その先生、非力にして貧弱
前回の「淫魔さんの人間暮らし」で頂いたご指摘や教訓を活かし、試しに新しく書いてみました。
ブラバ覚悟ですので、お嫌でしたら遠慮無くブラバして下さい。
「今日も良い陽気だな……」
大の字に寝そべると、目の前は一面の青空。
春の日差しに温かく爽やかな風。そして風に揺れる草花の音。このまま昼寝でもしていたい。
けれどそうも行かない。ゆっくりとだけどガタゴトと音が近づいて来ている。荷馬車だろう。
そして音は私のすぐ頭上で止まった。
「先生。また道のど真ん中で貧血起こしちまったのかよ。だから迎えに行くって言ったんだ」
「今日は後ろに倒れられたぞ」
「そう言う問題じゃねえって。あぁもぉ、髪も服も汚れちまって。やっぱり来て正解だったぜ」
いやはや、面目ない。
彼の牧場に行くつもりが、貧血で倒れて迎えに来るのを待つ羽目になるとは。良く有る事と言ってもばつが悪い。
抱き上げて貰ったんで、そのまま荷馬車に乗せて貰う。いや、積み込まれた。荷物扱い。何時もの事だがもう少し優しくしてくれても良いだろ。
「まったく、折角の美人が台無しだ」
んん?
「私は美人なのか?」
「先生。ちゃんと鏡見た方が良いぞ。この村で一番の美人じゃねえか」
褒められると悪い気はしないが、そんな事を言われても困る。
美的感覚が必要な話だと思うし、仮に私がそれを持っていたとしても他の女性と比べられない。私はどう頑張っても自分で比べられないのだ。
体は自分の目で確かめられるから解る。そっちは女らしい体付きだろうと私でも思う。背が高いのが少し不満だけども。色んな入り口に頭をぶつけるから。
髪の色も解る。伸ばしっ放しだから黒髪が見える。
「前に話さなかったか? 私は鏡に映らない」
「は? 何でだ?」
「吸血鬼は鏡に映らないんだ。どんな顔をしているか解らん」
「ああー……。ほんと吸血鬼も大変だなぁ」
存在からして鏡に映らない。自分で自分がどんな顔なのか解らないのだから比べようが無い。
本当に吸血鬼は大変だ。普通の吸血鬼ならまだ話が変わるのだろうが、私の場合は輪を掛けて大変だと思う。何せ吸血鬼の中でも変わり種中の変わり種なのだから。
「んじゃ、俺んチに行くぜ」
「頼む。あ、ゆっくりでな。酔う」
「……ただひ弱なだけじゃねぇ?」
そんな事はないぞ?
これでも吸血鬼の内なんだ。本当だぞ?
引きこもりだから体力が無いとか、身嗜みが面倒だとか、そう言うのでは無いからな?
