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帰り道

「はー、千里のお宝写真、後ちょっとでゲットできたのになー」

 帰りの電車の中、橘がそう呟くと、李は絶対零度の視線を彼に向けた。

「自業自得だろ。俺を女装コンテストに無理やり出場させた上に、そのまま放置して推理ゲームに参加してたんだ。言っとくが、後でお前が撮影した写真もすべて処分させてもらうからな」

「え! そ、それだけはどうかご勘弁を……。すごくよく取れた写真がいっぱいあるし、後で滝先生にも渡す予定になってるのに……」

「そんなことさせるわけないだろ。というか、多多岐の奴も一枚嚙んでやがったのか。今度何か頼みごとをされてもしばらくは無視で決定だな」

「な、それは不味いよ千里。千里の手助けが無かったら滝先生すぐにクビになっちゃうだろうし。せいぜい滝先生が大切に取っておいたお菓子を食べるぐらいにしとかないと」

「はぁ。生徒の手助けが無いとクビになる先生とか、いろいろと終わってるだろ。なんであんなのが教師になれたんだか」

「やっぱり人柄だよ。滝先生いろんな生徒から好かれてるし」

「俺は嫌いだけどな」

 にべもない李の発言に困惑した橘は、ポンと手を打つと話を推理大会へと戻した。

「あ、そうそう。今日の推理大会にさ、すっごく面白い人がいたんだよ。ウサギの被り物をした筋肉質な男の人でさ、小学生くらいの女の子と一緒にいたんだけど、いろいろ言うことが変わっててね」

「ああ、今お前からそいつの特徴を聞いただけですげぇやばい奴ってのは伝わってきたよ」

「いやまあ見た目はあれだったんだけど、とにかくすっごくてさ。推理大会なんて僕が本気出せば余裕だろと思ってたんだけど、彼が登場したせいで予想外に手間取っちゃったんだよ。そのウサギ男さんはね、一問目から推理大会を中止に追いやるような一手を打ってきて、その上で優勝するための策も考えついてたんだ。さすがの僕も一問目からあそこまで仕掛ける度胸はなかったし、その後の話の誘導もかなりスムーズ。久しぶりに僕も興奮して、彼には負けまいと張りきっちゃったよ」

「お前がそこまで言うなんて珍しいな。まあいくら仮装会場とは言えウサギの被り物を被っていたロリコン野郎と仲良くなりたいとは思わないが、少しだけ気になるな」

「うん、会えるならまた会いたいな。彼は僕が持ってないようなリスクを恐れぬ大胆さと、それをものにする実力の両方を兼ね備えてた。友達になってくれたらかなり頼もしい人になるだろうしね」

 きらきらと目を輝かせウサギ男について思いを馳せる橘。そんな彼の横顔を見ながら、李は小さく溜息をついた。

「……まあ、それはともかく。これだけ今日は俺に迷惑をかけたんだ。次は俺の行きたいところに付き合ってもらうぞ。もちろん勝手な行動は禁止、俺の言うことに絶対従うって条件でだ」

「それは全然構わないよ。千里と一緒だったら、どこに行っても楽しいだろうしね!」

「……今日は俺のことを放置して一人で楽しんでたくせに」

「ん、何か言った?」

「何でもない」



 *  *  *



「はー、今日は本当に疲れましたね。しかもこんなに荷物たくさんになっちゃいましたし」

「全くだ。まさか最後に乱入してきた女装男の『解なし』宣言を真に受けて、自身の推理を一切発表しなかった千夏(・・)が優勝になるとはな。本当に変わった会場だったわ」

 仮装会場からの帰り道。優勝賞品として貰ったたくさんの景品を両手に持ちながら、夕日に照らされた道を浜田と音田はゆっくりと歩いていた。

「それにしても黒ずくめさんはいったい何者だったんですかねぇ。浜田君の奸計を見事看破し、そのまま自分を優勝させようとする手腕。とてもただの一般人には思えませんでしたが。探偵か何かですかね?」

「さあな。あいつが普段何をやってるのかはどうでもいいよ。ただ、あいつは俺よりも優れてたってだけの話だ。俺もまだまだ修行が足りねぇな」

「まあ浜田君よりすごい人はいくらでもいると思いますよ。何といっても世界は広いですから」

 音田がそう言うと、二人はしばらくの間黙って歩き続けた。

 だが、すぐに沈黙に耐え切れなくなったのか、音田は浜田の顔を仰ぎ見ながら質問した。

「どうして、あんな無茶をしたんですか? 黒ずくめさんって言う強敵がいたからどうなっていたかは分かりませんが、浜田君の頭脳をもってすれば正攻法でも推理大会を優勝できたと思うんです。なのに、あんな反則になってもおかしくない方法で勝とうとするなんて」

「……優勝ってのは、たった一人の人物にのみ送られるもんだと思うんだよ」

「えっと、その通りだと思いますけど、それが何か?」

 ぼんやりとした表情で空を仰ぎながら、浜田は言う。

「だが、今回の推理大会においては、おそらく優勝者は複数出ることになっていた」

「え、そうなんですか!」

「おそらくな。問題の形式的に、誰か一人だけが優勝するようにはなっていないように思えたし、そもそも景品が多すぎた。俺と千夏の二人がかりでようやく持って帰れる量とか、明らかに誰か一人だけに与えるには過剰だろうよ。最終五問目まででほとんどの人を落とす予定だが、もし最後まで解けた奴が数人いればそいつらを同列優勝ってことで景品を山分けさせる気だ――と、俺は勘ぐったんだよ。真実が何かは知らねえがな」

「ほ、ほほう。まさか問題が始まる前からそこまで考えていたとは、浜田君本当に凄いですねぇ」

「俺はお前に対して全力でやると誓っちまった。だから、同列優勝なんかじゃなく、俺一人が優勝するような勝ち方をして見せたかった。それで見栄を張って危ない橋を渡ってみせたんだよ。ま、結果はお前を勝たせることこそできたものの、俺自身は見事に惨敗したわけだけどな」

 浜田の自嘲気味な一言を、音田は首を大きく横に振って否定する。

「そんなことありませんよ浜田君。最初こそ気が狂ってしまったのかと心配もしましたが、真相を知った今はただただ感謝の念しかありません。私のためにそこまで本気になってくれる人なんて、今までいませんでしたから」

「……別に、友人ならそれぐらい普通のことだろ。それより千夏と一緒にいると、俺一人でいるよりもいろいろと楽しそうな出来事に出会えそうだ。もしまたどこか行きたいとかあれば、遠慮することなく俺を誘えよ。次こそは、ちゃんとお前の期待に応えてみせるからよ」

「……はい、わかりました。約束します。また今度、とっておきの場所に浜田君を連れて行って差し上げます」

「おう、期待してるよ」

 穏やかな夕陽の元、しばらく頬を赤く染めていた二人。

 だが、そんな気恥ずかしげな沈黙は二人に似合わない。すぐに陽気で楽しげな会話が彼らの間を流れ始めたのだった。


如何だったでしょうか?

彼らは数年後、無月島と言われる場所で殺人ゲームに巻き込まれ、生き残るために共闘するわけですがそれはまた別のお話。もし今作を読んで興味を持たれた方は、是非この作品を含めた「無月島シリーズ」を読んでいただけると幸いです。

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