて欲しいですにゃ。膜状のもそうですけど、転ぶ本人が使って間に合うかが不安ですにゃ。ご主人様の場合は特に」

「「あー……」」

 反論出来ん。常に展開し続けるのは無理だし。

 ミリイが護身用を使えるのはミリイの為にもなって良いな。試す価値が有る。

「何にせよ明日だ明日。今日はもう夕食を食べて寝る。疲れた」

「「ははは……」」




 翌日に早速研究所へ。

 膜状の障壁アーティファクトは既に販売されているらしいのですぐ出来た。

 まずはミリイが使えるかどうか試そう。


 キンッ。


「「おおお」」

「使えたですにゃー!」

 無事に成功。魔力を持っていて使い方が解れば問題無い様だな。

 私の分も作ったら、次はクッション状の障壁アーティファクトの開発だ。

「これはこれで需要がありそうだ」

「ああ。障壁で相手を守る様に受け止めると言う発想は無かったからな」

「少年の発想力は本当に面白い」

 少年の考えに感心しながら試行錯誤。開発は職員に任せ、私はミリイ用のアーティファクト作りで鍛冶士と相談だ。出来るだけ嵩張らない形にしたい。

「やっぱ首輪の留め具じゃねえかな」

「だな」

 こちらはすぐに決定。留め具なら輪っかと棒の二つ用意出来るか。

 膜状とクッション状の障壁アーティファクト二つで型を作って魔石にしよう。

「あ、先生、それならよ。鈴を繋げるトコを通信アーティファクトにしちまわねえか? ここの村長に繋げるだけなら一つで済むだろ」

「あ。そうだな。その手があった」

「それなら安心して散歩出来ますにゃ!」

 名案だ。作ろう。

 首輪の形を変えずに揃えられたぞ。

「後は消費の方だが、さっきはどうだった? 疲れなかったか?」

「全く気にならなかったですにゃ」

 魔力消費も問題無し。

 やはり高純度魔石の登場は大きい。魔力消費も魔石の大きさも節約出来る。

 何かしらの力を魔力に変換する技術も有るなら何だって出来そうだ。

「先生、出来ました」


 ポムッ。


「お。良いな」

 そしてクッション状の障壁アーティファクトも完成。これで安心。転んでも痛くない。

 試しに実験してみよう。まずは膜状。


 キンッ。


 よしよし。後は少年に待機して貰って後ろ向けに倒れてみる。ばたり。


 ポムッ。ポフッ。


 おお!

 柔らか――


 パキンッ。とすっ。


「「え……」」

「は?」

 消えた? え、何故だ?

 今までよりはマシになったが、何故消える?

「少年、今のはどうしたんだい?」

「解りません。いきなり消えたとしか。もう一度展開してみます」

 

 ポムッ。


 出た。普通に出ている。

 少年がクッションに乗っても問題無い。続いて会長、そして職員。問題無い。最後に私。


 ポフッ。パキンッ。とすっ。


「「え……」」

 ……つまり、あれか。

 私は駄目なのか。そう言う事なのだな。

「魔法をも解除するのか。私は」

「「えー……」」

 正確には魔法で生み出された物を解除だろう。

 魔石の様に何かに込められた魔法は問題無く、魔力の塊の様な物は一定時間以上触れると解除されてしまうのだな。

 となると膜状障壁も駄目か?