「でなければ牛から血を吸うなんて真似は出来ないだろう」
「まあ、確かにそうだけどよ」
いつもやっているんだから信じてくれ。
本当に吸血鬼なんだぞ。一応な。
長閑な田舎の村に舗装された道など無く。
ぼーっと風景を眺めて居ないと馬車酔いする程に揺られながら牧場に到着。今日は何とか耐えられた。貧血で倒れて結構休めたからだろうか。
「あら先生。やっぱり今日も倒れちゃってたの」
「ぬ。何故解った?」
「頭を見れば解るわよ。鏡で確かめなかった?」
彼の妻に迎えて貰ったは良い物の、またここで鏡の話をする羽目に。と言うか、この夫婦には前にも話さなかったか? 他の村人にも話しているからそう感じるのか、それとも私が吸血鬼だと言う事を忘れているからなのか。
「ほら、座って。ブラシを取ってくるから」
「すまん」
そんな思いに耽っている間に玄関で髪をとかして貰ってから仕事に入る。
「牛の様子はどうだ?」
「先生のおかげで元気そのもの。隣村で牛の病気が流行りだしたって言うから、先生には感謝してるよ」
「む。隣村か。依頼が来る様なら稼ぎに行くか」
家畜の健康診断も仕事の一つ。生きる為には働かねば。特にこの仕事は重要。肉は元気の源。家畜が病気になれば多方面が大打撃を受ける。それは避けないと。
私の様なはみ出し者が周囲の役に立てると言うのも大きい事だし。
「うん。確かに元気だ。ん。いや。すまない、バケツを頼む」
「うお。こっちにも来ちまってたか」
専門家ではないものの、この仕事を始めてから長い。見ただけである程度解る。元気な牛達の中に一頭だけ僅かに様子が違う奴が居た。
こうなると必要なのがバケツ。彼に持って来て貰ったら診察開始だ。
「いつも通り落ち着いていろよ。……あむ」
牛を宥めつつ吸血鬼らしく犬歯を伸ばし、牛の首筋に犬歯を優しく突き立ててやる。ガブリ。
右の犬歯から血を吸い、異常な要素をろ過して左の犬歯から血を戻す。こうして血の調子を整えてやるのが健康診断。どうやらこの牛は病に掛かりかけらしい。色々と我慢しながら病の素を徹底的に吸い上げてろ過していく。
彼に手で合図。バケツ。受け取る。
もう少し。病の素が減ってきた。……よし。
血の質が正常に戻ったら優しく歯を抜く。そして――
「うぷっ」
受け取ったバケツにリバース。
「……ふぅ。掛かりかけだった」
「助かった。けど、大丈夫か? 毎度の事ながらどうも不安になる」
「ああ。慣れた」
病を取り込むんだから当然気分も悪くなる。それをそのまま吐く訳では無いが、吐瀉物にも用が有るんで牛から吸い上げたら我慢せず吐く。病とは無関係とばかりに無臭で無色透明の吐瀉物。後で別の事に使うから脇に置こう。
そうでなくても血を吸おうとすると吐くがな。
「我ながらワケが解らん。吸血鬼のクセにヒトの血を吸っても吐く」
「あれ。健康な牛を吸う分には平気なのにか?」
「吸うと言っても吸収していないんだ。右の歯で吸って、ろ過したらそのまま左の歯で戻してる。まともに吸うと吐く。家畜はまだ耐えられるんだが、ヒトの場合は噛んだ時点で吐く」
「吸血鬼って何なんだ……」
私もそう思う。その分無害な吸血鬼で居られるから悪い事ばかりじゃない。吸収しても自分の血に足される訳でも無い様だし。生命力に変換されてうんたらかんたら。それで体が弱い、と言うのも違うだろう。体の弱さは元からだ。
それより、肝心の牛の病気だけれども。
「タチの悪い病では無かった。処分は不要。抗体も精製出来たから他の牛にも投与する」
「そいつぁ良かった。頼むよ」
ろ過出来るだけあって病の抗体も精製出来るし投与する事だって出来る。他の牛にも投与すれば安心。一年は同じ病に掛からない。そしてその牛の肉を食べたヒトにも効果が有る。費用も手頃だと思うから知ってるヒトは依頼してくる。
「ほんと無理させてる様で悪いが、これで治療費は一頭分で良いんだからありがてぇ」
「私を信用してくれる者には贔屓すると言うだけさ」
人外による治療を信用してくれる者は中々居ないからな。
