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仕事部!  作者: 豆ケ浦
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追い立てられる文芸部(6)

 ビラを置き、鞄を持って教室に向かう。

「何なのよ、一体! 会長だからって横暴なんよ」

 都が不平を並べるのを、芽衣子は黙って聞いていた。

「困ったわねえ」

 都の言葉が切れたところで、そうつぶやく。

「落ち着いて困っている場合じゃないよ」

「そうだけど、規則じゃ仕方ないわ」

「あんな規則なんて」

「でも、決まっているのだからねえ」

 都は不満そうにうめいてそれ以上言わない。

 教室の前についた。

「じゃあ、あとでね。ギシさん」

「うん」

 手を振って別れる。

 芽衣子と都は、芽衣子にとっては残念なことに、同じクラスではない。隣のクラスである。

 一年生の時は同じクラスだったのだが二年生になる時に、同じ文系を選んで同じ選択科目を選んだにもかかわらず、クラスが違ってしまったのだ。

 芽衣子はショックを受けたが、最近はそれでも慣れてきた。

「おはよう」

 隣の席の郁奈が声をかけてくる。話をするとサイドポニーの髪がふるふると揺れる人である。

「おはよう、郁奈」

「芽衣子、都は何かあったの?」

 教室の前で不満顔をして別れた都のことを見ていたらしい。

「ちょっとね、部の勧誘のことで生徒会とトラブルになって」

「部の勧誘って、今頃?」

「それが、二週間後までに部員が五人にならないと部室を追い出すと、昨日言われてしまったのよ」

「いきなりだねえ」

「でしょう? それでさっき勧誘のビラを配ったら会長につかまったの」

「え、なんで?」

「ビラ配りは校則で禁止されているのよ」

「あー、そう言えば先輩がそんなこと言っていたわ」

「なんで、そんな校則があるのかしらねえ」

「紙が散らばってきたなくなるからじゃない?」

 やっぱりそういうことだろうか、と芽衣子は会長の言葉を思い返しながらうなずく。

「それで、ギシさんはむくれていたのよ」

「なるほどねえ。でも、なんで芽衣子はむくれていないわけ?」

 意外な言葉に郁奈の顔を見返す。

「私だって怒っているわよ」

「そうは見えないよ。なんだか普通の顔をしている」

 芽衣子は頬に手を当てて首をかしげた。

「そう?」

「うん、普通。っていうか、芽衣子が怒ることがあるっていうのが不思議」

「私だって、人並みに感情を持ち合わせているわよ」

「うーん、でもそうは見えないのよね。いつもにこにこしている感じだから」

 確かに、と芽衣子は思った。よく言われるのだ。いつも表情が変わらないとか静かで感情がわからないとか、自分ではけっこう感情的になる方だと思っているのに、他人の目にうつる姿は違うらしい。

「そう言われることが不思議よ」

「大人っぽく見えるというのかな。落ち着いているというか。もしかして腹黒いとか?」

「ひどいこと言うわね」

 眉根を寄せて抗議してみせる。しかし

「ほら、そう言われても困った顔しかしない。怒った顔が想像がつかないよ」

 と、言われてしまった。

「私、怒っているのだけど?」

「ごめんごめん。ビラのことだけど、ポスターとして掲示板に貼ったらどう?」

「掲示板……。あ、そうね」

 なんでそれに気がつかなかったのかと芽衣子は自分にあきれた。よほどの視野狭窄に陥っていたとしか思えない。

「うちの部も貼っているし、貼るのには風紀委員会の許可だけで大丈夫だから生徒会の顔を見なくて済むよ」

「風紀委員会から却下されることはないの?」

「ないって。よほどふざけた内容でもないと。このあいだの漫画研究同好会の勧誘ポスターを見たでしょ。あんなのでも通るんだから」

 それは芽衣子も見た。男同士が上半身裸で絡み合っている若干卑猥なものを感じさせるポスターだった。

 あれに較べれば、大抵のものがOKだろう。

「そうね」芽衣子はうなずきながら、ふと思いついて言ってみた。「郁奈はうちの部に入る気はない?」

「私、美術部だよ?」

 それは芽衣子も知っている。何より例の勧誘ポスターうちの一枚は郁奈の作品だ。それの感想をこの前言ったばかりだ。

「でも、美術部やめて、うちに来てもいいのよ」

 この学校は部に所属するには教師の許可が必要で、複数の部に所属するのは禁止されている。勉学に影響が出るといけないからという理由らしい。

「無理言わないでよ。私は絵が描きたいんだから。今だって美術展に出す絵を描いている所なんだから」

「そうなのね。どんな絵を描いているの?」

 そこから郁奈の絵についての説明が始まった。

 芽衣子は話にうなずきながら、ポスターの図柄をどうしようか思案していた。

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