李の到着
今大会始まって以来の大歓声。
しばらくは鳴りやむことがないだろうと思われたその喧騒は、ある人物の乱入により一瞬で終わりを迎えた。
「ようやく見つけたぞ礼人おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!」
突如乱入してきたその人物は、この大歓声をはるかに凌駕する叫び声を上げながら黒ずくめに飛び蹴りをかました。
誰一人予想していなかったまさかの奇襲に、橘はなす術もなく吹き飛ばされる。だがその乱入者――もとい李千里の怒りはその程度で収まらず、地面に倒れ伏した橘を無理やり立たせると、がくがくと肩をゆすって罵詈雑言を浴びせかけた。
あまりの李の熱気(狂気?)に誰もが気圧され口を挟めないでいる。と、飛び蹴りにより意識を失いかけていた橘が何とか怒りを鎮めようと口を開いた。
「ちょ、ちょっといったん落ち着いてよ千里。どうしてそんなに怒ってるのかは知らないけど、他のお客さんの迷惑にもなってるしここは何とか抑えて――」
「はあ! 俺がどうして怒ってるのか知らないだと! お前は俺のこの格好を見てもまだそんなことが言えるのか! お前がさっさと迎えに来ないから俺はずっとこの格好でウロウロとお前を探すことになったんだぞ! しかも意味不明なことに俺が女装コンテストで準優勝に選ばれたおかげで、どこにいてもサインだ握手だとうっとうしい連中が付き従い、あげくの果てには――」
「わ、分かった! 僕が悪かったから少しだけ落ち着いて! 後ちょっとで僕が優勝ってことで推理大会が終わるから。そしたらちゃんと千里の言うこと全部聞くからもう少しだけま――」
「知るか! 俺は一刻も早く着替えてこの場所から立ち去りたいんだよ! 大体何が優勝だ。お前の持ってるその問題用紙、まだ一問目だろうが。どうして一問目を解いただけで優勝に成るんだ」
「いや、その、この一問目って実はすごい奥が深くて、いくつも正解になりそうな凄い回答が出てきてさ。それでたった今僕の推理が一番それっぽいかなーってなったところだったんだけど……」
「何言ってんだお前。これは推理大会なんだろ。だったら出てくる問題だって複数回答が作られるんじゃなくて、たった一つの解に絞り込めないとおかしいだろ。もし今の話が本当なら、その問題の正解は『解なし』だ。おら、そんなくだらない話をしてないで、さっさと帰るぞ」
「あ、ちょっと待って千里! 本当にお願い! あ、ちょ、僕がもらうはずだった千里のお宝写真が~~~」
首根っこを掴まれずるずると引きずられていく橘。
唖然とする参加者及びスタッフを残して、優勝候補はリタイアすることとなった。