吸血鬼の恩返し
一先ず一話分を追加致します。
いつも三話ずつを区切りに考えて書いておりますので、今回はその序章と言う事で。
私がツイていないのは、私が一番良く知っている。知っているのだが。
「ぐぬぅ」
今日はあまりにも酷くないか?
少年と小娘は朝から研究所。ミリイは牛の村まで散歩。秋口になって過ごしやすい陽気だから、村まで猫の様子を見に行こうとしただけなのに。
自転車に乗って家から出た途端に自転車ごと倒れた。そして転がった。何故か転がり続けた。
更に何故か転がった先に水溜まり。べしゃりと水溜まりの上で大の字になると言うあまりにも酷い状態だ。
さて、どうしたものか。
一応ミリイに声を掛けてみよう。
【今どこだ?】
【にゃ。牛の村に居ますにゃ。何か有りましたかにゃ?】
むう。やはり牛の村か。使い魔になった事でミリイは普通の猫より速いからな。
【自転車でコケて転がって水溜まりで大の字だ】
【にゃー!? 自転車に乗っても駄目なんですにゃー!?】
【今日は特別ツイていないらしいぞ】
【すぐ戻りますにゃー!】
ああ、いや。
恐らくミリイが戻ってくるまでに誰かが見つけてくれる。
ほら、ガタゴトと馬車の音が聞こえてきた。
【大丈夫だ。誰か来た】
【にゃうー。ご主人様の不幸っぷりは本当に凄いですにゃ……】
本当にな。
大して勢いがついていなかったはずなのに転がるとか何なんだ。
「お、おい! どうした!?」
うあ。
しかも余所者に見つかったらしい。
「ああ、いや、驚かせてすまない。自転車で村に行こうとしたら転んだ上にここまで転がってしまってな」
「そ、そうか。……あそこからここまでか?」
やはり長く転がったよな?私からでは見えないが、自転車が遠くに有るのだろう。
「生まれつき不幸体質でね。ところで、この辺りでは見かけない顔だが」
「ああ。そんな事より、立てるか?」
「すまない。起こしてくれ。貧血も起こしている様だ」
「不幸にも程が無いか……?」
困った事に無い。どこまでも不運。
びしょ濡れで申し訳無いが、一先ず水溜まりの外に運んで貰って道端に座らせて貰えた。
「助かったよ。いつもこの辺りで貧血を起こして倒れるから、その為に自転車を買ったのだけどね。まさか自転車ごと……」
ぐあっ。
自転車の車輪が歪んでいる……!
「買ってから一年も経っていないのに……!」
「とことんツイていないな……」
唯一の救いは開発者が村に来てくれているところだな。後で頼もう。くそ。
ああ、いや、それよりもだ。
「もしかしてお忍びの観光あたりかな?」
「ああ。良く解ったな」
「この辺りにしては良い馬車だ。見ての通り長閑な場所だから、あれでも豪華な部類に入る」
「成る程」
どうやら彼は御者らしい。
中々の馬車が見えた。私に用が有るだろうとも解る。この道の先には私の家しか無いからな。
「私か私の図書館に用だろうか」
「む。となると貴女が噂の先生か?」
「ああ。どんな噂かは知らないが、この近辺では先生で通っている」
「これは失礼しました。まさか外でお会い出来るとは思わず」
ふむ。ただの観光客ではないか。この道を通る時点で普通の観光客ではないが、御者の対応にしては主の身分を伺わせる改め方。
お忍びはお忍びでもかなりの方と見える。
「外でと言う事は、私がどんな存在かも聞いているな?」
「はい。吸血鬼ながらも無害にして聡明な方と」
成る程、そこまで聞いているか。
となると司教以上。他から来た大司教あたりかもしれんな。
お、馬車から誰か下りてきた。
「大丈夫か?」
「は。こちらがかの先生だそうです」
「なんと。ならば何故ご自宅までお運びして差し上げないのだ」
「ああ、いや。ここにと言ったのは私だ。この辺りで倒れるのは日時茶飯事でね。見ての通り汚れてしまったし、貧血も起こしているから動ける様になるまでと考えたんだ」
貴公子と呼ぶに相応しい青年。聖職者と言うよりは貴族かもしれん。
もう少し体裁を見繕うべきか。
「……ふう。失礼した。私に用が有ったとお見受けするが」
「ああ。お邪魔させて貰っても良いだろうか」
「勿論。この有り様を何とかする時間を頂く事になるが」
「構わない。と言うより、貴女程に見目麗しい女性をそのままで居させるなど有ってはならん」
お褒め頂き光栄だ。
とにかく戻ろう。自転車も家に入れないとな。
ああ、くそ。前輪が歪んで動かな――
ガシャッ。
「「うおお!?」」
また転んだ。痛い。おのれ。今日は何だと言うのだ。
「やはりお運びして差し上げよ。汚れがどうのと言っている場合ではない」
「御意! さ、先生。その乗り物は後で私が運んでおきますから、どうぞ私めの背に」
「すまない、頼む」
ん?
