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推理合戦3

「仮に被疑者が人間じゃなかったとしても、鳥だなんて断定はできないだろ!」

「そうだ! 鳥じゃなく犬だっていう可能性も……」

「ちょっと待って、まず鳥に対して男なんて呼び方はしないはずよ!」

「男の正体が鳥だったのなら階段なんて使わず飛んで部屋に戻るでしょう!」

「いや、飛べなかった理由は雨に濡れていたからじゃ――」

「鳥がどうやって警察にこんな証言をできたっていうんだ! 鳥は人の言葉で喋れないはずだぞ!」

「もし男が鳥だっていうんなら、どうして警察は鳥を逮捕したりなんてしたのかね! こっちの方がよっぽど今の話よりおかしいじゃないか!」

 まさに混沌。

 批判と非難の嵐が推理会場に巻き起こる。

 四方から鳴りやまぬそれらの声を、ウサギの被り物をがりがりと搔きながら、「鳥の中にも人語を話せる奴がいるだろ。オウムとか」、「人間の中にも黒柳〇子とか、ドクター・ドリ〇ルとか、ハ〇ジとか動物の言葉が分かる奴もいるだろ」、「この話の世界では鳥が殺人を犯した例もあるんじゃね」などと適当に受け流すウサギ男。

 その隣にいるウサギ少女が、ウサギ男の服を引っ張って推理会場から連れ出そうとしている。が、ウサギ男は立ち去る気はさらさらないらしく、頑としてその場から動こうとしない。

 暴動が起こっているかのような喧騒状態に、推理大会の司会やスタッフもどう対応していいのか分からず困惑した様子で場を眺めて――はおらず、彼ら自身も楽しそうにウサギ男の推理について話し合っていた。

 橘は会場に取り付けられた時計を一瞥し、推理大会が始まってからすでにかなりの時間が過ぎているのを確認した。今からではもう予定通りに推理大会を行うことはできないであろう時刻。

 そして再び視線を会場内に戻す。いまだ収まる気配を一向に見せない混沌とした会場をしばらく眺めたのち、橘はこの場にいる誰よりも大きな声で高らかに笑いだした。



 *  *  *



(なんだ、あいつは)

 突如仮装会場に響き渡った不気味な笑い声。人間のものとは思えないほどのくぐもった、それでいて大きすぎる笑い声に、会場中の誰もが口を閉ざしてその声の主へと視線を向けた。

 先程までは言葉にできないほどの言葉が溢れかえっていたにもかかわらず、今はその不気味な笑い声だけが響き渡っている。

 喧騒が止み、周りの視線が全て自分に向いていることに気づいたのか、全身を黒服で包んだその男は高笑いをやめた。そして、真っ黒なマスクで覆われた顔を浜田に向け、「ウサギ男さん。あなたって本当に面白いですね」などと笑いかけてきた。

(見た目もそうだが、こいつはそこら辺の雑魚とは何かが違う)

(今の高笑いも一瞬の静けさを作るための作戦か)

 ここまで思い通りに動いていた事態が狂い始める予感がして、浜田の背を冷たい汗が流れ落ちた。

「お褒め頂けて光栄だね、黒ずくめさんよ。もしかしてあんたはそこら辺のその他大勢と違って俺の解答に賛同してくれるのか?」

「ううん、そうしたいのは山々なんだけど、僕にはこの推理大会を絶対に優勝しないといけない理由があるからね。悪いけど、君の目論見を妨げさせてもらうよ」

 黒ずくめの男はそう言うと、まるで名探偵が謎を解くが如く、会場内を歩きながら語りだした。

「この推理大会におけるウサギ男さんの一連の動き。一見荒唐無稽な推理をでっちあげて推理大会を妨害し、それにより怒り狂った参加者を面白おかしく眺めるただの愉快犯のようにも思える。しかし、実際の狙いはあくまでも優勝することであり、ここまでの話は全て優勝するための布石。前代未聞ともいえるかもしれない、時間切れ(・・・・)を狙った推理大会攻略のね」

(こいつ、俺の狙いに気づいてやがる……)

 もし素顔をさらしていたのなら、この瞬間に図星であることがここにいる全員にばれてしまっていただろう。浜田は本日初めてウサギの被り物に感謝した。それと同時に、隣で(おそらく)不安げに自分を見つめている音田に目をやり、改めて優勝するための策を練り直し始めた。

「さて、お前の言ってることは俺には全然よく分かんねぇな。時間切れを狙った推理大会攻略方法? 時間切れになったら普通に考えて負けが決まるんじゃねぇのか」

「ふふふ、ウサギ男さんってば改めて攻略法を考え直し始めたみたいだね。取り敢えず僕に語らせて時間稼ぎをしようって魂胆か。いいよ、乗ってあげる。どうせこの勝負、僕が勝つことになるからね」

 真っ黒なマスクとウサギの被り物。お互いに顔は見えていないながらも、不思議なことに視線が合っていることを感じていた。


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