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絆の死滅

作者: 二本狐

 猫の死に敏感な方は推奨いたしません。本当にです! いくら私の文章能力が低いとしても、万が一の奥が一で推奨しませんので!! 敏感な方はおやめくださいまし!

 猫が死んだ。

 それはごくごく平凡なことだとまだ中学生になったばかりの少年は思った。命あるものは必ず詩を迎えるなんて達観した考えを持っており、冷たくなって二度と動くことのない猫はそれを身をもって教えてくれている。

 だけど、と。

 彼は頬にそっと触れる。

 そこにあったのは……ただ渇いたままの頬だった。

 飼っていた猫は少年が生まれたころに親がペットショップで買ってきたごくごく普通の猫だった。なぜ生まれたときに猫を飼ったのか、と両親の祖父母に言われるが、彼らは笑いながら「犬は遊び相手だとか友人になれるっていうが、猫は心の安らぎを得られる場所に常になりうるからだ」と言っていた。短い命の中で遊び相手や友人になるというよりも、子供に一番必要なのは心の安らぐ時間と癒しの時間であると考えたのだろう。

 常にそのことを聞いて育ってきた少年はそういうものだと思っていた。猫は家族を、そして自信を癒す存在なのだろう。

 そのような猫も、学校から帰ってきたら冷たくなってしまっていた。

 寿命は最長で二十歳。死んでもおかしくない。

 おかしいのは、自身だ。

 少年は……赤ん坊の頃より連れ添った猫の死に、まったく悲しいだとか辛いだという感情が一切生まれたなかったのだ。

 まして、泣きたいという気持ちすら。

 その少年の気持ちを汲み取った――実際にはくみとれていない――父親が、頭をくしゃりとなで、猫を軽々持ち上げて庭に向かった。見なくてもわかる。土に埋めるのだろう。

 少年はその土葬から目を背け、一目散に家から飛び出た。日没まで時間がある。それまでにこの気持ちをどうにかしなくては。

 ぐちゃぐちゃの気持ちが彼を無我夢中に走らせていた。

 死んでしまった猫。いつも一緒だというのが当たり前だった猫。その猫の死に対する感情。

 ああ、ああ、と。息を切らしながら走る。

 ――ぼくは、好きじゃななかったのか。

 すり寄ってくる猫が好きじゃなかった。おもちゃを出すとおずおずと近づいてくる猫が好きじゃなかった。抱きしめて眠ったり、勉強していると遊んでとよってくる猫が好きじゃなかった。

 好きじゃない。好きじゃない。好きじゃなかったんだ。

 だんだん沈みゆく思考の中、初めてずきりと胸が痛んだ。ハッと我に返り、汗だくになった額をぬぐって周りを見渡す。そこは、家から一番近い公園だった。まだ子供がちらほらいるが、日暮れが迫りほとんどが帰っている。少年は近くのベンチに座り、胸に手を当てる。

 そういえば、と胸のあたりから右手の甲のあたりをみる。胸にもだが、手の甲には小さなひっかき傷が残っていた。その傷を見て、昔を思い出す。

 小学生になったばかりの頃だ。まだ落ち着きがなく、今では鳴りを潜めたがかなりのやんちゃな子供だった。そんな時期に、猫はどんな態勢からでもきちんと着地ができることを知ったのだ。興味本位で無性に試したくなった少年は、家の二階から猫を落としてみようと計画を企てたのだ。猫の両足を持ち、逆さにして、投げ飛ばす。

 幼いながらも残酷なことをした、と少年の表情に苦笑が混じる。

 かくして、少年の計画は成功に終え、猫はどのような態勢からでも着地が可能であると立証ができた。

 しかし、その日の夜のことだ。満足していつもより早めに寝始めたとき、急に胸と手に痛みが走って飛び起きたのだ。そこで見たものは、爛々と輝かせた一対の目。爪なども出ており体に食い込んでいたが、ぼやけた目ではっきり覚えているのはそれだけであった。

 そのあと両親に猫と少年はこっぴどく怒られた。猫が勝手にお前を傷つけるわけがないと。お前にも何か理由があるんだろうと。猫は――だから。……――?

 少年はふとあの時の言葉に引っ掛かりを覚えた。猫は猫。しかし、両親はあの時何と言ったのだろうか?

 夕日から藍色に変わり、家路につく。少年は玄関を潜り抜け、両親がいるリビングに行くと、そこには少し無理をした笑みを浮かべる両親がいた。

 二人にとって、猫は?

 そのような問いかけをすると、両親は顔を見合わせ、口をそろえていった。

 猫は家族で、もう一人の子供だ。

 その言葉に少年は強い衝撃が走った。

 家族は、血がつながっていてはじめてなるもの。猫は猫で、犬は犬で。ただ餌を与えて、自分たちの家族に癒しを与えてくれる存在。

 そうではない。

 猫も自分たちの家族の一員だと。両親はそういっている。

 そういえば、と。両親も、自分も、猫にはご飯を与えると言っていて、餌を与えるとは言ったことがない。

 くるりと体を回転させる。

 家族。この言葉が少年の体に深く染みわたり、体の奥から熱いものがこみ上げる。

 家族が死んだ。

 猫という家族が死んだ。

 そう思うことで、少年は涙を流し、静かに猫の死を悼んだ。


 お読みいただきありがとうございます。


 おさらい:家族の死と絆は切ってもきれないもの。絆の認識がまず大事。


 ほかの短編小説で感想が滞っているのがつらい……。

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