ここが私の故郷で村の皆に理解されていなかったら、今頃私は路頭に迷っていたと思う。いや、退治されていただろう。無害だと自負するが良く狙われる。
それに私としては報酬以外にも得る物が有る訳だし。
「何時もの事だが、これも報酬の内だ」
「そのゲロも良く解らん。報酬なのかよ」
ゲロ言うな。間違っては居ないが。もう少し言葉を選んでくれ。
無臭にして無色透明な吐瀉物は病や毒の類をろ過した時にしか出ない。私も何故こんな物を吐き出せるのか未だに解らんのだが、その筋ではかなり重宝されている。
用途が有るからと毎回持ち帰るし、物が物なんであまり理由を聞かれない。自分で後始末しようとしていると考えられているのか止められもしない。聞かれれば話すのだが、彼にも話して無かったか? 良い機会だし話しておこう。
「かなりの強さの聖水なんだ」
案の定疑われた。解る。私も初めてその事実を知った時は耳を疑ったし。
とは言え本当なんで、家まで送り届けて貰うついでに見せる事にした。見れば解る。そして見せる事が出来る。
「はぁー……。まさか呪いの本まで仕入れてたとはなぁ」
「違う。仕入れているのではなく、依頼として送りつけられているんだ。何が楽しくて図書館に呪いの本を置かねばならんのだ」
「先生なら読みそうだぞ」
「幾ら本業が図書館の館長でも読まんし買わん」
呪われた品の解呪も副業の一つ。本業は図書館の館長。結構な大きさだが従業員は私一人。結構辛い。でも誰も来てくれない。辛い。
私の吐瀉物について知っている者はそう多くないものの、強力なんで良い金になるからと使者を送って買い取ってくれるし、こっちから送って売る事もある。時折こうしてこっちに呪われた品を送り付けてきたりもする。
丁度一冊、呪われた魔道書を送り付けられてたんで聖水が欲しいと思ってたんだ。
「こんな物、幾ら私でも読みたいとは思わんぞ」
「うお。また気色悪ぃ本だなこりゃ。確かに読む気にゃなれねぇ。俺も嫌だ」
しかも無造作に茶封筒で送ってくる。魔道書として使わなければ問題ないそうだが、だからと行って茶封筒は無いだろうと毎回思う。これだってそうだ。表紙には苦痛に歪む顔が浮き彫りにあしらわれ、装丁の留め具には爪の伸びた手が用いられて必死に本を開けまいと掴んでる。呻き声をあげている様にも負の気配すら漂っている様にも思えるな。呪われた品は大抵こんな感じ。
それを聖水入りのバケツに放り込むだけ。
すると青い炎に包まれて浄化されていく。怨嗟の声が聞こえる気もするが、あくまで気がするだけ。灰になるまで燃える。浄化完了。
「マジだ。ほんとに聖水だよ」
「だろう。前金で報酬が支払われるし、私としても長く手元に置きたくないから聖水を作る機会は逃せないんだ。それも診察代や治療費が安い理由なのさ」
だからどんどん利用して欲しい。リバースも慣れた。問題無い。気持ち悪さは我慢する。
本来の報酬も欲しいし。
「なら、遠慮無く頼もう。これ今回の報酬の牛肉だ。少し多くしたからしっかり食ってくれ」
「む。すまない。ありがたく頂く」
診察代も治療費も現物支給。つまり肉とか乳製品、卵。たまに羊毛。
吸血鬼のクセに普通の食生活だから現物支給はかなり助かる。生活費は基本的に聖水の収入だ。
図書館の維持にも金が掛かるからずっと引きこもっては居られんのだよ。出来れば引きこもって日がな一日、本を読んでいたいんだが。
農家が帰ってから一試案。
昼食を摂るかどうかでかなり悩む。健康診断が有るからと朝食は食べて居ない。何で私の胃が聖水を作るんだ。下手に食事を摂れないだろうが。
しかも隣村の話を聞いてしまった。最悪だ。この後来るかもしれない。昼食を食べて良いか本当に悩む。そしてお腹空いた。
む、むむ、むむむ。
よし、食べ――
カランカランカラン。
――られなかった。
呼び鈴。がくり。きっと隣村の農家。
とにかく平静を装って出迎えよう。もしかしたら聖水を買い取りに使者が来たのかもしれない。
うん、きっとそうだ。牛肉に加えて金もすぐ入るなんて私にしては珍しく運が良い!
