推理ゲーム会場
「礼人ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお」
仮装会場のどこかで、そう叫びながら猛スピードで走っていく女装男が一人。
だが、この程度のことはそこまで珍しいことでもないので、特に気にかける人もない。ただのバックミュージックとして聞き流される。
そんな暴走する男とはかなり離れた場所にて、推理ゲームが開催されようとしていた。
「お集りの皆さん! 今から第一三回コスプレ推理大会を開催したいと思います! 問題は全五問あり、一問ごとにその難易度は高くなっていきます。制限時間は一問十分までとなっており、時間内に正解を言い当てることができた人は次のラウンドに進出することができます。見事最終問題まで正解することができた人には、こちらに用意した豪華景品セットをプレゼントしたいと思います! それでは皆様、知恵と友情とコスプレ愛を胸に、全身全霊で挑戦してください!」
マイクを手に持った司会が、興奮した声で始まりの挨拶を話しきる。
そして、挑戦に伴って使っていいものや悪いものなど、諸注意について説明を加えていく。
それらを聞き流しながら、浜田と音田は優勝賞品に目を向けていた。
「なんか、貰っても全然嬉しくないような景品だな。あんなコスプレ衣装貰っても着る機会なんてないだろ」
「こういうのはですよ、その場限りで楽しめればそれでいいんです。後々こんなこともあったねとすぐに思い出せるような、記念としては優れているのですから」
「単純にごみが増えるだけの気がするんだがな。つうかコスプレ衣装以外にもこまごまとした景品が多いな。痛々しいイラストの描かれた腕時計とか、どっかで見たことのあるような小型の懐中電灯とか。つうかあれ、さっき女装コンテストで準優勝してたやつの写真じゃねぇか。あんなもん景品として貰っても嬉しくねぇだろ。そもそも本人から許可取ったのか?」
「この会場では度の過ぎた写真撮影や動画撮影以外は許可されてますからね。会場に入場する際、そうして撮影されることやそれを利用する許可も求められてますし」
「そういうやそうだな。まああの男は、自分が皆から撮影されるような展開にはならないと思ってたから許可したんだろうが……可哀そうにな」
「彼のことを不憫に思うのなら、ここで優勝してあの黒歴史となるであろう写真を処分してあげることが優しさでしょう。ということで、絶対に優勝しましょうね!」
「……まあ、通報されたくはないし、全力でやるよ。全力でな」
* * *
「礼人ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお」
李の叫びがこだまする中、目前に控えた推理ゲームに目を輝かせている橘にはその声は届かない。
件の女装コンテストでは李の華々しい(?)姿を激写しまくったが、それに満足して会場を出ようとしたところで、ある噂を小耳にはさんだ。それは、仮装会場の一角で開催される推理大会にて、女装コンテスト準優勝者の写真が代々景品として与えられるというものだ。もしかしたら自身が撮影できなかった舞台裏でのお宝写真があるのではないかと思い、急遽写真目当てに会場へダッシュ。
余裕で時間内に間に合い、推理大会の優勝賞品を目撃。そこで見つけた李の秘蔵写真に心を奪われ、推理ゲームに全力で参加することを決意していた。
「待ってろ千里のお宝写真! どんな手を使ってでも必ず僕がゲットしてみせる!」
こぶしを握り締め、他の参加者に目もくれず雄叫びを上げる黒ずくめの不審者が一人。
今ここに、仁義なき推理合戦が幕を開けようとしていた。