……御意?
軽く体を流し、着替えも済ませて居間に戻ったのだが。
「ご無礼を!」
強烈な恥ずかしさを味わう羽目になった。
貴族どころの話ではない。即跪いたぞ。
「よもや国王陛下と王太子殿下とは思わず。恥ずかしい様を見せた上にとんだご無礼まで」
「いやいや、構わないさ。気を楽にしてくれ。先生は我が国の恩人なのだから」
「うむ。貴殿の話は代々伝えられていたが、今年に入ってから幾つも功績を立てたと聞く。我等より長き時を生きる偉大なる賢者に跪かれるのは良い気分では無い」
「ありがたきお言葉。では……」
まさかまさかの王族。
貴公子と感じた青年は王太子殿下で、その王太子殿下に手を引かれて入ってきたのが国王陛下。
確か陛下はまだ初老と言う御歳だったはず。それにしては年老いて見える。
とにかく席に座って頂いてお茶を用意しよう。贅沢したいからと高級茶葉を用意しておいて良かった。
「お待たせしました。お口に合うと良いのですが」
「頂こう。……おお」
「王宮で出される茶より美味い……」
一安心。いれ方にも拘っているから、地位有る方が相手でも唸らせる自信が有る。
「まずは突然の来訪に詫びさせて貰う。通信アーティファクトの事を錬金術協会から聞き、また、この一帯で美味なデザートが新しく出たと聞いて視察しに来たのだ。当初は私だけの予定だったのだが、父上たってのお願いで父上もご同行頂く事になり、お忍びと言う形で訪ねさせて貰った」
「成る程。お詫び頂くには及びません。ご存知の通り私は魔性の存在ですから、こうしてお越し頂けるだけでも分不相応と言うものです」
「そうとは思わん。本当に魔性であれば、この一帯や近くの都を病から救おうなどとしないはず」
「勿体無いお言葉です」
流石の私も王族と会うのは初めてだからな。
僅かながらに緊張してしまうし、どうにも居心地が悪い。
「研究所にはまだ寄っていないのだが、やはり通信アーティファクトは有用か」
「御意に御座います。出来るだけ安価にと開発を進めていますが、王宮と各町村、そして都の役所がすぐ連絡を取り合えるだけで有用かと」
「確かに」
「余もそう思う。協会から届いた計画書を読んだが、王宮からは土地の使用を許可するだけで良いとあった。費用面に関しても断る理由が何一つ見当たらん」
あの真祖を殺してから少しして、利用料も含めた計画書が出来上がった。
中継点の設置も協会の負担で出来るし、利用料を取る事で元手も取り戻せると試算が出ている。
土地の使用を許可して貰うだけで良いから頷くだろうと考えていたよ。
「実物も見た。本当に素晴らしい。正に魔法の道具だと……ごほっ」
「陛下!?」
「父上!」
いきなり陛下が咳をなさい始めた。
あまり良くない咳。しかも聞いた事がある音の咳だ。
「殿下。主治医も一緒ですね?」
「何故それを!?」
「急いでお呼び下さい。陛下がご同行なされた理由もお察し致しました」
「わ、解った!」
成る程、それでか。
ただ直接ご視察にと言う訳ではないのだな。
「陛下。どうかここのデザートを冥土の土産になどとお考えなさらぬよう」
「ぬぅ……!? 何故、そうと……」
「お越し頂いて良かった。僭越ながら、陛下に恩返しさせて頂きたく」
陛下はかなり重い病を患われておいでだ。
死期を悟って新しい物を間近で見たいとお考えになったのだろう。それがここで本当に良かったと思う。
「陛下! ご無事ですか!」
「うむ、無事だ。それより先生。恩返しと言うのは?」
「主治医。注射を出してくれ。陛下を苛む病を浄化する」
「「うお!?」」
「何ですって!? しかし、陛下の病は!」
良いから出せ。
私もバケツを取ってくる。小皿もだな。
「採血を」
「ですが!」
「先生に従え。先生は私の病に気付いた。もう長くないと言う事もだ」
「なん、と……!」
さっさと採血しろ。一秒でも早く陛下の御身をお救いせねばならんのだ。
「ここに」
「はい!」
「陛下、そして殿下。お見苦しい所をお見せしますが、どうかご容赦を願います」
「ふむ?」
「それはどう言う……」
小皿に出された陛下の血を吸う。
……やはり。
「うぷっ」
盛大にリバース。
「「なっ!?」」
「く、ぅ。随分、お苦しみの様でしたね……。良くぞ私の所にお越し下さいました……」
「ど、どう言う事だ?」
不敬極まる行為だが、バケツの中を見せよう。
無臭にして無色透明。聖水が出た。
「私は牙から病や呪いの類を吸うと、胃の中で聖水を生み出し吐き出すと言う性質を持っております。教会で最高級の聖水がこれなのです」
「なん、と……!」
「世界一強いと言う聖水がこの様な形で……!」
今度は聖水を小皿に。
ジュッ!
