主人公と日本という国
───山際祐介、32歳。
この物語の主人公である。
容姿は、身長175cm、細マッチョである。
特にイケメンでもなければ、ブサイクでもない。
強いていえば、埋没してしまうようなあまり個性のない顔こそがその個性だろうか。
で性格というと、この時代に育った為か大らかな性格の持ち主である。
まあ特に競争社会などない世の中だから、ほとんどの日本人はこんな感じである。
時代劇でいうと、若様のようだと言えばお分かりであろう。
あまり裏表もなく、人に優しい時代だからこそ人をあまり疑わない、今の日本人よりも更にお人よしにした感じである。
ちなみに細マッチョの件だが、今の日本人はだいたいみんなこのような体形である。
特にスポーツを頑張ったとかいうわけではない。
管理された食事で、この体形を維持しているだけだ。
もうこの時代食事という概念は凝る人は凝るし、凝らない人は全くといって興味がないのだ。
彼は、興味のない方の側で、毎食をほとんど同じ味の固形物で済ませている。
とはいえ、その固形物も同じ味で飽きないように工夫をされているが。(味はかなり美味い)
で、彼も少し前までバーチャル人間だったが、ある日を境に変わったのだ。
彼が変わるキッカケとなった物は、バーチャル図書館で見つけた作品。
『異世界なんて怖くないかもしれない』
という昔あった『小説家になろう』でも上位にランクした伝説の作品に出会ったからだ。
───異世界。
何とも甘美な響き。
祐介は、過去に大航海時代に憧れた時があったのだ。
ところが地球には、もう冒険をして発見する場所など、どこにも残っていなかった。
もう隅々までデーターに記載され、冒険をして新たな物を発見する場所など、どこにもなかったのだ。
だから彼は、新たな新境地がありそうな異世界に夢をはせたのだ。
勿論、そんなの夢物語だと分かっている。
ただそれを想像するくらい許されてもいいだろう。
ところで、この世界の32歳というと。
特に日本に仕事などない。
ほとんど工業化で、それを管理するのも機械になっている。
そんな時代なので働きたい人だけ働けばいいということになっている。
働くこと=趣味
暇だから何かしようと働いているくらいなのだ。
別に働かなくても特に問題視されていない。
社会全体がある意味、みんなニートなのだ。
そんな祐介も趣味で少し前まで働いていたのだが、あの『異世界なんて怖くないかもしれない』の主人公が異世界の孤島に飛ばされて四苦八苦するのに心躍らせて、自分も四苦八苦したい! と、現代では考えられない思考で空いている無人島に引っ越すことにしたのだ。
引っ越すに辺り、役所に届け出を出すと生きていく為に必要なライフラインを作ってくれる。
まあ作るというか、昔に人が住んでいたので復旧させてくれるのだ。
電気・ガス・水など生活をする上で欠かせないものを支給してくれる。
あの物語では、そこが最も四苦八苦していた部分だが、引っ越すにあたりライフラインを整備しないと引っ越せないと法律で定められているから仕方ない。
人口の減った世界、特に日本では人というのが、とにかく大切にされているのだ。
で、今回引っ越す島は、まだ無人島になって十年くらいなので家が残っており、そこを整備して使うことになった。
しかも集落みたくなっており、家が二十軒ほどあり全て整備され、どこでも使用可能とのことだ。
その手配をしてくれた人たちは、完全に趣味で働いている人たちなので、珍しい依頼があると全員他のことをそっちのけで、必要以上に頑張るという平和な世界なのである。
そこに日本人特有のきめ細かなサービスまでセットされるのだから、あの小説にあったような四苦八苦をする部分などは、どこを探しても見つからない。
ちなみにだが、生活に必要な物はドローンを進化させた物が持ってきたりするので、さらに不便なところなど全くなってしまうのだ。
で、島を整備をお願いして半月後、役所からライフラインが出来上がったとの連絡を受け、その日、祐介は島に引っ越すことになった。
そしてそれが日本の新たな形を作るなど、その時誰も想像もしてなかった。