女装コンテスト
「おい礼人貴様! 本当にどういう事だ! どうして俺が女装コンテストに参加することになってるんだ! いい加減にしないとまじでぶちぎれるぞ!」
「まあまあ千里。せっかくそんなに似合ってるんだから女装コンテストに出ないなんて勿体ないじゃないか。僕の見立てではまず間違いなく優勝できるレベルに仕上がってるから! 優勝すれば賞金も貰えるらしいし、千里としても悪い話じゃないでしょ?」
「ぐ、賞金か……。いや待て、たとえ賞金をもらえるとしてもこんな一生ものの黒歴史になるようなことをするのは御免だ。だいたい賞金が目当てならお前が出れば……」
「いやいや、僕じゃ女装してもそこまで可愛くはならないだろうからね。優勝なんて狙えないよ。それに僕はこの『コ〇ン君とかで犯人をシルエットだけで表現した「黒い人」』のコスプレをしている最中だからね。女装してる暇なんてないんだ」
「お前は年がら年中似たような黒い服ばっかり着てるだろうが! その程度でコスプレなんて――」
「あ、ほら、受付の人が呼んでるから速く行かないと。それから千里、このコスプレの凄い所は顔まで完全に覆えちゃうってところにあるんだ。さすがの僕も普段は顔まで黒いもので覆えないからね」
「だから何だよ! くっ、おい、俺は参加なんてする気はないと……。は? 似合ってるから大丈夫だと? そういう問題じゃない! っておい礼人、何を笑顔で手を振ってやがる! この恨み……後でどうなるか覚えてろよぉぉぉぉぉ…………」
やってきたスタッフに連れられ、ずるずると女装コンテストの選手用待合室へと李の姿が消えていく。
「――千里ったら、あんな楽しそうにはしゃぐなんて、まだまだ子供だな。でも、ここに連れてきた身としては楽しんでもらえてるのはやっぱり嬉しいや。さて、千里の雄姿を特等席で見に行かないと」
再び李の絶叫が会場内にこだまする中、橘はほくほく顔で女装コンテストの観客席に足を運んでいった。
* * *
「あの準優勝だった女――いや、男か――あそこまで暴れたり罵倒したりしなければまず間違いなく優勝だっただろうに。勿体ねえ」
「まあ友人に無理やりエントリーさせられてたみたいですし、仕方ないんじゃないんですかね。それこそ優勝なんかしちゃった日には、歴代の王者として額縁にその雄姿が残り続けることになりますし。あれでよかったんじゃないですか?」
「まあ、あんだけ暴れて暴言吐きまくって退場にならなかったところがこの会場の凄い所だな。というか、M属性のやつが多かったらしく、意外と湧いてたのもビビったわ」
「ですねぇ。世の中変な人はたくさんいるって話です。さて、今度は推理ゲームの会場に向かいますか。浜田君は見た目のわりに頭いいですからねぇ。きっと優勝できちゃいますよ」
「あんまやる気でねぇなぁ。俺は適当に見てるからお前一人でやってこいよ」
「むー、私は浜田君がカッコよく推理するところが見たいんですよ。だからちゃんと本気でやってください」
「つってもなぁ」
「もし浜田君が手を抜いたら、私この人に誘拐されてるんですーって大声で叫びますよ」
「……全力でやります」
「よろしい! では、推理ゲーム会場へGO!」
腕を天高くつき上げ、音田は意気揚々と足を進めていく。その一歩後ろを溜息をつきながら追いかける浜田も、それなりに楽しんでいるのか表情が少しくだけている。……まあ、二人ともウサギの被りものをしているためお互い表情は全く見えていないのだけれど。