衣裳部屋
「じゃあ千里。まずはここで着替えを済ませよっか。すでに僕が千里に合うような洋服をチョイスしておいたから」
「おい待て礼人。ここ、明らかに女物の服しか用意されてないんだが? まさか俺に女装をしろとでも?」
「うん! 千里って目付きが鋭すぎるのを除けば結構かわいい顔つきだと思うんだよね。肌とか真っ白で潤いたっぷりだし、小顔だからウイッグつけて女ものの服を着れば簡単に化けられると思うんだよ」
「ふざけるな! 仮にそうだったとしてもどうして俺が女装なんて――」
「じゃあ僕はあっちの方見てくるから、着替え終わったら呼んでねー」
「おい、行くな! そもそも連絡を取ったとしてもこんな人が多い所のどこで集まれば――、ってなんだお前ら! やめろ、俺は女装なんてするつもりは――」
仮装会場内に李の悲鳴がこだまする。しかし、どこもかしこもお祭り騒ぎのこの会場においては、彼の叫び声もまた一種の余興として吸い込まれていくこととなる。
* * *
「謎だったな、さっきの何でも屋敷。見る人が見りゃ面白いシチュエーションだったのかもしれねぇが、アニメに疎い俺としては何がなんだかよく分からなかったわ」
「うーん、というよりもですよ。せっかく脅かそうとして現れた人たちが、皆浜田君の顔を見て逆に脅かされちゃってたのが問題だと思うんですよ。浜田君は根っこはいい人なのに、外見はヤク〇さんにしか見えないですからねぇ」
「顔は生まれつきなんだからしょうがねぇだろ。つうかお前の見た目が幼過ぎて、いつか誘拐犯と間違われないか冷や冷やしてるよ、俺は」
「むぅ! それこそ言わないでください。私だって好きでこんな見た目になったんじゃありません。理想としてはどんな男の人も一ころで落とせる悩殺ボインになりたかったんです」
「ああ、今のお前と真逆のタイプな。まあそう悲観すんな。お前みたいなのがタイプっていう男も世の中には多いらしいしな。つうかここに来てから仮装もしてないのにお前何度か写真頼まれてるし。ここでならお前お姫様になれるんじゃないのか」
「別に男性にモテたいわけではないからいいのです。あくまでスタイルとしての理想を語っただけですし。それよりまずは浜田君ですよ! いつまでもそんな素顔をさらしてないで、この場に相応しいもっと別の顔に挿げ替えましょう」
「言葉だけ聞いてるとなんかやべぇな。まあ、今日はお前に任せるって決めてるし、好きにしてくれ」
「では、あそこの着ぐるみコーナーからウサギさんの被り物を借りてきましょう。そろそろ女装コンテストも始まってしまいますし、ここは手早く動かないと」
「俺のがたいでウサギの被り物って、ますますやばくねぇか?」
浜田の呟きを無視して、音田は楽しそうに飛び跳ねながら着ぐるみコーナーへと向かって行った。