「先生、すまねえ。ウチの村の牛が病に掛かっちまってよ」
……やはり。知ってた。私が運に恵まれてないのは良く解ってる。くそ。さらば昼食。
「さっきここの農家から聞いたところだ。すぐ出よう」
「う。ほんとすまねえ。健康診断の直後だったか。大丈夫か?」
「皆の生活には代えられん」
この一帯の村は全員でなくとも私を受け入れてくれているし、頼まれれば無碍には出来ない。
流行病となればこちらでバケツを用意した方が良いから持ち出すのを手伝って貰おう。こう言う事態の為に私もバケツをかなり用意してある。他の村だと返却が面倒だからな。
……お?
「荷馬車を買い替えたのか?」
初めて見る形の荷馬車だ。車輪周りが豪華。
「へへ。最近都で開発された新型だ。車輪にバネが着いてて揺れねえんだよ。これなら先生も酔わずに済むと思ってな」
おおう。それはありがたい。揺れない馬車とは凄い物が出来たものだ。これなら私も酔わずに済む。技術の進歩万歳。
「よし。それじゃ飛ばすぜ!」
え。
「ちょ、ちょっと待――」
ガガガガ。待て待て待て。
確かに今までの馬車より揺れないが、これは飛ばす事を想定していない感じだぞ。これでは普通の荷馬車と変わらん。
「ちぃ!流石に飛ばすと揺れるか!」
揺れる。揺れるからゆっくり頼む。酔うから。
「悪いけどこのまま行くぜ!既に牛が死んじまってるんでな!」
ああ、それで。その為の豪華仕様か。仕方ない、覚悟を決めて風景を楽しもう。この速度で風景を見るのは初めてだから新鮮に見えると割り切ろう。
うん、新鮮だ。風景がどんどん流れる。馬に乗る気分と言うのはこんな感じなんだな。そして思った。
食事を摂らなくて大正解だった、と。
到着してリバース中。今回は普通に。辛い。
「ほんとすまねえ。更にすまねえが、最近他所から酪農家が来ててな」
「う、くぅ。……ふぅ。それは構わん。頷く様ならやるし、駄目なら無視。抗体を作ればそこから感染はしないだろう。こちらでも一頭感染していたが、それと同じならヒトには感染しないと思うし」
理解して貰えないケースも珍しくない。それは仕方ない。何せ私は化け物だ。信用してくれるヒトだけ助ける。それで良い。
気分が落ち着いたところで診察に入ろう。農家をぞろぞろと引き連れて、先ずは死んだ牛が出てる牧場へ。あ、知らない顔も着いてきている。彼が他所から来た酪農家か。私を訝しげに見ているが、やはり無視。
「バケツを頼む」
「ああ」
向かった先では殆どの牛がぐったり。座るどころか倒れている牛まで。倒れている牛からだな。
犬歯を伸ばしてガブリ。
「うっ」
「だ、大丈夫か……?」
これはかなりキツい。午前中に診た病と同じだが進行の度合いが酷いな。時間が経ち過ぎているんだと思う。
恐らく新参者が居るから私を呼ぶのに時間が掛かったんだろう。無視して早く呼べば良かったのに。……うぷっ。
治療途中でリバース。
「けほっ。あむっ」
「せ、先生! 無理すんな!」
そうもいかない。まだこの牛は助けられるし、他の牛だって居る。聖水も稼げる。
何度か途中でリバースするも、一先ず一頭を助けられた。これを村中となるとしんどい。乗り越えれば荒稼ぎだから頑張ろう。この調子なら本を増やせる。
「あむっ」
吸ってろ過してリバース。やはり昼食を摂らず正解。お、農家達が横で喜んでる。治療した牛が立ち上がったらしい。良い物を食わせてやってくれ。栄養を摂らせれば数日で戻ると思うし。
「バケツ。次」
「あ、ああ!」
バケツ足りるか? 一つ分溜まってしまった。借りる事になるかもしれない。稼げるのは良いが持ち帰るのも返却するのも面倒。
