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本屋さんは引きこもり  作者: どるき


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13/23

本屋さんとチャラ男

 閉店間際の本屋さんに怪しげな男が入っていく。

 茶髪に染めて夜中だというのにサングラスをかけているその男はどこか不審だった。

 店に入るなり奥に進むと、レジの精算をしていた店主に男は話しかける。


「よっす!」

「あら、良男くんじゃない。珍しいわね」


 その様子を脇目に見ていたバイトの子らは男を白眼視したが、知人らしいとわかると警戒を解く。逆に言うなら初対面の彼らが警戒するほどに良男の纏う雰囲気はおかしかった。

 そしてそれは読子とて気付いているが、口には出さないでいた。


「たまたま近くに来たんすよ。そろそろメシの時間だし、ご一緒しましょうよ」

「残念ね。今日はろくなモノがないわよ」


 この茶渡良男は十数年前にこの店で働いていた元店員である。

 当時の彼は遊びほうけて授業もサボりがちの不良生徒である。博打狂いで仕送りやバイト代を使い果たし、読子の晩酌にたかることも多かった。

 彼が大学を辞めて以来の再会ではあるが彼が言う御一緒とは当然、読子の夕飯を恵んでもらうことに他ならない。


「ま、有り合わせで良ければ作ってあげますわよ」

「よっし。助かりますよ」


 読子は閉店作業もそこそこにバイト達を帰らせると、早速二人分の夕飯作りに入った。

 残った食材はツマミのジャーキーとチーズかまぼこ、それキャベツが半球ほど。ジャーキーとかまぼこを細切りにした読子は刻んだキャベツに油を通し、切ったそれらと合わせて炒め物を手軽く作る。

 味付けの主役はリーペリン、青椒肉絲に近い味わいである。


「こんなモノで良ければ食べていきなさいな」

「うまそう!」


 良男は図々しく、当然のように読子のコーヒー酒をくすねていた。読子は呆れているのもあって指摘せずにキャベツ炒めで飯を頂いた。

 茶碗のごはんを食べ終えて、そろそろ晩酌を始めようかと自分のコップにコーヒー酒を注ぐ。そして一息に飲み干すと、口から酒臭い息を吐きつつ良男に迫った。


「───っで、今日は何を企んでいるのかしら?」

「別に」

「嘘をおっしゃい。良男くんがウチに来るときは決まって何かを企んでいるときでしょうが」


 企むというのは主に夜這いである。

 当時の読子は彼氏を治療する代償で彼氏と別れたこともあって少しすさんでいた。そんな気の迷いから酔わせて寝込みを襲おうとやってきた目の前の毒蛇に体を許していた。

 良男は毎回気付かれずに襲えたと思い込んでいたが実際は読子の掌の上である。彼氏がいなくなって自分の発情癖に気付き、性欲の暴走に困っていたのもあって読子はペット代わりに彼を利用していたのだ。

 良男も自分を都合の良いはけ口代わりに思っていたようなので相子だと読子はずっと黙っていた。

 もし彼の目的がそれならば、最近たまり気味なのと過去の清算もかねて相手をしてあげるのもやぶさかではない。だが、彼の纏う空気はそんなチャチな悪戯を企んでいるのとは違うと読子に教えてくる。

 最悪の事態を考えて子供達は既に帰らせている。さて、何が出るかと読子は睨んだ。


「企むって……俺はただ久々の再開を……」

「いくら良男くんが非常識だと言ってもね、昔のキミとは見違えるほどにどす黒いオーラをしているわよ。もしかして、私を酔わせてその隙にお金でも盗もうとしたんじゃないかしら?」

「なんだよ急に!」

「だったらこれは何」


 読子はバンと机の上に一枚の紙を出した。

 それはノガミ大学からの連絡書で、良男が博打で大きな借金をして行方を眩ませたという知らせだった。

 読子は大学時代の良男にとって保護者のようなモノだった事もあり、学校がそれを知らせてきたわけだ。


「アナタのような根無し草には到底返せない借金ね。だからアナタが今生の別れのつもりで尋ねてきたのなら、今夜だけはアナタの相手をしてあげる。だけど───」


 別の目的があるのならそうはいかない。

 これは読子から良男への別れの言葉にも等しい。

 それにもし良男が強盗を企んでいるのなら人魚書店を守護る罪の世界の本がそれを許さない。良男の性格を考えれば生還するよりも管理者に処刑される方が早いかもしれない。


「店長───」


 良男は読子に言い寄られて顔を沈めた。

 もしかして言い過ぎたかなと読子は少し心配するが、それは思い過ごしだった。

 むしろ目の前の彼はかつて店員だった頃の呑む買う打つに現を抜かす遊び人としての心は残されていないようだ。


「うらぁ!」


 背中に隠し持っていた特殊警棒を抜いて良男は読子に殴りかかったのだ。

 側頭に傷が出来て赤い血が噴き出す。

 その返り血を浴びる良男は悪魔のような顔をしていた。その顔に、読子にもてあそばれている間は小汚いとはいえ天使のようだった過去の面影はもう無い。


「アンタが悪いんだ! 余計な勘ぐりをするから!」


 良男は何度も読子を殴りつけた。

 畳に血が染みて一般的な成人女性なら死を迎えているほどに失血している。

 この良男は遊び金欲しさで既に二人の人間に手をかけている。もはや彼は手遅れなのだ。


「死んじまったか? 持てるだけもってずらかるか」


 良男は読子が死んだと思い立ち上がる。

 そして戸棚にある金庫の鍵を持ち出して、先程入れたお金とその他のお金を持ち去らんと金庫を開ける。

 その扉を狂気の笑みで開けた良男はこの世を去った。


「これって」


 翌日、学食に集まっていた葵ら人魚書店のバイト達はテレビのニュースに驚いていた。

 なにせ昨夜の男が死体になって発見されたからだ。

 現場はノガミ大学近くのビルのふもとで、テレビでは借金を苦に自殺したのだろうと報道していた。


「あの人……死ぬ前に店長に会いに来たのかな」


 真相を知らない葵たちはそんな風に良男の死を美化するのも不思議ではなかった。

 GWでの滞在期間はわからないとはいえ良男が咎人殺しに処刑された頃、しこたま殴られて気絶していた読子は目を覚ました。

 普通なら死んでいるほどの怪我だが彼女の体は人ではなく願望機である。只人ならざる身である恩恵で数分間気を失っただけで傷もすっかり治っていた。

 畳の染みも体を治す際に血を回収したようで残っていない。残されたのは最後まで良男を見捨てきれなかった引きこもりの淑女一人である。


「正直に言ってくれれば協力してあげたのに」


 あまり多様すべきではないとは言え、彼のように行き詰まった人間の状況を打破するにはトリックは効果的だったであろう。

 段取りに拘りすぎたことが彼の最後に繋がったのかと読子は良男との別れを悲しんだ。

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