「「うおお!?」」
陛下の血から音と共に煙が上がる。
この感触は良く覚えているよ。
「私が吸血鬼になる前に患っていた死病。そして私を庇護して下さった大司教猊下が患い掛けていた死病です。故に、我が身命を賭して陛下にお願い申し上げます。これと同じ聖水をお飲み頂き、御身に巣くう死病を浄化なさって下さいませ。物が物なので強くは申せません。しかしながら、この死病を完全に浄化する方法は未だこの一つのみ。あの大司教猊下もそれで完治し、以後は病に犯される事なくお過ごしになられました。私は陛下に、そして王家の方々に末永く壮健であられて欲しいと考えております」
「解った。頂こう」
「へ、陛下!」
「どの道長くない身だ。どんな物であれ、それで我が命が繋がるのであれば試したい」
「恐縮です。保管してある物を出しましょう」
流石に吐き出したばかりの物を出すのは忍びないでも済まない。
常備用の聖水を出し、今度は注射器に残った血を浄化して確かめて貰う。
ジュッ!
「「おおお……!」」
確認して貰ったらティーカップに注ごう。一杯分で十分。あの大司教猊下の時もそうだった。
「んっ、んっ。……ぬお!?」
「父上、如何です?」
「痛みや苦しみが消えていく!」
「「おおお!」」
物が物なので滅多に勧めないが、私の聖水は飲む事でも病を浄化出来る。どんな病でも治すし、猫の予防接種と同じで以後は病に掛からない。
知られていないのは物が物だからなのと、下手に知られると需要が一気に膨れ上がって本来の用途の分が足りなくなるからだ。
「信じられん! 完全に消えた! おお、普通に立てるぞ!」
「お、おい主治医! 診察を!」
「は、はい!」
他の悪いものも全て浄化するからな。
前より体が軽く感じると思う。
「奇跡だ……! 病の徴候が何もかも消えている……!」
「以後も病に掛かりません。最近解ったのですが、子にも継がれるそうでして」
「なんと!?」
恐らくこれでも子に継がれるはず。
私の血を濃縮した様な物な訳だし。
あの大司教猊下に飲んで貰った時には既にご子息が居たから解らないでいた。
「物が物なので強くはお勧め出来ないのですが、殿下もお試しになります?」
「あ、ああ! 元がどんな物であっても奇跡の産物としか思えん!」
では、殿下にも。
一瓶でティーカップ二杯分だから丁度良い。
「うお、お……! 体が、軽くなる……!」
「殿下も何か病を!?」
「いや。恐らく新陳代謝を阻害する悪性の物質が浄化されたのだろう。疲労の元となる成分や血液の流れを遅くする成分だな」
「正に聖水ですね……!」
実態は吐瀉物なのだが。
思った以上に劇的だな。健康なヒトでもかなり変わるか。
「何と感謝すれば良いか……!」
「いえ。私は王家と教会のおかげで一般市民としての権利を得られています。それは私の様な化け物にとって、生きていて良いと言うお許し。いつか王家の方々にその大恩をお返し出来ればと考えておりました」
教会には聖水の売却と言う形で恩を返せているが、王家はまだだったからな。
陛下の命を救えたのは私にとっても大きい。
もう一瓶持って来よう。
「差し支え無ければこちらをお持ち下さい。同じ聖水です。まず毒見役に飲ませ、その後に王妃陛下や王太子妃殿下にお飲み頂くと良いでしょう。聖水か霊薬とだけ言えば問題無いかと。見た目も味も水ですし」
「ありがたく頂こう。まだ妻が見つかっていないのだが、出来たら飲ませようと思う」
む。まだお相手はいらっしゃらなかったか。
そう言う話はここまで届かないからな。
「ああ、そうだ主治医。すまないが病を治すと言う事は墓まで持っていってくれ。霊薬を調合した、が妥当な所かな。広まってしまうと教会から聖水が消えてしまう」
「わ、解りました。そうですよね。全ての病を治す上に遺伝までするとなれば、誰であっても欲しがるでしょう」
中級聖水でも効果が有ると思うしな。
銀貨五十枚で病気とおさらばなどすぐ無くなるに決まっている。下手をすれば希釈して高値で売る愚か者すら出るぞ。
我ながら強力な物を生み出せるものだ。
図書館も見たかったそうなので案内。
