幕間:会場のどっかにいる李千里の独り言
「はあはあ……。礼人の奴、ここにもいないか。何度連絡しても一向に返信が返ってこないし、あいつどこにいやがるんだ。まさか俺を置いて帰った? あいつのことだから何か他に夢中になるものが現れたとかで、すっかり俺のことを忘れている可能性はあるが、しかし……。そう、少なくとも女装大会に俺が出ていた時はあいつは間違いなくこの会場内にいた。こんなことを自分で言うのもあれだが、俺の女装姿に夢中になっていたはずなんだ。てっきり女装大会が終わったらすぐに俺の前に現れると思っていたんだが――いや、待て。そういえば俺が準優勝を取ったすぐ後、審査員の誰かが『今年の準優勝者は彼女か。なかなかいい景品になるだろう』などとほざいていた気が。あの時は苛立ちが限界突破していたせいで深く考えなかったが、景品? まさか俺の写真がどこかで使われようとしている? そして礼人はそのことを知った……?
可能性は、低くない。妙に俺の女装に拘っていた礼人のことだ、突如耳に入ったその情報に飛びついていくこともあるだろう。となると何か参加型の大会に出場している可能性が――って、またか! 何度も言っているが写真撮影は不許可だと言ってるだろ! 可愛いとか可愛くないとかの問題じゃない!
――いや、おい待て。いつの間にこんな行列になってるんだ……。は? 写真はいいから罵ってくれ? 黙れ、俺にはお前らを喜ばせる義務なんてない。……その冷たい視線と声が最高、だと? くそ、ここは地獄か何かか。ああもう、お前ら全員どけ! 俺には早く会わないといけない奴がいるんだよ。は、なんだ急に道を開けて? 思い人がいるならさっさとそいつのもとに行けだと? 別に思い人なんかじゃ――、ああもう面倒くさい! こんなところに連れてきやがって。礼人の奴、見つけ出したら絶対にぶっ飛ばしてやる!」
李は無数の声援に見送られながら、再び橘を探すために仮装会場を走り出した。