「バケツが足りん。ありったけ出してくれ」
「捨てれば良いんじゃないか?」
「いや、先生のゲロは聖水なんだとよ。高く売れるって聞いた」
だからゲロ言うな。間違ってないけども。もう少し言い方をだな。
いや、それよりバケツを追加してくれ。このペースではやはり足りん。
「うぷっ」
絶賛リバース中。
「……ぐぬぅ。皆もバケツの準備を。倒れてなければ間に合いそうだ。倒れた牛が居るところを優先する」
「解った! 準備しておく!」
「ウチはまだ倒れてねえ!」
「ウチもだ!」
ここの酪農家と新参者以外は引き返したな。新参者はまだ迷っていると言ったところか。私はどちらでも構わん。慈善事業をするつもりは無い、と言うか慈善事業で連続リバースは嫌だ。
よし、これでここの倒れた牛は全て治療完了。次は座り込んでいる牛だ。
「先生。他のとこの倒れてる奴を先にやった方が良いんじゃねえか?」
「各牧場にどれだけ居るかが解らん。まずはここを全て治療してから均等にだな」
「そ、そうか。ほんとすまねえ」
「なに。これも商売さ」
牛が死んだのはここだけらしい。そして倒れている牛が一番多いのもここ。となるとここが感染源の可能性が有る。それは抗体を他の牛に投与しながら考えるとする。
「この感触やこっちにも来てる事などを考えるとノミだな」
「おかしいな。どこの牧場でも注意してるはずなんだが」
「念の為に改めて徹底させてくれ。ノミとなると民家にもやらせた方が良い。ヒトとなると私は対象外だし」
空気感染ならヒトは大丈夫と思っていたが、ノミとなると話は変わる。徹底するべきだ。
そちらは村側に丸投げ。そこまでは私の仕事じゃない。身が持たん。ただ、色々と考えるだけなら無駄にはならない。気を紛らわせられる。む、いかん。これはマズい。
「すまん。水。水分が足りなくなってきた」
「お、おお! すまねえ! そうだったな!」
体内の水分を聖水にするらしいから、定期的に水分を補給しないと吐けなくなる。
「一先ずこれ! もっと持って来る!」
「頼む」
急ぎだったし規模が大きいのは久しぶりだったから私も指示を出し損ねた。こう言う時は水を沢山用意して貰わないと駄目なんだ。
牛乳瓶一杯に入った水をがぶ飲み。すぐ体に浸透してくれるところは便利な体だな。よし、治療の続き。
連続リバース中。
「これで足りるか!?」
「ああ。助かる」
今度は水瓶とコップ。
飲んで吸血、そしてリバース。ひたすらこれの繰り返し。バケツもどんどん交換。一時間程して漸く一件終了だ。もう立つのも辛い。
他の酪農家が戻ってきたな。
「ちょ、大丈夫かよ……」
「……問題無い。すまんが次まで運んでくれ。死なないと言う点では丈夫だからな」
「「お、おお……」」
もはや病原菌吸引機。運搬物。担架を出す様に頼んで、次までは荷馬車で。バケツの回収は後回しだ。
お、ゆっくりなら確かに揺れない。この荷馬車は良いな。実に良い。馬の世話が面倒でなければ私も欲しいところだ。
「あ、あの」
「ん?」
運んでる途中で新参者から声を掛けられた。どうやら覚悟が決まった様だな。
「ウチもお願い出来ませんか……?」
「解った。被害状況を教えてくれ」
「ありがとうございます! ウチは――」
む。進路変更。新参者優先。最初の牧場並に酷いじゃないか。って、二頭死んでいるだと?しかも場所が最初の牧場に近い。
「おい。まさかとは思うが、ノミ対策は――」
「す、すみません! 方法が違っていたかもしれません!」
「「ぐあっ」」
急げ! そこが感染源だろう!