そろそろ各所に運び出す予定だから、落ち着いて見せられると言う点でも丁度良かった。
「溜め息しか出ん。これ程の書物をこの保存状態のまま今も残し続けているとは」
「父上、こちらを。年号が八百年前です」
「なんだと? おお、本当だ。素晴らしい」
村長の後継ぎしか読みに来ない政治の専門書にもお喜び頂けた。やはり一番は魔道書だが。
研究所の視察が本題だから、ここ最近の発展に一役買った書籍は気になるだろう。
「主治医。医術書も有るが見るか?」
「なんですって!? 是非!」
医術書も有る。村医者の育成にと仕入れていて、近辺の村には一件ずつ医者が居るんだ。
かなり無茶をして仕入れた物ばかりだから内容は折り紙付き。
「ど、どうだ?」
「村の図書館に置かれる様な物ではありせん! 恐らく我が国で一番詳しい医術書です!」
「本当か!?」
ああ、うん。そうだろうなと思う。
本当に無茶をして仕入れたからな。
「出版元を見てみろ。理由が解る」
「……これは! あの医療大国ですか!」
西に国を三つ程跨いだ先に有る医療大国から高値で仕入れた物だ。一冊で金貨十枚。恐らくこの図書館で最も高価な書籍だな。
「今は村医者を育てる予定が無い。なんなら全て一年無料で貸し出すぞ」
「宜しいのですか!?」
「王家の方々の御身を支えるんだ。もっと多くの知識と技術を身に付けてくれ。写本してくれても構わんし、写本の後に国内で広めても良い」
「ありがとうございます!」
だからそこらの町より医者の腕が立つ。
大手術をしない限りは村で足りるくらいだ。
「陛下と殿下も気になる書籍が有ればどうぞ。一年と言う期限になってしまいますが、王家の方々からお金は頂けません。お好きなだけお借り下さい」
「甘えさせて貰おう。歴史書が気になっていた」
「私は政治書を。ここの政治書であればもっと学べそうだ」
歴史書は色んな国のを揃えてあるから楽しめると思う。勿論この国のも有る。
政治書も村長の後継ぎがまだ先だから問題無く貸し出せる。
「ううむ。これだけの書籍が揃っていて近辺が村と言うのが信じられん」
「そこは私の不徳の致すところ。何分、化け物の身ですから。しかしながら、ちゃんと活用しております。各分野の職人の腕は都の職人より上と自負しておりますし、生産業も専門書の知識にて全てが上質です。料理もデザートも酒も良い物が揃っておりますし、アーティファクトの開発も始まりました。小さい村ながらもそれなりの生活を送っておりますよ」
「溜め息ばかりだ。村の様子も見れるなら見ていきたいが、流石に難しいだろうか」
「大丈夫でしょう。差し支えなければ私の馬車を出します」
「おおお。頼む」
では、村を自慢させて頂くとしようか。
ついでに良い物を土産にお持ち頂こう。
少年と小娘、そしてミリイが帰ってきて仰天。
いきなり国王陛下に王太子殿下と紹介されたら驚かない方がおかしい。
流石にお相手させるには難しいから、ウチの馬車を御者に引いて貰って私が案内する。
「おお? 先生、客人かい?」
「ああ。王都から村の話を聞いて来られた身分有る方々だ。失礼の無い様にな」
「うお。こいつぁ失礼しやした。どうぞごゆっくりしていって下せえ」
村の皆にはそう伝える。
私がそう紹介する事なんで今まで無かったからおっかなびっくり。
陛下と殿下も驚かれておいでだな。
「村、か?」
「規模は村ですが……」
何しろ設備がしっかり整っている。見た目は安っぽくてもまともな設備ばかり。撒水機や製水機にも驚きになられた。
そして作物。料理。
「美味い……」
「父上、普段食べている物より美味ではありませんか?」
「う、うむ」
締め括りにデザート。アンニンアイスだ。
「アイスクリームだと!?」
「私達でも滅多に食べられないのだが!」
「アーティファクトを活用して作っておりましてね。今年からこの一帯の名産品として出す様になったのです。夏は大成功でしたよ」
「「夏!?」」
王宮でも夏にアイスクリームは無理だと思う。
少なくともこの国では無理だ。
「で、では、年中食べられると!?」