 さっきは気付かなかったが、今は解除されていた様だし。


 キンッ。パキンッ。


 ……駄目だった。

「これは、その、何と言いますか……」

「会長さん……。クッションを二重に出す調整は出来ませんかにゃ……?」

「それしかなさそうだな……」

「「ははは……」」

 切ない。

 やはりどうあっても痛いのは避けられんのか。

 前よりは随分マシではあるが切ない。

「いや、二重では駄目だな。一回の起動を解除するとなると二つ同時に消えるかもしれん」

「なら二回出すしかなさそうですにゃ。暑さを調整出来る様にお願いしますにゃ。厚いので衝撃を消して薄いので受け止めますにゃ」

「それだ。急いで調整する」

 そもそもの問題で転倒を何とか出来ないのだろうか。そっちも色々と考えるべきだ。

 体調の問題と言うには度が過ぎている。本当に何とかしたい。もう転びたくないぞ。

「自転車も気いつけねえと駄目そうだな。ペダルの軸じゃなくて歯車に魔石を混ぜるか」

「頼む。修理してすぐ壊れるなど冗談ではない」

 壊れるのも嫌だ。長く使いたい。

「こう言う時でも先生は落ち着いてるです。でもきっとオチも付くです」

「「ははは!」」

 それは笑えない冗談だぞ小娘。

 そのオチで自転車が壊れたらどうしてくれる。




 自転車が直った!

 さらに良くなって帰ってきた!

 そう言う訳で早速ミリイを肩に乗せて出発。

「おおっ。楽になったっ」

「前より早いですにゃ!」

 快適! 軽快! 素晴らしい!

 軽く漕ぐだけでどんどん進んでくれる。こんなに速く進むのは生まれて初めてだ。

 揺れもかなり軽減されているし、安定度も前より増している気がする。

「ご主人様! あまり飛ばすと危険ですにゃ!」

「っとと、そうだな」

 性能は充分確かめた。これ以上は危険を冒さない方が良い。オチが付くのは困――


 バキンッ。


 ……え。

「ご主人様!? 今の音は何ですにゃ!?」

「ブレーキが壊れた!」

「にゃー!?」

 握り手に付いたレバー、ブレーキが大きな音を立てて抵抗を失った。速度を落とす機能のブレーキ破損。つまり、止まらない。

「ぬああっ! ど、どいてくれー!」

「うおっ!? 先生!?」

「危ねっ! どうした!?」

「止まらなくなった!」

「「おい!?」」

 村人に退いて貰いつつ、地面に足を付けて足で減速。これは怖い。何とかして止めないと。

 そうだ、クッション!

 目の前にクッションを出せば!


 ポムッ。ボフッ!


 止まった!

 ……え。

「「あ!」」


 ヒュゥゥ……。


「ぬおお!?」

「にゃー!?」

 何故飛ぶ。

 何故地面が頭上に見える。

 何故クッションを飛び越えているんだ、私は。

「クッション出しますにゃ! ご主人様も膜状をー!」

 そ、そうだな。そうしよう。


 キンッ。ポムッ。


 これで少しは痛みも軽減されるはず。

 備えあれば憂い無し。作っておいて良かった。


 ボフッ!パキンッ。パキンッ


 膜状とクッション一つ目。痛くない。

 両方消えたが、もう一度。

「にゃー!」


 ポムッ。キンッ。ポフッ。パキンッ


 膜状とクッション二つ目。成功。

 助かった。背中から落ちる事も出来た。痛くない。無事だ。

「助かったよミリイ……」

「次は速度にお気を付け下さいにゃ……」

「そうする……」

 今まで通りの速度で進むべきだな。うん。

 障壁アーティファクトを用意してなかったら大怪我をしていた。すぐ再生するけども。ミリイを巻き込んでいたらと思うとゾッとする。

「先生! 無事か!」

「何とかな。柔らかい壁を作る障壁アーティファクトを用意しておいて正解だった」

「それでか。あー、驚いたぜ」

「また自転車を壊した上にミリイにも大怪我させるとか流石に笑えねえもんな」

 待て。ちょっと待て。

 今何か妙な事を言わなかったか?

 私の心配をしろとか言う前にだ。

「ブレーキ以外にもか……?」

「前輪とハンドルの繋ぎが曲がってハンドルを動かせなくなってるぞ」

 なん、だと……!?

「にゃー……。チビさんが言った通りにまたオチが付きましたにゃー……」

 どうしてこうなった。

 いや、私が飛ばしすぎたのが原因なのは解っているが。幾ら何でも酷過ぎやしないか。

「また暫く自転車に乗れないか……」

「魔石の性能を落とすべきですにゃー」

 それとも文明の利器に頼るなと言う事か?

 いやいや、最初はちゃんと使えたじゃないか。私の使い方が悪かっただけだ。そうに違いない。

 もう速度を出さないぞ。気を付けて乗る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