夜になる前には何とか村中の牛を助けられた。
念の為に養鶏場も確認したが大丈夫だったらしい。一先ず私を呼びに来た農家に一晩泊めて貰う事にして、明日また養鶏場をちゃんと確認する。
「すまねえな。ほんと助かったぜ」
「これも仕事だ。気にするな」
ソファーを借りてぐったり。流石にキツい。水分をひたすら摂って、夕食も消化の良いスープを頼んで。こう言う状態に良いグレープフルーツのジュースも飲む。
コンコンコン。
「お。バケツの回収が終わったみてえだな」
「ありがたい」
治療が終わった所から聖水を集める様に頼んである。その回収が済んだのだろうな。ああ、やはりそうらしい。他の農家達が来てくれた。
「先生、大丈夫か?」
「ゲロは全部集めておいたぞ」
だからゲロ言うな。そうだけども。本当に何とかならんのか。聖水なんだぞ。
「助かる。一息つけたところだ。明日の治療には差し支えない」
「「おお……」」
流石に連続リバースを見せると心配される。
治療中は生活が懸かってるだけに家畜達の方を心配するが、終わるとどこもこうだ。
どうやら新参者もそうらしい。
「あの! すみませんでした!」
「私を疑っていた事なら気にする必要は無い。化け物に治療させるなどと普通は拒否するからな。ノミの事なら私より周囲だ」
頭を下げられた。
何時もの事だから気にしない。彼の反応の方が普通なんだ。新参者なら尚更と言うもの。
彼や周囲の反応を見る限り、やはり新参者が問題で私を頼るのが遅れた様だ。それも仕方ない。
「代金は周囲と相談してくれ」
「相談、とは?」
「先生の家畜診察はいつも金じゃなくて肉とか牛乳なんだよ。ウチ全体となると一月分か?」
「一件ずつ一日ごとに届けて一月だろ。診察一回で肉二百グラムか牛乳一リットルだ。治療は何頭であっても診察一回と同じ量。破格だぜ」
「それで、良いんですか……?」
家畜向けの仕事はそれで良い。聖水で稼げる訳だし、それで食材もとなれば充分だ。
この村は牛だが、他の村では豚や羊なんかも飼ってるから肉に困らなくて良い。肉は原動力。
「私は変わり種の吸血鬼でな。ヒトの血は受け付けんし、普通に食事しないと倒れる」
「食事してても貧血で倒れるしな」
「「ははははっ!」」
遺憾ながら倒れる。乗り物にも酔うし。だからと言って、か弱い乙女を笑うんじゃない。大変なんだぞ。傷つくじゃないか。
「な? 良いヒトだって言ったろ?」
「はい……」
「この近辺で先生の世話になってねえ奴は余所者くらいじゃねえかな。隣村で学校も開いてんだ」
「学校!? それで先生って!?」
「ああ」
教師も副業の一つ。尤も、学校と呼べる程の物じゃない。この近辺のヒトに読み書きや簡単な計算を教える程度だし、何分どこも村だから人口も少なく、子供が増えた時にと言う程度。
吸血鬼なだけに長生きなので、今となっては近辺のヒト達は殆ど私の教え子。これも居場所を維持する為の処世術みたいなものさ。
「学費も安いんだよ。一日で果物一個だ」
「ええ!?」
「本業じゃないからな」
学費も食料。肉類もそうだが、向こうから持ってきてくれるのは結構大きい。買い出しに行くのは大変だから。行きはともかく帰りが辛い。倒れると買った物が台無しになりやすい。
「本業は何を?」
「図書館の館長。聖水の売り上げで本を集めていてな。今ではこの国一番の規模だ。有料だが貸し出しもしている」
貸し出し量も収入の内ではあるが、大した稼ぎにはなっていない。私の趣味で本を選んでいる事もあって、借りに来る者が少ないからだ。
本業の方が趣味に近い。退屈しないし聖水で稼げているから気にならないが。
「バケツはどれくらいになった?」
「一件で十前後じゃねえかな」
「よし。すまないが暫く貸しておいてくれ。瓶を取り寄せてから詰めなくてはならん」
「「おう」」
それだけあれば暫く金に困らんな。
ここはお互い持ちつ持たれつだ。
一人称における自己紹介はダメと知り(無学者)、ならばと逆に自己紹介どころかキャラ名まで殆ど設定しませんでした。某ラノベに影響されての事です。バッシング覚悟。
少しでもお楽しみ頂ければ幸いです。