「勿論です。この一帯は四つの村で提携しているのですが、村ごとに独自の味も用意しておりますよ。このアンニンアイスは四つの村全てで出しております」
「それは噂になる訳だ……!」
ふっふっふ。そう言う訳で。
頼んでおいた鍛冶屋が来てくれたぞ。
「先生。こちらさんで?」
「ああ」
「「む?」」
「彼はこの村の鍛冶士です。アイスクリームをお気に召して頂けた様ですし、ここでアイスクリーム作りに使われているアーティファクトを用意して貰いました」
「冷凍ボウルと言いやす。中の物の温度を魔力に変えて中の物を冷やすアーティファクトでして。これなら年中アイスクリームを作れやすぜ」
「「おおお!」」
会長にも声を掛けて作って貰った。
まだ誰の為にと話してないから、後で驚かせてやろう。
「レシピも後で書きましょう。もしかすると、この国の料理事情を変える事になるかもしれませんからね。どれだけの物か、御自身でお確かめ頂ければと思います」
「ありがたい!」
「この国の未来像でもあるのか!」
これはまず売れるだろうと見てる。
アイス以外にも使い道が有ると思うしな。
「魔石の質を上げる技術が生まれ、今後は従来よりも必要な魔石の大きさが小さくなって行くでしょう。そうなると材料の消費も減り、値段も落ちていくと話していまして」
「素晴らしい! 本当に素晴らしい!」
「では! 材料の供給量を増やせれば更に入手しやすくなると言う事だろうか!」
「仰る通りです。供給量を現状の倍にすれば、試算では従来の半値かそれ以下になると出ました」
「「おおお!」」
その件についてもご一考頂きたい。
錬金術で使う材料でもあるから、薬なんかも安く出来る。魔法肥料もその内に含まれるし。
「先生、それなんだがよ。薬剤の抽出にも専用の機材を開発してみねえか? 一括で材料から抽出出来りゃ人件費削れるだろ」
「「おおお!?」」
「有りだな。大いに有りだ。会長に提案してきてくれ。成功すれば更に値下げ出来る」
「よっしゃ。それじゃ、あっしはこれで失礼しやす」
「うむ! 頑張ってくれ!」
「素晴らしいボウルに感謝する!」
成る程、抽出用機材か。
この際だから薬剤に関する費用を全部見直しても良いな。根底から変えるくらいで。
「彼の様な優秀な人材が王宮にも欲しい」
「欲しいですね。村の鍛冶屋に据えるのは実に惜しい」
教え子を褒められるのは嬉しいものだ。しかもそれが陛下と殿下からなのだものな。
この一帯の皆は国で通用する人材。そう思うととても誇らしい。
一通り視察なさり、色々とお土産をお買い集め頂いてから陛下と殿下はお帰りになった。
村の入り口まで見送ったのだが、馬車が見えなくなったところで限界が来たよ。
「ふぅ……」
「「うおっ!?」」
「ど、どうした先生!」
「まさか無理を通して案内してたんじゃねえだろうな!?」
地面にへたり込んだ。貧血では無い。
無理を通したと言えばその通り。
「は、はは。今になって震え始めた。まったく、本当に長生きするものだよ」
「どう言う事だ?」
「あのお二人はな。我が国の国王陛下と王太子殿下だったんだ」
「「なにぃ!?」」
上手く誤魔化せたとは思うが、やはり流石の私でも王族の案内は緊張し続けていたらしい。緊張の糸が切れると言うのはこう言う事を指すのかと実感したぞ。
ああ、うん、冷や汗までかき始めた。
「ちょ、何で言ってくれなかったんだよ!」
「う、うあ、どうしよ、陛下に料理をお召し上がり頂いちゃった!」
「落ち着け落ち着け。お忍びでお越しになられていたから無用に騒がれない様にとお考え下さったんだ。皆の事をお褒め下さっていたし、料理やデザートもかなりお気に召して頂けた」
「「うああ……!」」
皆揃って私に続いた。へたり。
普通はそうだよな。解る。何せ王族、雲の上の方々だし。
「何にせよ、皆の頑張りは陛下のお耳に届いたんだ。夏は最高の結果を齎した。風が向いてきたかもしれんぞ?」
「「わああ!」」
散々な目に遭ったのが嘘の様な一日。
いや、ある意味では私だけ不幸続きだったか。畏れ多すぎて無理をしていた事にも気付かなかったとはな。
暫く身分が高い相手の前に出たくない。




