島と神社と出発と。
祐介が引っ越す島は本州から近く、日帰りで都内に帰れるくらいの距離にある。
しかも山もあり、海岸の近くには温泉も湧いている。
まあ台風とかで、船が行けなくなるといった事はあるが、基本的にお気楽な島生活である。
この島は、本州から近いこともあり最盛期で人口1万人を超えた時もあった。
そこには由緒ある神社などもあり、現在では年に数回、役所の人が来て管理をしている。
まあ今回、祐介が引っ越すにあたり、神社の管理を任されたりしている。
とはいえ、何も難しいことはない。
ここは島という特殊な環境下なこともあり、普通ならお墓というのはお寺にあるものだが、この島の神社にはお墓と神社が一体化されているのだ。
で、祐介の仕事は、お盆と彼岸に花を供えるというだけである。
ちなみに、掃除や草刈りは機械がしてくれる。
まあ花を供えるのも機械が出来ない訳ではないが、そこは人情で生きた人が毎年来て供えに来るようにしていたのだ。
今回、祐介が引っ越し話を持ってきたので、役所の人間が軽くお願いをして祐介が了承した感じである。
もしもだが、祐介に断られても役所の人は強制などしないとだけ言っておこう。
役所の人は断られたら花を供えた後に、釣りでもしようと軽く考えていた。
もう日本の人の考えは、全てこんな感じで趣味と遊びと仕事はイコールで繋がっているのだ。
ちなみにこの島への交通手段だが、基本自動操船で来る形である。
港に行って船に乗れば、一人でも行って帰って来れる仕組みだ。
常時5台の船があるが、月に数回使われるかどうかだ。
まあそのほとんどが釣りになっているが。
今回、祐介には専用の一台が貸し出されることになった。
とはいえ、専用も共用もないのだが。
そうそうこの船だが、実は潜水艦になったりすることも出来る。
台風や嵐の時に沈没しないように、潜水艦になる機能があるのだ。
実際、大きな台風が来たりすると、潜水艦にしていることがある。
その時は、リモコン操作で潜らせてるので人は陸地に避難している感じである。
少し話がずれた。
今回、祐介は島で四苦八苦しよう! と、今の日本人からは考えられない目標のもと、島で四苦八苦する為に自給自足をしようと考えていた。
そんな訳で、農業をする為に初心者でもお手軽に作れる農作物の種を用意していた。
この時代の農作物の種は、バイオ方面で研究されており、どんな荒れ地でも砂漠でも種を植えて少しの水を与えれば平均で一週間ほどで美味しく栄養満点な野菜や果物、穀物が出来るという優れものだ。
ただそんな万能な農作物の種で祐介の思っている四苦八苦の島生活が出来るかが大きな課題なのだが。
更に、収穫する為の機械まで貸し与えられているので、簡単に農作業は終わってしまいそうである。
だが、当の本人と役所の人間にとっては、食べ物は自動的に食卓にあがるものだと考えられており、現代の農家の人が聞いたら怒ってしまうようなことが、この世界の実態であったりする。
特別、祐介や役所の人間の考えがおかしい訳ではないとだけ言っておこう。
で、祐介の自給自足生活であと一つ、肉などあるがこの世界では加工肉という美味しい牛の細胞で作った美味しい部位だけ培養して食べるのが主流となっている。
生きた物を殺すのでなく殺す手間を省いて、美味しい部位だけを作ってしまおうという技術が確立されていたのだ。
そんな訳で、肉に関しては出来上がった加工肉を冷凍させ大量に冷凍庫に保管されることになった。
で、この技術に関してはマグロなどの高級魚などにも使用されており、この世界の海ではマグロが沢山いる。沢山いるが、この技術で見向きもされなくなったが。
いくつもの便利な技術やら道具を用意して、祐介は島で四苦八苦する為に準備を着々と整えていた。
そこには矛盾しかないが、周りも本人も至って大真面目なのだ。
そして、島に渡る日がやって来た。
祐介は、かなり仲良くなった役所の人たちに見送られて島に向かう船に飛び……そろりと乗船したのだった。